序・塵塚怪王の娘
「はぁ、良い夜ね……」
担いだ傘のむこう、呟き空を見上げれば、真円に煙る朧月。
ゆるゆると流れる春の夜の薫風が、何処か遠くから桜の花弁を運んで舞わせ、酔いの覚めやらぬ頬を撫でていく。
それはさながらあるじの愛撫の如く。
甘露なる肌触りあれば、それを肴にまた酒で喉を慰めたくなる。
は、ぁ、と甘く息を吐く。
友達に誘われるままに飲まされた酒が深く深く、かつての記憶を呼び起こす。
唯々道具としてあるじに使われる。それだけで満足だった日々。
あるじの手に握られ、あるじを雨風から護ることに誇りと生き甲斐を感じた輝かしく……はないか、出番はいっつも雨の日なのだから。誇りと生き甲斐を感じたざーざーな日々。
……どうして、あるじは私を捨てたのだろうか。
役に立っていると思っていたのに。
やめよう、それこそ春の夜の夢の如し、だ。
今はこの風流な夜を物珍しくひとり歩く帰り道を楽しめればそれで良い。
友達連中はまだ柳の下で酒を楽しんでいることだろう。自分は少しばかり早くお暇させて貰った。明日は早めの仕事、日用品修繕の鋳物があるのだ。
いまやすっかりそれを「仕事」と呼べるようになった妖怪。
名を、多々良小傘という。
「明日は釘作りと、針と、包丁と、それから鍋の修繕よ。忙しい、忙しい……うふふ」
小傘は楽しそうに独りごち、昏い帰り道を歩む。
……付喪神として妖怪として己の有り様を問うた頃とは随分いまは変わってきた。命蓮寺の仲間達や、それを通じて出会った新しい友達や、頼れる相談相手である狸の親分、それに和尚様。
あるきっかけで、幻想郷の巫女を驚かそうとしてボコボコにやっつけられた後、こんなにも幸せな出逢いがやって来てくれた。
それが巫女のお陰だとは思わないが、それでも恩義とある種の畏敬をもって、あの紅い巫女とは接している。彼女も、人里に棲まうことを黙認してくれているようだし。
悪さ(人を驚かそうとするのはやはり悪さ、らしい)を繰り返すたびにどこからともなく紅いのと緑のが現れてはやっつけられていた。
が、そんな日々が続く内に彼女と縁ある妖怪や、人間が自分とも縁を以て、やがて縁が繋がり円となっていく。
気付けば人里で、他の大人しい妖怪からの紹介と共に其処に住み、そして生計を得るにまで至っていた。
ボコボコにされる度に増えていったのは傷だけではなかった。
やっぱり巫女は、恩人と言って良いのかもしれない。
……なんだか好んで私をいぢめている気もするけれど……。
「……あの鍋、ぽっかり穴が開いているのよね。それでも直してほしいだなんて、あの子は幸せ者だよ。あんなに愛着持って使われるなんて、羨ましいったらありゃしない」
天職――なのだろう。色んな人の協力ではじめた鍛治業は、人里においていまや御近所付き合いの方が壊れた金物を持ち寄ってくれるくらいにはなっていた。
巫女もおおっぴらには許してくれないかもしれないが、それでも自分が欲されるという、あれほど望んできたことが手に入ったその喜びはいかほどのものか。
自身にしか解ろう筈も無い。
「ああ、早く朝日がこないかな」
朝になったら火床に火を入れ、ふいごの上でたたらを踏んで、今一度あるじの為に役立とうと望む道具(ともだち)達に、鉄の息吹を吹き込むのだ。
酔いのままに夢想しつつ、千鳥足は続く。
……朧な月のささやきは、何処までも穏やかで風靡な様なのに、夜闇はとろりとした死のにおいを時折風に混ぜていく。
それは胡乱な月光の成せる業なのか、どうか。
夜靄うすらと煙る夜。
生も死も曖昧に蕩けていくような、そんな、妖怪好みの夜だった。
「……ぅん?」
