Coolier - 新生・東方創想話

私が生まれたときのこと

2022/04/03 22:16:07
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え?私が奇跡を扱えるようになった経緯ですか?……いや、別に話したくないって訳じゃないですけど。面白味なんて全くないですよ?
はあ、そうですか。いいですよ。ほら上がってください、お茶をお出しするので。


たぶん皆さん勘違いしていらっしゃると思うんですけど、私のこの能力って生まれつきではないんです。三歳になった直後、なので春先ですね。その時に授かった物なんです。
私の生まれ育った実家っていうのが、もともと民間信仰の宗家で。その長女が私なんです。でも私が生まれたときって、実家の稼業が凋落の最中にあったんですよ。あなたもご存知ですよね、1995年のあの事件を。
まあ、私はあの事件の少し前に生まれたのですが(笑) どうやら産み落とされた時点で素質があったみたいで、当時の両親や親族は大層喜んだみたいですよ。

「生まれてきてくれてありがとう」って

こんな言葉を実の娘に対して口にできるなんて、私の両親も相当アレですよね。
まあそんなこともあって、私が実家を継ぐこと前提で色々と調整していたみたいです。
それで、3歳になりました。ある朝いつも通りに居間へ向かうと、両親に言われたんです。
「今日は神様に会いに行くよ」と
今思い返すと、少し前から両親がそわそわしていたんです。きっと緊張していたんだと思います。あるいは楽しみに?そんなこんなで朝ご飯を食べたらすぐ、両親に手を引かれて神社に向かいました。
神社に着くと、既に神主さんや他の親戚の皆さんが待機していました。たぶん朝7時くらいだったと思うんですけど、皆さん本当に早起きですよね(笑)

神社の本殿に通された私は、まず顔に塩水を掛けられました。といっても、顔に塗ると言った方が正しいですね。神主さんが、塩水で濡らした手で私の顔を撫でるんです。そのあとお神酒を飲まされました。こっちに来て気が付いたんですけど、あの時飲まされたお神酒って結構度数が高めだと思うんです(笑) すごいツーンってしたので(笑)
それで、白い袴に着替えた後、神主さんに連れられて神域に向かいました。もちろん両親も一緒ですよ。あ、神域っていうのは神社の裏山の事ですね。神様がいる聖なる空間です。
神域の入口について、神主さんに言われました。
「この門の先に洞窟があるから、早苗ちゃんはこれからそこに一人で行くんだよ」って。
神社の裏山って言っても、やっぱりそれなりに広いわけですよ。そんなところに3歳の幼児を一人で行かせるなんて、いくらなんでもやりすぎだと思いません?まあ当時の私はワクワクしてたんですけど(笑)中に入ってはいけないとキツく言われていたので、冒険気分でしたね。
でも、門の先に一歩踏み入れたときはとても怖かったですね。子どもながらにわかるんですよ、空気が変わったことに。心細くなって、門の外に待つ両親のもとに逃げようと思ったんですけど、後ろを振り向くと既に門は閉ざされていて。家に帰りたい一心で、神域の奥に歩いていきました。
一応、道はあるんです。道と行っても、踏み固められて黄色くなっただけの地面ですが。でも、誰が踏み固めてるんでしょうね、普段は禁足地なはずなんですよ。
で、ここから不思議なことが起き始めました。その道を辿る形で雑木林の中に進んでいくと、段々と草木が青々と茂り始めたんです。あの日は間違いなく春だったのに、神域の奥に進むにつれてセミが鳴き始めたんです。ミーンミーンと。すっごいうるさくて、小走りになったことを覚えています。そうして歩いていると、セミの鳴き声は聞こえなくなりました。
でも、代わりに道の両側に生える木々はどれも真っ赤に紅葉していました。さっきのセミの声もおかしいですけど、あれはまだ幻聴という可能性がありますよね。でも紅葉してるのは、明らかに異常なんですよ!
この時、はっきり自覚しました。今いる場所は、異界なのだと。
ただ、引き返しても神域から出ることは出来ません。仕方なく足を進めました。
いつしか真っ赤な雑木林が銀杏並木に変わった頃、私と並行する形で歩くウサギの姿が目に入ったんです。私が挨拶をすると、そのウサギはどこかへ行ってしまいました。そのあと、同じようにイノシシとシカが現れては姿を消しました。桃太郎みたいで面白いですよね(笑)

