Coolier - 新生・東方創想話

雷の話

2022/01/10 00:05:25
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ある夏の日の昼下がり。午睡に耽りつつ教師の話に耳を傾けていると、ガラゴロという雷鳴に似た不気味な音がぼくの気を引いた。
すわ空襲かと身構えるも、すぐさま我に返り廊下に目をやる。案の定そこには校長先生が歩いていて、その手にはハンドベルが握られていた。ベルを握る右手がゆらゆらと揺れるたび、廊下に軽やかなカラコロという音が響き渡る。
どうやら授業も終わったらしい。級長の号令に従い、椅子を引き、立ち上がり、椅子を仕舞う。下げた顔をあげると、そこはもう放課後の教室だ。
「これから何するよ」「比那名居のとこでベーゴマしよう」「いや、今日は神社でかくれんぼだろ」
今を生きる若き学徒にとって、放課後はかけがえのない時間だ。ゆえに彼らは教師の声を子守歌に舟を漕ぐ。しかし、授業が終われば話は別だ。温存していた体力を発散するべく、今日も彼らは外に駆け出す。
「稗田も来るよな?」
級友のひとり、永江くんが当たり前のように声をかけてきた。しかし、あいにく今日は用事があった。稗田の長子である以上、この用事を棄てることはできない。彼らがかくれんぼに備えて眠るように、ぼくもまた用事に向けて眠るのだ。
「ごめん、今日は縁起書を暗記する日なんだ。また今度ね」
その言葉を聞くや否や、永江くんは踵を返して昇降口へと走り出した。その後ろ姿を見送りながら弁当箱を手に取り、教室の出口へと一歩を踏み出したその時。

「おれは『ながえ』だぞーーー!!!」

永江くんが、唐突に叫んだ。それも普段の大きさではない。遠足で登った山の山頂でオーイと叫んだ時に聞いた、全身を拡声器のようにして捻りだす正真正銘の大声。すると、職員室の方からも「私は永江だ」という声が。永江くんと違い、こちらは普段の声と大して変わらない。ぼくの教室の隣が職員室でなければ聞こえなかっただろう。
まさかと思い窓の外を見ると、山の方が真っ暗になっていた。これから一雨来るのだろう、あれほど暑かった陽射しが嘘のように弱弱しくなっている。校舎を出ると、すでに湿り気を帯びた風が吹き始めていた。遠くの方では、すでにゴロゴロと雷が鳴っている。
「傘が無いのに困るな」
思わず零れ落ちた独り言を号砲にぼくは走り出す。もちろん門限までは余裕がある。しかし、早くしないと服が濡れてしまう!友のために走るメロスもこんな気持ちだったのだろうか。ぼくは優等生なので、授業で習った本もこうして思い出すことが出来る。きっとメロスもこんな道を走ったのだろう。

幸いなことに、彼の住む村の道路はよく整地されており、穴ぼこやひび割れはひとつもなかった。もちろんこの村は東京ではなく深山にある小村であるため、その道もアスファルトで舗装されてなどいない。人の力で整えられた平坦な道。小石を蹴り飛ばし、水路を飛び越え、犬の糞を避けながら、地面を踏みしめ家路を急ぐ。

不意に、視界が真っ白になった。来る、と体を強張らせるや否や村中に強烈な破砕音が反響した。一拍おいて、駄菓子屋のおじいさんが「私は永江だ!」と叫ぶ。それでもぼくは足を止めない。なぜなら既に埃っぽい湿った匂いが漂っているから。
ここで足を止めたら間違いなく追い付かれる。後ろを振り向くと、山の上にあった雨雲がいまや学校の上を埋め尽くしていた。走れ稗田、刻限はすぐそこだ。
再度、稲光。しかし今度は遠かったようで少し音が弱い。次いで、どこかから「永江だ!」の声。けれどもやっぱり足は止められない。なぜなら地面にポツポツと黒い斑点が出来つつあるから。
万事休す。そう心の中で叫んだとき視界が開けた。他の家屋の三倍はあろうかという広大な敷地を持つ邸宅。その表札には『稗田』の文字。ぼくの家だ!
ここが最後の一直線。大地を踏みしめる足に一層力がこもる。稲妻、稲妻、また稲妻。体の奥底から湧き上がる膂力に呼応するかのように、次々と落ちる雷。その神鳴を打ち消すように響き渡る永江さんの大声。
門をくぐり、中庭を抜け、裏口の扉を引く。土間に雪崩れ込んだぼくの背後から、細かい粒が地面に叩きつけられる音が聞こえてきた。

「間に合った……」
息も絶え絶えに呟くぼくを心配したのだろうか、お母さんが居間から顔を出した。

本を読んでいたら雷にまつわる面白い伝説を見つけたので、雷属性の衣玖さんで書きました。

コンセプトは「幻想入りしなかった方の元幻想郷。かつてそこにいた妖怪たちは、残された元幻想郷でどう扱われているのか」です。
よー
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コメント



0.100簡易評価
1.無評価よー削除
作者です。

新規投降をする際、概要欄にも文章を書いたのですが、なぜかPC版Chromeだと見ることが出来ませんでした。
編集をしようとしましたが、なぜか編集キーが弾かれてしまい、訂正ができない状態です。
なおスマホからは読めることが確認できたので、概要欄を読みたい場合はスマホからの閲覧をお願いします。
お手数をおかけして申し訳ありません。
3.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
4.100名前が無い程度の能力削除
すごい面白かったです。伝承と絶妙な混沌さが入り混じっていて不思議な情緒を感じました。
6.100南条削除
おもしろかったです
伝承がそのまま目の前の現実で繰り広げられていく様が恐ろしく、文章の勢いに引き込まれました