小傘の足がふと停まる。
人一人おらぬ丑三つ時の表通り。
今宵は朧なりや望月、大きな月からの銀が降りそそぎ、提灯要らずな程だった。
……が、表通りからほんの少し、路地裏に入るだけで、そんな月より零れる妖しの光が届かぬ闇が、ねとりと顎を開いている。
そんな闇の開く道の一つから、なにやらいとしいものの気配があった。
自分と同じものの存在感。それは、未熟ななりたての妖怪。付喪神のなり損ない。
そんな気配があった。
小傘には、解るのだ。
自身が棄てられ、寄る辺なく彷徨い、転がり続ける内に「そうなった」ように、おんなじ気配がそこにある。
……如何ほどの時間を無念のままに過ぎればそうなるのかまでは解らないけれど。
「……どうしよう」
助けたい、或いは出会いたい。
だけど、妖怪と出会ったときのルールとしては、巫女に報告すべきなのだろうか? 自分はいろんなひとから目溢しを貰って此処にいる。
もしやその人達に怒られやしないだろうか? とくに、おっかないあの紅い方に。
少しだけ迷い、そして……闇に向けて足を向けた。
自分がかつてそうであったように、生まれたばかりの不安と焦燥を思い出す。
あんな思いをする子を、放っておくことなんて出来やしない。
ただただ寄る辺なく、何のために生まれたのかも、どうして棄てられたのかも解らず彷徨っていた。あんなつらさ、他の誰にもさせたくはなかった。
おそるおそる進むは闇の参道。
裏路地でもとりわけ(眠る)人気の多い長屋の隙間のようだ。
もしか悪さをする子だったら、止める必要があるかもしれない。生まれたばかりなら、此処で生きるための決まり事を教えなくてはいけないかもしれない。
狸の親分のように。自分にそれが、できるのだろうか?
鈍く重く、どろりと渦巻いた闇のさなかを進みながら、先程までの楽しい気持ちはどこへやら、不安と緊張におぼつかない足取りのままに小傘は歩む。
どんなにこわくても、進むことを止めることだけは出来なかった。
やがて、その背姿がやみのなかへと呑み込まれていく。
「…………」
建造物に囲まれた細道は、足元すらも見通せぬ闇に飲み込まれている。
……溺れるほどに濃厚な闇を、おっかなびっくり、きょろきょろと周囲に注意を撒きつつ、おそるおそる進みゆく。
自身が妖かしの身である事すら忘れているかのように、年端のいかぬ少女のありさまを見せる小傘。健気に足を前へ、前へと運んでいく。
やがて……辿り着いたのは、袋小路。昼間はさぞかし井戸端会議に使われているのであろう、生活用水を汲み上げる、正しく井戸の付近であった。
広くなった空間のお陰で、其処だけぽっかり月光が降っていて、なんだか特別な舞台のようにすら見えた。
「……いた」
そんな井戸の傍ら、手押し喞筒のすぐ足元。
月の明かりに鈍く輝きを返すものがある。
そこに、半方刃の欠けた「鋏」が転がっていた。
……それは、妖異を見通す目がなければただの鉄屑に過ぎないようなものだ。
小傘には、その「鋏」がただならぬ気配を発しているのは見て取れた――が、それは、酷く弱い気配であった。
暴れる気配のないことにまずはほっとするも、すぐにその弱々しい息吹に慌てる。
生まれてすぐに死にかけている、まるで……。
「巫女に出会っちゃったのかな……でも、逃げ果せた? うーん、解んないな……」
打ち捨てられた鋏。
その身体は傷だらけであった。
二つある刃の内、一つは半分ほどで無惨に折れている。
経年による劣化なのか、それとも……既に一暴れした後で、何者かに破壊されたのか。
ただの人が見れば、これはもうどうしようもない芥であろう。
