Coolier - 新生・東方創想話

助けて!依神先生

2022/02/11 21:36:15
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日本のとある街。駅前の繁華街の一角に立つぼろビルにあの人はいる。困った時に助けてくれる、町のお医者さん。その名も依神先生。今日もまたひとり、先生のもとに患者がやってくる。

「どうして、こうなったんだろう」
学校終わりの高校生が練り歩く駅前の繁華街。道を埋め尽くす制服の奔流。その流れから分かれるように、ダボダボのパーカーを羽織った陰気な少年が歩いている。そう、ぼくのことだ。
背丈も年もそれほど離れていない。すれ違う女性も男性も、誰もぼくを気にも留めない。なのにどうして、これほど肩身が狭いのだろう。その理由はただ一つ。ぼくが絶賛不登校であり、学校に通っていないからだ。以前ニュースで、「最近の若者は周りと同じでないと不安になってしまうようです」と語る大学教授が居た。もちろんぼくもその一人である。おかげでぼくは鬱屈した毎日を過ごしている。でも、そんな日々も今日でおしまい。なぜならぼくは今、街でウワサの凄腕先生に相談するべく道を歩いているからだ。
『目的地に到着しました』
手元の地図アプリがそう告げる。顔を上げると、そこは年季の入ったビルの前だった。一見すると、ここに病院が入っているとは考えられない。しかし、ビルに着いたテナントの看板には【依神クリニック】の文字がある。僅かな期待と大きな不安、それを押し殺すようにして、ぼくはビルのエレベーターに乗り込んだ。

「お、君が幸大くんか。ちょっと準備するからそこのソファで待っててね」
「あ、はい」
「ごめんね」
クリニックのドアを開くと、目の前に女性がいた。エメラルドのネックレスをつけた、病院には似つかわしくないバブリーな服を着た女性。その一挙手一投足に、クルクルとカールしたおさげがフワフワと飛び跳ねる。
「じゃあ診察始めよっか。初めまして、依神クリニックの依神です。早速だけど本題に入るよ」
「え、あ、はい。お願いします」
この先生は大丈夫なのだろうか。ぼくは別に問題ないが、初対面の相手に本音を話辛い人は多いと思う。それと、この甘い香りは一体なんなんだろう。アロマの一種だろうか。
「よろしくお願いします。えっと、予約の時に『教科書を開くと涙が止まらなくなる』と話していたよね。もう少し詳しく話せる?」
「はい。えっと、確か先々週くらいからです、教科書を見ると涙が出るようになったのは。その前も勉強しようとすると気持ち悪くなってもいたんですけど、その時は薬でなんとかなってました。でも涙はどうにもならなくて」
「幸大くんは15歳だよね。勉強するたびに涙が出ちゃうと、色々と大変じゃない」
「そうなんです。授業中も涙が出るようになっちゃって、それで学校にも行き辛くなっちゃって。そのせいで、もう一週間は学校に行けていません。もちろん勉強も」
「うわ、それは辛いね。色々と焦っちゃうでしょう、夜とか眠れてる?」
「最近は昼夜逆転しちゃっていますね。眠る時も、薬で無理やり意識を飛ばしている感じです」
先生が質問して、ぼくが答える。たまに質問の意図がわからず聞き返すことはあっても、先生が自分の身の上話をすることはなかった。最後の方は雑談になっていたけれど、その会話は15分ほど続いたあと、先生が席を外したことで幕が閉じた。