そして、林が急に開けました。そこには地肌が露出した崖があって、丸い口のような洞窟の入口がありました。しかも、その洞窟の周りには雪が積もってたんです。振り向けば紅葉、目の前には積雪。さらに追い打ちをかけるように、空も陰り始めました。いつの間にか空は夕日に染まっていて、あたりも薄暗いんです。私が神域に入ったのは朝の9時くらいだったので、こんなに早く陽が落ちるなんて絶対にありえないのに。
もうだめでした。繰り返し起こる異常な出来事を前に、私は泣きました。洞窟の前で、雪で真っ白な道の上で。怖いよ、ママに会いたい、誰か助けて、と。喉が張り裂けんばかりに泣き叫びました。
でも、孤独に震える私を優しく包み込んでくれたのは、両親ではありませんでした。
気が付くと、さっき森の中であいさつした動物たちが、私の周りに立っていました。ウサギが、イノシシが、シカが、みんなが私に寄り添ってくれました。不思議と獣臭さは感じず、毛皮の奥には確かな命のぬくもりを感じました。
その時にはもう、私の心は落ち着いています。そして、彼らと共に洞窟の中へと入っていきました。
私が洞窟に足を踏み入れた時は、もう洞窟の内と外の区別がつかないくらい真っ暗でした。ただ、なぜか足下が見えるんです。明かりもないのに、何かに照らされたかのように。
そうして動物たちと歩いているうちに、私はウサギの姿が見えないことに気が付きました。どうやら奥に進むにつれて、動物たちは私の元から離れて行くようです。出会ったときと同じ順番で立ち去る動物たち。ふと、シカが居なくなったことに気が付いたとき、私は洞窟の最奥にたどり着いていました。
そこは特に広間があるわけでもなく、ただの行き止まりでした。唯一違う点は、行く手が壁であることと、四角形を描くように柱が立てられていることでした。それは、私の故郷の神社で一般的に見られるものでした。いわゆる御柱とそっくりな柱が、そこにはありました。
だからきっと神聖な場所だと思いました。ただ、もう先に進むことはできません。ここが神主さんの言う洞窟の奥なのだと判断した私は、皆の待つ神域の外へ戻ろうとしました。

でも、その時見てしまったんです。柱に囲まれた空間の中、そこにカエルが居ることに。その空間の外に白い蛇がいることに。
私は幼い頃より、自分のご先祖様がカエルであることと、白い蛇が神様の使いであることを親から教えられて育ちました。だから、ご先祖様と神様の使いは近くに居てほしいと、そう思い白い蛇を柱の内側に入れてあげました。
その蛇がカエルを捕食し始めるまで、10秒はかからなかったと思います。私の善意はカエルの命を奪いました。白い蛇はまず、その小さな口にカエルの左後ろ脚を頬張り始めました。
このままでは、ご先祖様が食べられてしまう。そう感じた私は、カエルを助けるため駆けだそうとします。でも、私の左足は鉛のように重く、全く動いてくれません。
そうしていると、白い蛇はカエルの右後ろ脚を呑み込み始めます。すると、今度は右足が動かなくなりました。捕食されるカエルと、その姿を眺めるしかできない私。
やがて白い蛇はカエルの胴体を呑み込み、両前脚を呑み込み、最後に顔をその口に収めると、最後に口元を舌でペロリと一なめずりしました。それと同時に、私も意識を失いました。