だが……。
「このままにしては置けない……」
そう、ほうってはおけない。
小傘にとっては同胞であり、友達になれるかもしれない存在であり……手助けしたことで咎を受けることになるかもしれない厄介である。
それでも、打ち捨てられたままに、朽ちゆくがままにするなど絶対に出来ない。
それがどれほどさみしくてかなしくてむなしいか、彼女はよくしっている。
「……うん、たすけるよ。私には、それができる」
呟きつつ、近づき鋏を拾い上げる。
……鉄が燻った黒く焦げた痕が鋏の刃を欠けさせて、全体が弱々しく熱を帯びていた。
霊気は途絶え途絶えの呼吸のように明滅を繰り返し、しかし生き足掻こうと必死の様を持つだけで感じ取ることが出来る。
手にしてみれば、げにタダの壊れた鋏、謂わば我楽多だ。
だのに、まだ息吹は残っている。
小傘には、それが酷く愛おしく思えた。
「私の冶金の術は、きっとこのためにあるのだから」
そう呟いてから周囲を見廻し、隠すように、こっそりとその鋏を胸元にしまった。
胸の中で、小さく、弱々しく息吹きを繰り返すのが感じられる。
それは、もうひとつ、副業で始めた赤子をあやす子守の時に感じるあの感覚だった。
……そうだ、この子は産まれたばかりなんだ。
護ってあげられるのは、助けられるのは私しかいない。
「……待っててね、かならずよくしてあげるから」
……拾い上げたぼろぼろの鋏は応えることはない。
小傘は胸に両手を当てて、その子を励ますように、囁いた。
「朝日なんて、待っていられないわ」
今すぐに鍛冶場に火を付けることを決意した小傘は踵を返す。
もう闇は怖くない。
振り返った足も軽やかに、小傘は肩で陰を切る。
きっと、うるさくしてしまうことを付近住民に申し訳なく思いつつも、それで吃驚させたらもしやおなかが膨れるかしら、などと悪い事を思いつつ帰途を急ぐことにしたのだった。
「はぁ、良い夜ね……」
担いだ傘のむこう、呟き空を見上げれば、真円に煙る朧月。
ゆるゆると流れる春の夜の薫風が、何処か遠くから桜の花弁を運んで舞わせ、酔いの覚めやらぬ頬を撫でていく。
それはさながらあるじの愛撫の如く。
甘露なる肌触りあれば、それを肴にまた酒で喉を慰めたくなる。
は、ぁ、と甘く息を吐く。
友達に誘われるままに飲まされた酒が深く深く、かつての記憶を呼び起こす。
唯々道具としてあるじに使われる。それだけで満足だった日々。
あるじの手に握られ、あるじを雨風から護ることに誇りと生き甲斐を感じた輝かしく……はないか、出番はいっつも雨の日なのだから。誇りと生き甲斐を感じたざーざーな日々。
……どうして、あるじは私を捨てたのだろうか。
役に立っていると思っていたのに。
やめよう、それこそ春の夜の夢の如し、だ。
今はこの風流な夜を物珍しくひとり歩く帰り道を楽しめればそれで良い。
友達連中はまだ柳の下で酒を楽しんでいることだろう。自分は少しばかり早くお暇させて貰った。明日は早めの仕事、日用品修繕の鋳物があるのだ。
いまやすっかりそれを「仕事」と呼べるようになった妖怪。
名を、多々良小傘という。
「明日は釘作りと、針と、包丁と、それから鍋の修繕よ。忙しい、忙しい……うふふ」
小傘は楽しそうに独りごち、昏い帰り道を歩む。
……付喪神として妖怪として己の有り様を問うた頃とは随分いまは変わってきた。命蓮寺の仲間達や、それを通じて出会った新しい友達や、頼れる相談相手である狸の親分、それに和尚様。
あるきっかけで、幻想郷の巫女を驚かそうとしてボコボコにやっつけられた後、こんなにも幸せな出逢いがやって来てくれた。
