Coolier - 新生・東方創想話

賽の河原の夏休み

2022/08/15 23:05:08
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ここは人里。それも結界の外にある、正真正銘の人が作る里。
某県山間部の、大きな山系と盆地のちょうど境目にある村の路地。
とある日の昼下がり、そんな閑散とした道をひとりの女の子が歩いている。
彼女の名前は戎瓔花。キョロキョロしながら歩く姿は幼児そのものだけど、実はすごい神様だったりする。
え?そんな神様がどうしてこんな場所にいるのかって?それはね――

「おーい、時間だよー」
返事はない。
「もう帰る時間だよー」
やっぱり返事はない。
「みんな?来る前に約束したよね。出ておいで~」
少し声音を変えてみても、やっぱり返事はない。
それでも心は乱れない。なぜなら、わかりきっていたことだから。なにせ去年もおととしもその前も、ずっと毎年こうなんだもん。
だけど安心してほしい。私はすでに手を打ってあるのだ。
たとえば、そこの家を見てほしい。身を寄せ合うようにして立つ木造平屋のお家と、リフォームしたらしき2階建てのお家。木造平屋のお家の軒先に、ツバメを象った木像が吊るされているのがわかるだろうか。よく見れば、あっちのお家にも、朽ち果てたようなお家にも、笑い声が聞こえてくるあのお家にも吊るされている。ためしに村はずれの家の前で、もう一度名前を呼んでみると?
「あ、いたいた。返事してよー」
このようにして、軒下から男の子が出てくるのだ。もちろん、男の子だけではない。
朽ち果てたようなお家からは、女の子が。賑やかなお家からは、3人の子どもが出てきてくれる。
「はーいみんな私についてくるんだよー」
後ろを振り向き声をかけると、みんなはこくりと頷いた。……やっぱり返事が欲しいよね。

さて、そんなこんなで村を歩き回ること数時間。気付けば、私の後ろを子どもたちが列をなして歩いている。ざっと13人ほど、もうみんな揃ったかな?
でも、ここで置いて帰ると後が怖い。念のためまだ声をかけていないお家にも呼び掛けてみる。まがりなりにもリーダーなのだから。
「おーい、時間だよー」
やはり、返事はない。まだまだもう一度。
「おーい、時間だよーー」
やっぱり、もう居ない気がする。でも、三度目の正直でしょう?
「おーい、時間だよー!」
二度あることは三度ある。どうやら今年はみんなと合流できたらしい。みんなもだんだん飽きている。これは、もう潮時だな。

ふと、縁側に置かれたスイカが目に入る。瑞々しい赤と、ほのかに漂う瓜特有の香り。
「おーい、もうお家に帰る時間だよー」
気が付けば、また呼びかけていた。あわよくばスイカを貰おうだなんて、決して考えてはいない。

