Coolier - 新生・東方創想話

誤解されたAnnual events

2022/08/11 23:22:26
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「……い……かん……よ」
ひぐらしの合唱のなかに、誰かの声が聞こえる。
「お…い……かんだ……よ」
声の高さからして、女性だろう。それも若い女性。女の子。

「おーい、時間だよー」


気が付いたときには日が傾き始めていた。どうやら眠ってしまっていたらしい。横を見ると、おばあちゃんがくれたスイカが畳の上に倒れている。眠っている間に倒してしまったのだろう。
ぼくはいま、父親の実家に帰省している。新幹線(といっても各駅停車しか止まらない)を降りて、車で2時間ほど走った場所にある、山深い集落。山塊の一番端にある小山、その裾野に寄り添ういくつかの台地。そのうちのひとつが、ぼくの父親が産声を上げた土地だ。
車を降りたぼくは、とにかく驚いた。なぜならそこにあったものは、「田舎のおばあちゃんの家」と聞いて思い浮かべる景色そのものだったからだ。平成も終わりが見えてきたこの時代に、昭和の雰囲気を纏う土地が残されていたとは。

「おーい、もうお家に帰る時間だよー」

はやく家に帰りたい。
この集落には、子どもがいなかった。道を歩いていても、出会う人はみんなおじいさんかおばあさんで、一番若い人は駐在さんだ。しかも、おばあちゃんの家にはパソコンが無かった。
もちろんWi-Fiなんてものはない。
したがって、ぼくはひとりでボーっとしていた。

「ほら、もう時間だよ?出ておいでー」

だからだろう。さっきから聞こえる女の子の声に、無性に惹かれていた。
昨日、おじいちゃんは「この村にこどもはいない」と言っていた。ということは、この声の主も両親と一緒に帰省してきたのだろう。そして、弟や妹を連れて、家の周りを散策していたに違いない。つまり、女の子は友達候補だ。
そうと決まればやることはひとつ。ぼくは縁側から下り、生垣に隠れた声の主へと歩き始めた。
スイカには、アリが集っている。


「あ、ようやく出てきた。もう遅いってばー」
門扉をくぐり外に出ると、予想通り女の子がいた。ぼくより少し年上か、同じくらい。しかし、彼女の服装は予想の斜め上を行くものだ。ワンピースなのだろうか、白と薄赤を基調にした服に、ドット模様が入っている。何より目を引くのは、その袖にヒラヒラと舞う赤い紐だ。どことなく、クラゲを連想する。
「ちょっと、聞いてるの?ほら、次のお家に行くよ」
「あの、どこに行くんですか?」
そう声をかけると、女の子の顔色が変わった。当然の疑問を訪ねただけなのだが、なにか悪いことを言ってしまったのだろうか。
「そういえばあなた、蓮の葉っぱはどうしたの?」
「蓮の葉っぱ、ですか。持っていませんが…もしかして、何か決まりがあったんですか?」
こういう田舎には、都会にはない風習が残っているという。もしかしたら無意識に破っていたのかもしれない。しかし、それを聞いた女の子は一転して穏やかな顔になった。
「そっかそっか…そうだよね。楽しかったんだもんね。それは仕方ないよ」
そして、何かに納得したような口ぶりになり、そのまま言葉をつづけた。
「あのね、君。わたし面白い場所を知っているんだけど、一緒に行かない?」
「大丈夫。全然怖くないし、お友達もたくさんいるよ。ここよりも、もーっと楽しい場所だよ」
「遠足もあるし、運動会もある。他にもいろんなレクリエーションがあるんだから」
ふふん、と胸を張るお姉さん。そこまでいわれると、少し興味が湧いてくる。
「あ、あの!ぼく夜になったら家から出ちゃいけないって言われているんです」
「お姉さんの言う楽しい場所って、暗くなる前に帰ってこれますか?」
すると、お姉さんの顔がとたんに明るくなった。ぼくの手を握りながら、嬉しそうに顔を近づけてくる。
「もちろん!すぐそこにあるからね!ほら、じゃあ行こうか!」
言うや否や、ぼくの手を握ったままお姉さんが歩き始めた。あまりの勢いに躓きそうになりながらも、お姉さんの歩幅に合わせて歩き出そうとしたその時。