それが巫女のお陰だとは思わないが、それでも恩義とある種の畏敬をもって、あの紅い巫女とは接している。彼女も、人里に棲まうことを黙認してくれているようだし。
悪さ(人を驚かそうとするのはやはり悪さ、らしい)を繰り返すたびにどこからともなく紅いのと緑のが現れてはやっつけられていた。
が、そんな日々が続く内に彼女と縁ある妖怪や、人間が自分とも縁を以て、やがて縁が繋がり円となっていく。
気付けば人里で、他の大人しい妖怪からの紹介と共に其処に住み、そして生計を得るにまで至っていた。
ボコボコにされる度に増えていったのは傷だけではなかった。
やっぱり巫女は、恩人と言って良いのかもしれない。
……なんだか好んで私をいぢめている気もするけれど……。
「……あの鍋、ぽっかり穴が開いているのよね。それでも直してほしいだなんて、あの子は幸せ者だよ。あんなに愛着持って使われるなんて、羨ましいったらありゃしない」
天職――なのだろう。色んな人の協力ではじめた鍛治業は、人里においていまや御近所付き合いの方が壊れた金物を持ち寄ってくれるくらいにはなっていた。
巫女もおおっぴらには許してくれないかもしれないが、それでも自分が欲されるという、あれほど望んできたことが手に入ったその喜びはいかほどのものか。
自身にしか解ろう筈も無い。
「ああ、早く朝日がこないかな」
朝になったら火床に火を入れ、ふいごの上でたたらを踏んで、今一度あるじの為に役立とうと望む道具(ともだち)達に、鉄の息吹を吹き込むのだ。
酔いのままに夢想しつつ、千鳥足は続く。
……朧な月のささやきは、何処までも穏やかで風靡な様なのに、夜闇はとろりとした死のにおいを時折風に混ぜていく。
それは胡乱な月光の成せる業なのか、どうか。
夜靄うすらと煙る夜。
生も死も曖昧に蕩けていくような、そんな、妖怪好みの夜だった。
「……ぅん?」
小傘の足がふと停まる。
人一人おらぬ丑三つ時の表通り。
今宵は朧なりや望月、大きな月からの銀が降りそそぎ、提灯要らずな程だった。
……が、表通りからほんの少し、路地裏に入るだけで、そんな月より零れる妖しの光が届かぬ闇が、ねとりと顎を開いている。
そんな闇の開く道の一つから、なにやらいとしいものの気配があった。
自分と同じものの存在感。それは、未熟ななりたての妖怪。付喪神のなり損ない。
そんな気配があった。
小傘には、解るのだ。
自身が棄てられ、寄る辺なく彷徨い、転がり続ける内に「そうなった」ように、おんなじ気配がそこにある。
……如何ほどの時間を無念のままに過ぎればそうなるのかまでは解らないけれど。
「……どうしよう」
助けたい、或いは出会いたい。
だけど、妖怪と出会ったときのルールとしては、巫女に報告すべきなのだろうか? 自分はいろんなひとから目溢しを貰って此処にいる。
もしやその人達に怒られやしないだろうか? とくに、おっかないあの紅い方に。
少しだけ迷い、そして……闇に向けて足を向けた。
自分がかつてそうであったように、生まれたばかりの不安と焦燥を思い出す。
あんな思いをする子を、放っておくことなんて出来やしない。
ただただ寄る辺なく、何のために生まれたのかも、どうして棄てられたのかも解らず彷徨っていた。あんなつらさ、他の誰にもさせたくはなかった。
おそるおそる進むは闇の参道。
裏路地でもとりわけ(眠る)人気の多い長屋の隙間のようだ。
もしか悪さをする子だったら、止める必要があるかもしれない。生まれたばかりなら、此処で生きるための決まり事を教えなくてはいけないかもしれない。
狸の親分のように。自分にそれが、できるのだろうか?