その欲が功を奏したのだろう。門扉の中から男の子が現れた。
「あ、ようやく出てきた。もう遅いってばー」
(よかったーーーーーあのまま帰らないで本当によかったーーーーーーーー)
心の底から安堵しつつ、現れた男の子をじっくりと観察してみる。
でも、男の子は、私の姿を見るなりポカンとした顔をして動かなくなってしまった。
「ちょっと、聞いてるの?次のお家にいくよ」
もしかしたら、やっぱり忘れている子がいるかもしれない。この子も連れて、はやく向かわなければ。でも、次の一言で私は事の重大さを思い知ることになる。
「あの、どこに行くんですか?」
男の子は、自分の居場所を忘れてしまっていた。さらによく見ると、男の子は蓮の葉っぱを被っていない。
「そういえばあなた、蓮の葉っぱはどうしたの?」
蓮の葉っぱは、いわば胞衣の代わりである。この子たちの一番の欲求は、「母親の元へ戻りたい」ただそれだけである。そんな母親と自身を繋いでいた胞衣は、つまり希望そのものだ。かつて、子どもたちに伝えた言葉を思い出す。
『外の世界に行くときは、これを被っていくんだよ。そうしたら、またお母さんと一緒になれるかもしれないね』
永久に続く石積。もしかしたら、それらから脱却できるかもしれない。そうした希望を持たせることで、単純作業に意味を与えた。それ以来、より一層子どもたちは石積に励んでいる。
それを失くすということは、即ち石積を受け入れたことになってしまう。リーダーとして、それを容認することは絶対にできない。
「蓮の葉っぱ、ですか。持っていませんが…もしかして、何かルールがあったんですか!?」」
でも、そんな不安を男の子は吹き飛ばしてくれた。
よく、いるのだ。家族の下へ戻り、あまりの居心地の良さに自分の在り方を忘れてしまった結果、文字通り何もかもを忘れてしまう子どもが。こうした子どもは、今後も現れ続けるだろう。
だから私は、こういったアクシデントへの対応も慣れっこなのだ。
「そっかそっか…そうだよね。楽しかったんだもんね。それは仕方ないよ」
まず初めに、子どもたちの気持ちに寄り添う言葉を告げる。できるだけ優しく柔和な笑顔で。
「あのね、君。わたし面白い場所を知っているんだけど、一緒に行かない?」
次に、抽象的でもいいので楽しい場所があると告げ、誘い出す。自己の在り方を忘れてしまったとしても、その根幹にある魂は変わらない。そこに直接語りかけるのだ。
「大丈夫。全然怖くないし、お友達もたくさんいるよ。ここよりも、もーっと楽しい場所だよ」
この子に限らず、子どもたちは概して孤独であることが多い。寂しさを埋めることができると告げれば、大抵の子はすぐについてくる。ほら、この子の瞳に期待が満ちてきた。
「遠足もあるし、運動会もある。他にもいろんなレクリエーションがあるんだから」
最後に、魅力を具体的に伝える。これは本当に誇れることなんだけど。
すると、子どもたちはすっかり乗り気になって、私についてきてくれるのだ。
ここまでくればあとは簡単。みんなで帰るだけだ。
「あ、あの!ぼく夜になったら家から出ちゃいけないって言われているんです」
「お姉さんの言う楽しい場所って、暗くなる前に帰ってこれますか?」
ほら、ね!?私だって伊達にリーダーやってないのよ!たまに失敗もしちゃうけど、これが真の実力よ!
「もちろん!すぐそこにあるからね!ほら、じゃあ行こうか!」
本物の笑みを浮かべながら、男の子の手を握る。もう、絶対に置いてなんて行かないんだから。
得意げな顔を浮かべ、みんなのもとへ戻ろうとしたその時

「渡!どこに行くんだ!!」

どこか遠くの場所から、誰かの大声が聞こえた。子どもたちに何かあったのだろうか。と、男の子が足を止めている。どうしたんだろう?
(あ、蓮の葉っぱだ)
きっと男の子も思い出してきたのだろう。有るべきものが無いことに気が付いて怖くなっているのだ。
「あ、これを渡していなかったね。はい」
これで男の子も安心してくれるはず。はやくみんなと合わせてあげたいな。
「これ、どうすればいいの?瓔花ちゃんのこと、おじいちゃんに紹介したい」
でも、男の子は肝心なところを忘れたままだった。まったく、そういうところがかわいいんだから。
「それを傘みたいに頭にかぶるんだよ。そうしないと楽しい場所に行けないからね」
少し考え込んだあと、男の子は葉っぱを持ち上げ始める。そうそうその調子。
「そう。そうすれば楽しい場所に行けるよ。君も私たちの仲間入り」
蓮の葉を頭上に翳して、私を見つめる男の子。そうだね、それでいいんだよ。

「渡!!聞いているのか渡!」

男の子が、ものすごい勢いで私から引き剥がされる。物理的にも、霊的にも。
気が付くと、目の前に壮年の男性が立っていた。壮年の男性は、男の子に何事かをまくし立てている。壮年の男性に見覚えがあるのは、どうしてだろう。
(あ)
脳裏によみがえる、何年か前の記憶。同じようなことが前にもあった!
(この子、生きてる子だ)
やってしまった。また、やってしまった。ここ最近は間違えなかったのに、また間違えてしまった。頭の中が、自責の念で覆いつくされる。
「う……だ…って…い…」
男の子がこちらを向いている。でも、その声はうまく聞き取れない。これが普通なのだから。
私は彼岸の存在だ。本来なら、此岸の人達とはコミュニケーションを取ることはできない。でも、毎年お盆の時期だけは、姿を見られることがたまにある。しかしそれは、あってはならない事象だ。
「あの、ごめんなさい。私、気が付かなくて」
見る限り、男の子は事態を呑み込めていない。だからもう一人の男の人に謝った。
「家に帰るぞ」
でもやっぱり、男の人は返事をしてくれない。それでも私は頭を下げ続けた。
引きずられて行く男の子と目が合わないように、地面を見つめ続けた。



