Coolier - 新生・東方創想話

手足、目と鼻をいびる

2021/10/06 22:08:57
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時刻は午前4時。東の空が明るみ始めたころ、妖怪の山にある白狼天狗の宿舎に動く人影がひとつ。一升瓶片手に足元で雑魚寝する同僚たち。彼女たちの安眠を妨げぬよう、抜き足差し足忍び足といった具合で、目をこらしてわずかな隙間を探す人影。その影の主を、犬走椛という。歩哨に向かうべく、友に先駆けて寝床を出た彼女の顔は、暖かな布団の温もりが忘れられないように見える。


襖を開けて廊下に出ると、冷えた朝の空気に身が震える。布団を恋しがる全身の筋肉という筋肉を説得しながら洗面台へとやってきた彼女は、新たな冷感の訪れを察した目と鼻を気の毒に思いつつ、並々と水の貯まった水瓶に柄杓を浸け、引き上げた。柄杓からこぼれ落ちる水を見て、これ幸いと胸を撫で下ろした目玉と鼻は、なんて気の毒なのだろう。直後に浴びせられた湧水の冷たさに凍え硬直してしまった。我々は、悪いことの後に良いことがあると、それが普段は気にも止めないような些細なことであっても、まるで宝くじの一等が当選したような気持ちになることがある。しかし、一度その順番が逆転すると、今度は非常な高級品を二束三文で買い叩かれてしまったような、そんな気持ちになってしまう。これは犬走椛の目や鼻も同様の反応を示すことがわかっており、つまりいま彼女の顔面の真ん中と上部では、上げて下げるような主人の行動に対して壮絶なボイコットが行われているのであった。しかし、そんな哀れな部位達の雇い主である犬走椛は当然そんな抗議への対処法を心得ているらしく、肩を組みスクラムを形成する目と鼻を気にも止めずに今度はガラスの小瓶を手に取った。


ところで、目と鼻は彼女に反抗的であることは一目瞭然ではあるが、それとは対称的にとても協力的な部位もある。それが両手指であり、また足先でもある。どこまでも従属的な彼らは主人の一挙手一投足を円滑なものにし、先ほど手に取った小瓶の蓋をいとも容易く回し開けて見せた。その小瓶には「保湿液」というラベルが貼ってある。この液体の主成分はドクダミを絞った汁であり、これは顔や手指といった乾燥しやすい部分に塗り広げることで、潤いの蒸発を防ぐ効果があると言われている。理由は不明であるが、彼女の目や鼻は、このエキスが自身の周囲に塗り込まれると途端に抗議のための集会を解散してしまう。数十年前このことを同僚の白狼天狗から聞いた犬走椛は、その翌朝に実行してみて以来、それまで目と鼻に妨げられていた哨戒任務がスムーズに行えるようになったことを、仲間たちに報告している姿を目撃されている。果たして今回もその効能は、目と鼻によるスクラムを解消させ、忠実なしもべたる両手の指先へと恩恵をもたらした。


毎朝のルーティンを終わらせた犬走椛の顔には、先ほどまであった布団への愛着はひと欠片もない。宿舎を飛び出し、己を待ち望む同僚の元へと向かう犬走椛。その千里眼には、歩哨中にも関わらず船をこぐ同僚の姿が映る。木々の合間を飛び交い疾走する彼女の腹は、早くも空腹を訴え始めていた。
数文字で説明できることを、あえて回りくどく、言葉をこねくり回して書こうとしました。読みにくくてすみません。
よー
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
2.100名前が無い程度の能力削除
挑戦的で素敵でした。
3.100夏後冬前削除
スルスルと文章が読めて楽しかったです。
4.90ガニメデ削除
さっぱりとした空気感が好きです。冬の空気や体の動きなんかがしっかりと描写されていて、短いながら読み応えがありました。
5.100水十九石削除
喉越し爽やかに軽やかに読み込める朝のワンシーンの切り取り方だったと思います。
良かったです。