「お待たせ。ちょっと怪しいけど、別に宗教とかじゃないから安心してね」
ぼーっとスマホを眺めていると先生が戻ってきた。なぜか弓と太鼓を抱えて。
「あの、それは一体」
「これ?これは治療に使うんだよ。ちょっと儀式めいてるでしょ」
「そうですね……どこかの部族みたいです」
何気なく使った部族という言葉。それを聞いた先生の目がキラリと輝いた気がする。
「お、勘がいいね。これから幸大くんには催眠状態になってもらうよ」
「催眠状態ですか!?あの、そういうのは怖いんですけど。小さい頃、テレビ越しに催眠術にかかっちゃったことがあるので」
「あー大丈夫。これからする催眠術はそういうやつじゃないから。幸大くんはさ、友達と寝泊まりした時に、寝起きの友達が普段と違った性格で驚いたことない?」
その体験はある。あれは小学校の修学旅行の時だ。寝起きの友人に、いつもの冗談を口にしたらマジレスされたことは今もよく覚えている。
「そう、それを今からやってもらうの。人ってね、眠くなってウトウトすると、普段は隠している本音を口にしやすくなるの。心の深い場所にある気持ちを聞くことで、幸大くんの悩みを解決する糸口を見つけようと思うの」
「はあ、そうですか。じゃあ僕はどうすればいいんですか」
「そのままでいいよ。よく眠れそうでしょ、そのソファ」
それはよくわかる。このソファに座っていると、なぜかウトウトしてくるから。実はさっきから、先生の話はあまり頭に入って来ていない。
「はーい、じゃあ始めるよ。太鼓の音がうるさいだろうけど、弓の弦を弾く音をよく聞いててね」
そういうと、先生はおもむろに手を動かし始めた。ぼくと先生の間に置かれたテーブルに、弓と太鼓が置かれている。それを先生は、お坊さんが木魚を叩くように、一定のリズムで叩き弾き始めた。ドン、ドン、ドンと一定のリズムで叩かれる太鼓の音と、ビィン、ビィン、という弦を弾く音が混ざりあう。先生の言った通り、太鼓の音が大きいせいか弦の音は聞き取り辛い。
ドン、ドン、ドン。びぃん、びぃん。耳を澄まして聞いていると、弦の音が聞き取りやすくなってきた。
どん、どん、どん。ビィン、ビィン。心なしか、さっきよりも近くで弦が震えている気がする。太鼓の音は相対的に遠ざかる。
ドン、ドン、ドン。ビィン、ビィン。弦の震えに合わせて僕の鼓膜も震え動く。太鼓の音は、山をひとつかふたつ越えた場所から響いて来ている。
どん、どん、どん、びぃん、びぃん。弦のブレに合わせてぼくも頭の芯もぶれてゆく。今や遠雷と化した太鼓の音は、大地を唸るように轟いてくる。
どん、どん、どん、びぃん、びぃん、どん、どん、どん、びぃん、びぃん

「幸大くん、気分はどう?君の本音を、聞かせてね」
その声を聞くと同時に、両手の先が冷たくなり始める。その感覚に本能的な恐怖を抱いた途端、太鼓と弦の震えがより一層強さを増し、ぼくの意識を強く打ち付ける。
その瞬間、全身がどこか深い場所に落ちて行くような気がした。
意識の手綱を手放すその寸前、陰気な青髪の女性がどこかへ歩いていくイメージが、視えた。


「あ、おはよう幸大くん。気分はいかが?」
気が付くと、ぼくはソファの肘置きに頭を寝かせていた。どうやら眠っていたらしい。
「先生、あの、治療はどうなったんですか」
「もう終わったよ。結果は成功、幸大くんを悩ます現象も解決済み!」
「本当ですか!?原因とかって教えてもらえますか?」
あまりの嬉しさに、声が大きくなってしまった。でも先生はぼくの様子を気に留めず、その原因を説明し始めた。
「幸大くんを悩ませた涙の原因。それは受験へのプレッシャーだったよ。幸大くんも薄々わかってたでしょ」
正直な所、そうではないかと考えていた。症状が出始めた時期も、本腰入れて勉強を始めた時期と合致しているからだ。
「でも、よかったです。原因がはっきりわかって」
「それはよかった。受験勉強に励むのもいいけどたまには休みなね」
「はい。ありがとうございます」
診察代を渡し、出口の扉に手をかける。
「お大事に~」
振り向くと、先生がひらひらと手を振っていた。頭を下げ、扉を閉める。

エレベーターから出ると、商店街は夕陽で赤く染まっていた。繁華街も、高校生たちが道幅いっぱいに歩いている。その様はまさに激流。
「明日は学校行ってみるかな」
少し躊躇したあと、そんな制服の大河に飛び込んだ。



その少し前。依神クリニックのその中。先生ひとりしかいないはずの病院内から、二人の話声が聞こえてくる。
「ナイス姉さん。うまく追い詰めてたじゃん」
「うん。それにタイミングも良かったし、あの人の夜食もおいしかった」
「ほら、これ今日の報酬。あげる」
「え、こんなに貰っていいの?千円も、貰っていいの?」
「いいってことよ。たまには良い物食べておいで」
「やった。ありがとう女苑」
「何言ってんのよ姉さん、私たちは最凶最悪の双子よ。これからもバンバン稼いでいくわよ!」
「うん。がんばろうね。」
完全憑依について考えていたら閃きました。少年に憑いた紫苑を女苑が剥がした感じです。マスターとスレイブの役割がごちゃごちゃになっていますが気にしないでください。
完全憑依って難しいですね。
よー
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コメント



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1.100名前が無い程度の能力削除
ああー……なるほど。やりそうだわこの姉妹なら。いつかそのうち退治されてしまえ。
悪い事してる二人が幸せそう。面白かったです。
白衣着た女苑めっちゃ見たい。
2.90名前が無い程度の能力削除
良かったです
3.100南条削除
面白かったです
女苑が真っ黒で素晴らしかったです
4.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです