[概要] 永江の一族は雷が鳴ると「私は永江だぞ!」と大声で叫ぶ。これは彼らの先祖が、空を泳ぐ魚と交わした約束に端を持つ。
ある大嵐の翌日、ある男が山を歩いていると、山腹にある湖のほとりに怪魚が打ち上げられていた。6尺もあろうかという背びれが赤いその怪魚は、「私は天界で雷を司る職に就いています。昨晩の嵐の折、誤って雷と共に地上へ落ちてしまいました。」と告げ、助けてほしいと話した。 それを聞いた男は、怪魚を背負って自宅へ連れ帰ると、「どうすればいいか?」と尋ねた。怪魚は「山の上に小屋を建て、そこに私を一晩おいてください。そうすれば私は天に帰れます。その際、決して小屋の中を見ないでください」と告げた。男が言われたとおりに小屋を建てると、今度は「疲れを癒すために、食べ物が必要です。小屋の前に台を置いてその上に鳥を置いてください。」と言った。 男は自身の飼っていた鶏を台の上に置き、怪魚の言うとおりにした。すると怪魚は礼を一つ言うと、小屋の中へ入ってしまった。ちょうど日が傾き始めたので、言いつけ通り男は自宅へと戻ったという。 翌日、男が小屋の中を覗いてみると、怪魚の姿は何処にもなかった。小屋の前に置いた鶏も姿を消して、代わりに台の上には「助けていただきありがとうございます。お礼に今後あなたには雷を落とさないようにします。雷が鳴った時は、『私は永江だ』と伝えてください」と書かれた手紙が置いてあった。これ以降、どれだけ激しい雷雨の時でも男が空に向かって「私は永江だ!」と叫ぶと、不思議と雷が止むようになったという。 その様子を見た周りの者がその男を永江と呼ぶようになり、いつの頃か、男も自らをそう名乗るようになった。現在村に暮らす永江の一族は、全員この男の子孫である。それゆえ彼らは今でも雷鳴を聞くと「私は永江だぞ!」と口々に叫ぶという。 |