「渡!どこに行くんだ!!」

突然、家の中から怒鳴り声が聞こえた。
ひぐらしが、鳴き止んでいる。
「どうしたの?早く行こうよ」
足を止めたぼくに気が付いたのか、お姉さんが訊ねてくる。逆光のせいで顔が真っ黒に見えた。
「あ、これを渡していなかったね。はい」
お姉さんが右手を差し出してくる。その手には、蓮の葉っぱが握られていた。
「これ、どうすればいいの?瓔花ちゃんのこと、おじいちゃんに紹介したい」
「それを傘みたいに頭にかぶるんだよ。そうしないと楽しい場所に行けないからね」
にっこりと微笑む瓔花ちゃん。さっきと変わらず表情は伺えないのに、なぜか笑っているとわかった。
おじいちゃんには、紹介できない気がした。
諦めて、瓔花ちゃんに言われるがまま蓮の葉っぱを頭に載せようとする。
「そう。そうすれば楽しい場所に行けるよ。君も私たちの仲間入り」
蓮の葉を両手に持ち、頭の上に翳す。これを添えればぼくも仲間になれるんだ。

「渡!!聞いているのか渡!」
突然、耳元で怒声が発せられた。次いで、ものすごい勢いで肩を掴まれ、背後に引き倒される。
「じいじ」
おじいちゃんだった。お酒を飲んだ後よりも、顔が真っ赤なおじいちゃん。しかも、その瞳には鬼気迫るものが込められている。どうしたんだろう。
「渡!お前、いま誰と話していた!」
「え、瓔花ちゃん、だけど。おじいちゃんには見えないの?」
おじいちゃんの真っ赤な顔が、サーと青白くなっていく。その視線の先には、蓮の葉っぱがある。
「渡。お前、その葉っぱは頭に載せたのか?」
「まだ、載せていないけど…ね?」
同意を求めようと、瓔花ちゃんの顔を見る。
「うん。まだ被ってないよ」
だけど、瓔花ちゃんはとても悲しそうだった。悲しみだけじゃなくて、後悔や慚愧の念がこもっていた。
「あの、ごめんなさい。私、気が付かなくて」
今にも泣きだしそうな声で、瓔花ちゃんが言葉を投げかける。意味は分からなかったけど、おじいちゃんに向けられた謝罪の言葉であることは、なんとなくわかった。
「家に帰るぞ」
おじいちゃんは、瓔花ちゃんに返事をしない。有無を言わさぬ雰囲気で、ぼくに手は引かれて行く。今度は、家の中へと。半ば引きずられる形で連れ戻されながら、ぼくは瓔花ちゃんの方を振り向いた。二度と会えない予感がしたから。
瓔花ちゃんは、そこにいなかった。



家に上がる時に見えたスイカは真っ黒に黒ずんでいて、腐っているように見えた。
家に帰ると、おばあちゃんがお風呂の用意をしてくれていた。おじいちゃんに体を洗ってもらった後、夜ご飯を食べた。そして、お父さんとお母さんに手を繋がれながら、どこかへと連絡を取るおじいちゃんや叔父さんの姿を眺めていた。