子どもたちを川まで引き連れて行く最中、私の気分はずっと沈んでいた。
でも、それもこれでおしまい。最後の時くらい、笑顔でいないと!
「みんな、いるよね?今から舟に乗るよ!」
川には、白樺で作られた舟の模型が浮かんでいる。それを指さしながら、子どもたちに告げた。
「みんなはこの舟に乗るんだよ。葦舟は私専用だから乗っちゃダメだからね!」
いうや否や、子どもたちはゾロゾロと舟に乗り始める。この舟は、毎年人間が用意してくれるものだ。もちろん私たちの数を知らないから、乗り切れない子も出てきてしまう。だから、あの子たちみたいに一つの舟に複数の子どもが乗ることもある。でも、みんな無事に乗れたみたい。
「みんな、お父さんやお母さんには会えたかな?」
子どもたちを振り返りつつ、問いかける。頷く子、首を振る子、反応をしない子、三者三様のリアクションだ。それでも、ひとつだけみんなの様子からわかることがある。
「よかったね!それじゃあ、寂しいだろうけどお家に帰ろうか。来年の夏休みが楽しみだね」
戎瓔花は、賽の河原で石を積んでいる水子たちのリーダーだ。そんな彼女は単調な石積を続けるために、様々なイベントを発案しては主催している。
今回の夏休み、つまりお盆に合わせて休暇を取るのも、いつかの昔に彼女の発案から生まれたイベントのひとつだ。
本来、賽の河原の水子たちはそこから出ることはできない。しかしそこは幻想郷。しかし、大人ばかりずるいと思った瓔花は、ためしに船頭の死神に訴えてみたのだ。
『水子たちにも休みを上げたい』と。
すると、なぜか許可が下りて、賽の河原にも夏休みが訪れるようになった。
現在、賽の河原に住まう水子の間では、この夏休みはいわば年間行事のひとつとなっている。
「河原に向けてしゅっぱーつ」
瓔花の号令に合わせて、舟が動き出す。川の流れに逆らって、上へ上へと、上流へ上流へと、舟が進んでいく。
目指すは山の上。異なる世界、聖なる世界。神々の住まう幻想郷に向けて、水子たちは遡上していく。
川の両岸も、徐々に姿を変えて行く。舗装されていた川べりは徐々に土へと変わっていき、ゴツゴツとした大岩が増えていく。
植生にも変化が現れる。雑草が草原に変わり、草の茎が木の幹になり、木々が集まり森となる。
やがて、視界に霧が立ち込め始めた。その霧に触れたとき、瓔花は毎回心が安堵する。
(今回も無事に帰ってこれてよかったな)

立ち込めていた霧が晴れたとき、そこにはいつもの河原が広がっていた。
既に子どもたちは舟から下りて、自分の石積へと駆けだしている。
「はーい、みんなおつかれさまー!」「どうだった?たのしかった?」
瓔花の問いかけに、子どもたちが答えることはない。
ただひたすらに、一心に石を積んでいる。
しかし、石積にいそしむその姿は、いつも以上にはつらつとしていた。
「誤解されたAnnual events」の瓔花視点です。

これを書くにあたって賽の河原と水子を辞書で引いてみたのですが、賽の河原にいる子どもたちは水子じゃないんですね。
この事実、今回は気にせず書きましたが、次に瓔花ちゃんを書くときは反映させたいです。
よー
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コメント



0.50簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.90東ノ目削除
心情描写が入ると、同じ題材でもまた違った空気感になりますね。
ところで、「賽の河原にいる子どもたちは水子じゃないんですね。」知らなかった……
3.100名前が無い程度の能力削除
視点の違いで雰囲気ががらりと変わっていると感じました。良かったです。
4.100南条削除
面白かったです
前回の瓔花はわざとやったわけじゃなかったんですね
それがわかっただけでもよかったです
5.80夏後冬前削除
前作で感じた以上に、瓔花が論理的に考えて話してたことにびっくりしました。渉君のいる地域が山岳信仰たしいという部分が、前作で「おっ」と思った部分なのでそこの補完があったらなー、などと。
7.80大豆まめ削除
先にこっち読んで、先行の作品があるのを知ってそちらを読んでからまた戻ってきました。
嫌いじゃないですが、「誤解されたAnnual events」が好きだったので相対的にこちらに蛇足感を感じてしまいました。
というのも、「誤解された~」の、「少年が未知の土地で体験した一夏の不思議体験」「得体の知れない怪異」といった風情が好きだったので、それをオープンにしてしまうとその風情・空気感が薄れてしまうように感じたからです。
ですが、合わせて読むことでより納得感みたいなものは深まるのは確かで、そういう意味ではこちらの作品も見れて良かったとも思います。あと、瓔花が可愛い。