次に気が付いたとき、私は洞窟の中でうつぶせに倒れていました。相変わらず体は動かず、五感は聴覚と嗅覚しか働きません。すると、私の両側から声が聞こえてきました。
「ねえこの子どうするの」
「あんたの子孫でしょうが。あんたが何とかしてよ」
怖くなった私は「誰ですか?」と声に向かって問いかけました。
すると声の主は「私はあなたのご先祖様。こいつは私のライバル」と教えてくれました。
この時、相変わらず声しか聞こえませんでしたが、声の主はカエルと白い蛇であると、私は直感的に感じました。
それでも、さっきの光景を見るに、自身の身が不安になります。
「私を食べるんですか?」
「食べないよ。逃げなかったあなたにご褒美を上げるんだ」
その時、洞窟の中を一陣の風が駆け抜けました。今いる場所は洞窟の最奥で、そんな突風が発生しようが無いことは私にもわかりました。でもその風はとても強く、私は吹き飛ばされそうになります。
その体を、見えない誰かが抱きしめてくれました。私を抱きしめる誰かの腕は、とても細く頼りないように見えて、しかし私をその場に繋ぎとめてくれました。
やがて風は止みました。しかし、腕は一向に私を放そうとしません。明かりが一切ない、一寸先も見えない完全な闇。そんな場所で、何者かに抱き上げられる私。
この状況に困惑していると「これであなたは私たちと一緒。いつでも私たちの力を使えるよ」と声が聞こえました。
続いて「ここでの出来事は誰にも話しちゃいけないよ」と、誰かが言います。
「はい!ここで見たりしたことは誰にも言いません」
そう言葉を返すと、途端に耐え難い眠りに襲われました。

そうして気が付くと、私は外と内を分かつ門の前にいました。門を押して外へ出ると、そこには神社の人が一人でいました。私を見送ってくれたみんなはいません。
「ママはどこ?」
後ろからそう訊ねたときの、あの男性の顔は忘れられないです。心底驚いてたんですもん(笑)
そのあと、男性に連れられて神社に戻りました。そこには神主さんと両親が待っていて、両親は私の姿を見た瞬間、涙を流しながら抱き着いてきました。もちろん、私も泣きじゃくりましたよ(笑)
それからは忙しかったです。なぜかボロボロになっていた袴を脱いで、なぜか全身にできた無数の切り傷を治療してもらいました。あとその最中に気が付いたんですけど、社務所のカレンダーは私が神域に入ってから1か月後のページだったんです。つまり、私は一人で神域の中を1か月も彷徨っていたことになります。もう意味わかんないですよね。
あともう一つ。私が神域から帰還したあと、一週間くらいですかね?徐々に私の髪色が緑に変わっていきました。これ地毛じゃないんですよ、意外でしょ?
そして髪の色が緑に落ち着いた頃から、私は奇跡を行使できるようになったんです。


これで話はおしまいです。どうでした?
はい、そうです。洞窟の中で出会った声の主は、もちろん諏訪子様と神奈子様ですよ。
二人からはどう見えていたか?そうですね、こっちに来てから伺ってみたところ、やっぱりお二柱にとっても久々なことだったらしいです。洞窟の奥まで来ることは稀で、ほとんどは林の中で倒れてそのままみたいです(笑)
こんな感じです。どうですか、大して面白くなかったでしょう?
あ、そういえばあなたも不思議な力を持ってるんですよね?どうやって超能力を手に入れたんですか?董子さんは!
3月7日に投稿しようとして忘れていたものです。
早苗さんの話なんだから、上社前宮の御室社で行われていた神事を取り入れてもよかった気はします。いつか書きたいです。
よー
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コメント



0.40簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
3.100サク_ウマ削除
最後のでちょっと意表を突かれました。一気に文脈が生まれてて良かったです
5.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。素敵な過去話でした。
6.90めそふ削除
面白かったです。最後、菫子に語りかけている描写が良かったです
7.100南条削除
面白かったです
話し方に早苗の悪い所がとてもよく出ていて素晴らしかったです
幼いころに不思議な体験をしたという話なのにどうしてこんなに軽く話すのか
8.80名前が無い程度の能力削除
おちゃらけた雰囲気の早苗さん好きです