「渡。あれがなんだかわかるか」
そして今、ぼくはおじいちゃんに連れられて近所の小川へとやってきている。
おじいちゃんの指さす先には、20cmくらいの木彫りの舟がいくつかと草で編まれた舟が、水面に浮かんでいた。
「なに、あれ」
「渡は、あの山の上に何があるか知ってるか?」
集落の背後にそびえる山を指さして、おじいちゃんは問う。しかし、ぼくは知らなかった。
「あの山には、ご先祖様が暮らしている。それで、毎年お盆になると、そこから村に下りてくるってわけだ」
「じいじのお父さんもあそこにいるの?」
「そうだなぁ、じいじのお父さんはまだいないかな。でも、あと少しであそこに行くかもな」
ガハハ、と豪快に笑うおじいちゃん。でも、どうしておじいちゃんのお父さんは山にいないんだろう。
「お、渡。舟を見てみろ」
次の質問を考えていたら、おじいちゃんが声を上げた。それにつられて舟に目を向ける。すると
「あ、動いてる」
先ほどまで、ゆらゆらと揺らめいていたはずの舟が、じわじわと動き始めていた。
上流に向けて。
「あれ、上に向かってるよ」
草で編まれた舟を先頭に、舟たちは上流へと舳先を向けて動き始める。その川は、スイカが流されてしまう程度の流れがある。そんな流れをものともせずに、舟団は川をさかのぼっていく。
あの舟はな。山の上に戻るご先祖様が乗っているんだ。だから、水の流れに逆らうなんてことが起きるんだ。
ご先祖様が漕いでるからな。
あの草舟には誰が乗っているかわかるか?
あの舟にはな、お前がさっき話していた女の子が乗っているんだ。たぶん、女の子だったよな?
実はな、じいじもあの子にあったことがあるんだ。お前と同じくらいの時に。それで、さっきの渡と同じように、じいちゃんに引き留められたんだ
どうもあの子は、里に戻ったご先祖様たちを山の上に連れ帰る存在らしい。ただ、少しうっかりな部分があるみたいで、たまに生きている人間を連れ帰ろうとするんだ。
渡が間違えられたみたいにな。
しかし、渡は運が良かった。じいじが子どもの頃はな、毎年のように誰かしらがいなくなっていたんだよ。もっとも最近はなかったけどな。
まあなんだ。渡も大人になったら誰かを助けるかもしれないから、忘れないようにな。

「じゃあそろそろ帰るか」
「うん」
気が付けば、舟は見えなくなっていた。
言葉もなく添えられたおじいちゃんの手をしっかりと握り返して、一緒に家へと歩き出す。
空を見上げると、ただ山の稜線に沿ってうっすらと青白く光っているだけだった。
「は……み……おつか…さま」
ふと、誰かの声が聞こえた気がした。もしかしたら、誰かが呼んでいるのかもしれない。
「……だ…た…た…しか……」
また、聞こえる気がする。もしかしたら、あの子かもしれない。
後ろを振り返り、声の主を探そうとする。
その時、道端の草むらで夏の虫が鳴き始めた。リンリンと鳴くこの声は、鈴虫だろうか。
「じいじ。きれいな虫だね」
「お、この良さがわかるなんて渡も大人になったな」

家に着くと、おばあちゃんが大玉のスイカを切っているところだった。
もう、渡の頭の中はスイカでいっぱいだ。
そろそろお盆なので、送り盆のお話です。
瓔花ちゃんはこんなことしない
よー
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.100東ノ目削除
死後の世界の住人にあの世に引き込まれるというある種のテンプレートを踏襲しつつ、そのアクターが勘違いをした瓔花なことで、ほのぼの感や情緒が生まれているのが素敵でした
3.70名前が無い程度の能力削除
嫌いじゃなかったけど、後書きの通りだとは思いました。
4.100サク_ウマ削除
ひやりとした雰囲気で、どこか懐かしい、不思議で夏にぴったりな話だなあと思います。よかったです。
5.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。田舎の雰囲気と不思議な出来事がかみ合っていて素敵でした。
6.100夏後冬前削除
夏らしい少し背筋がヒヤッとさせられる作品は大好物です。
7.100南条削除
面白かったです
これは寺生まれの人呼ばないといけない案件ですね
うっすら怖くて季節感もあってとてもよかったです
8.100大豆まめ削除
「賽の河原の夏休み」を先に読んでから辿ってきました。
田舎という未知の土地で体験した、不可思議な現象、怪異。それが飾らない子供目線で描かれるのがとても雰囲気があり、好きです。
悪いわけではないが、ときどき間違えて連れて行く、という理不尽さも、ああ日本の土着の怪異っぽいなあと思えて良いです。
夏の終わりに読めて良かった。