鈍く重く、どろりと渦巻いた闇のさなかを進みながら、先程までの楽しい気持ちはどこへやら、不安と緊張におぼつかない足取りのままに小傘は歩む。
どんなにこわくても、進むことを止めることだけは出来なかった。
やがて、その背姿がやみのなかへと呑み込まれていく。
「…………」
建造物に囲まれた細道は、足元すらも見通せぬ闇に飲み込まれている。
……溺れるほどに濃厚な闇を、おっかなびっくり、きょろきょろと周囲に注意を撒きつつ、おそるおそる進みゆく。
自身が妖かしの身である事すら忘れているかのように、年端のいかぬ少女のありさまを見せる小傘。健気に足を前へ、前へと運んでいく。
やがて……辿り着いたのは、袋小路。昼間はさぞかし井戸端会議に使われているのであろう、生活用水を汲み上げる、正しく井戸の付近であった。
広くなった空間のお陰で、其処だけぽっかり月光が降っていて、なんだか特別な舞台のようにすら見えた。
「……いた」
そんな井戸の傍ら、手押し喞筒のすぐ足元。
月の明かりに鈍く輝きを返すものがある。
そこに、半方刃の欠けた「鋏」が転がっていた。
……それは、妖異を見通す目がなければただの鉄屑に過ぎないようなものだ。
小傘には、その「鋏」がただならぬ気配を発しているのは見て取れた――が、それは、酷く弱い気配であった。
暴れる気配のないことにまずはほっとするも、すぐにその弱々しい息吹に慌てる。
生まれてすぐに死にかけている、まるで……。
「巫女に出会っちゃったのかな……でも、逃げ果せた? うーん、解んないな……」
打ち捨てられた鋏。
その身体は傷だらけであった。
二つある刃の内、一つは半分ほどで無惨に折れている。
経年による劣化なのか、それとも……既に一暴れした後で、何者かに破壊されたのか。
ただの人が見れば、これはもうどうしようもない芥であろう。
だが……。
「このままにしては置けない……」
そう、ほうってはおけない。
小傘にとっては同胞であり、友達になれるかもしれない存在であり……手助けしたことで咎を受けることになるかもしれない厄介である。
それでも、打ち捨てられたままに、朽ちゆくがままにするなど絶対に出来ない。
それがどれほどさみしくてかなしくてむなしいか、彼女はよくしっている。
「……うん、たすけるよ。私には、それができる」
呟きつつ、近づき鋏を拾い上げる。
……鉄が燻った黒く焦げた痕が鋏の刃を欠けさせて、全体が弱々しく熱を帯びていた。
霊気は途絶え途絶えの呼吸のように明滅を繰り返し、しかし生き足掻こうと必死の様を持つだけで感じ取ることが出来る。
手にしてみれば、げにタダの壊れた鋏、謂わば我楽多だ。
だのに、まだ息吹は残っている。
小傘には、それが酷く愛おしく思えた。
「私の冶金の術は、きっとこのためにあるのだから」
そう呟いてから周囲を見廻し、隠すように、こっそりとその鋏を胸元にしまった。
胸の中で、小さく、弱々しく息吹きを繰り返すのが感じられる。
それは、もうひとつ、副業で始めた赤子をあやす子守の時に感じるあの感覚だった。
……そうだ、この子は産まれたばかりなんだ。
護ってあげられるのは、助けられるのは私しかいない。
「……待っててね、かならずよくしてあげるから」
……拾い上げたぼろぼろの鋏は応えることはない。
小傘は胸に両手を当てて、その子を励ますように、囁いた。
「朝日なんて、待っていられないわ」
今すぐに鍛冶場に火を付けることを決意した小傘は踵を返す。
もう闇は怖くない。
振り返った足も軽やかに、小傘は肩で陰を切る。
きっと、うるさくしてしまうことを付近住民に申し訳なく思いつつも、それで吃驚させたらもしやおなかが膨れるかしら、などと悪い事を思いつつ帰途を急ぐことにしたのだった。