Coolier - 新生・東方創想話

雨を見くびるな

2020/04/23 20:18:20
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INTERMISSION
東風谷早苗

※あまり本編とは関係ないので時間ない人はここ読み飛ばしていいよ。
 

 静かな小雨の昼下がり、いつものように小傘はバス停に座っていた。
 すると、遠くから何やら緑色の塊が浮遊してくるのが見えた。嫌な予感がした。

「こんちゃーっす! 小傘ちゃん!」

 この意味不明なハイテンション、間違いない、守矢神社の巫女、東風谷早苗である。
 小傘は「げっ」と呟いた。

「おうおう小傘ちゃん! 久しぶりじゃんかよーっ」
「あわわ……、さ、早苗さん」

 正直言うと、小傘は早苗の事があんまり好きじゃなかった。
 星蓮船事件の時、空を飛んでいただけなのにいきなり理由なくシバかれたのが原因である。

「霊夢から聞きましたよーっ。小傘ちゃんがずっとここで退屈してるって。僭越ながら私、差し入れを持ってきました!」
「うぅ……気持ちは嬉しいんですけど、その、あの、遠慮したいなぁ……」

 よく見ると、早苗は背中に小さなリュックを背負っていた。
 早苗はリュックの口を開き、小傘の話も聞かずに中身を取り出していく。リ〇グフィットアドベンチャーとか。しかもリングコンだけ。

「こんなとこでリングコン単体で渡されても困るよーっ!」

 早苗は話も聞かず、満足そうにリングコンを小傘に無理やり手渡し、引き続きリュックから得体の知れない物品を取り出していく。静かなる〇ンとか。しかも四巻だけ。

「静かなるド〇の四巻だけいきなり渡されても読まないってばーっ!」

 ……どれもこれもこの場では役に立ちそうにない物ばかりである。

「あの……早苗さん、悪いんだけど、帰ってくれない?」

「何言ってるんですか! マイメンである小傘さんを一人にはしませんよ! っていうのは大義名分で、私、ここ最近大きな異変が無いから退屈なんです! 今日から毎日ウザ絡みしに来ますからね! 覚悟しろよこのこのーっ!」

 早苗はそう言いながら小傘の脇腹を突く。
 やめてーっ! と小傘は涙目で叫んだ。早苗さんの悪いところです。

「あ、そうだ。小傘ちゃんの為にお菓子持ってきましたよ!」

 お菓子と聞いて、それまでどんよりしていた小傘の表情がぱっと明るくなった。
 実を言うとほんの少し小腹が空いていたのだ。

「えっ! お菓子くれるの? ちょうだいちょうだい!」

 ゴソゴソと紙袋の底に手を突っ込む早苗。何が出てくるのかと思いきや、それは何の変哲もないただの袋菓子であった。パッケージにはこう書かれている。

『シュ〇ッケン』

 それはグミと呼ばれる、この幻想郷にはあまり馴染みのないお菓子である。
 しかし、そのビジュアルは兎角奇妙であり、色は真っ黒く、細長い棒をグルグルと渦のように巻いたような形状であった。

「これ……本当に美味しいの?」

 小傘はそれを一粒手に取り、まずは匂いを嗅いでみる。倉庫に放置されたまま長年使われてないトラクターの臭いがした。この時点でもう美味しくない事は確定である。明らかに正常な食べ物の匂いではない。しかし、そこでぱっと早苗の顔を見た。ニコニコしてはいるが、小傘にはわかる。これは「逆らえばどつき回す」という脅しを含んだ笑みである。

 これだから小傘は早苗が苦手だった。
 見た目は清純そうなのに、コイツ、中身は完全に半グレの超絶「馬鹿ヤンキー」なのである!

 小傘は覚悟を決め、その得体の知れない物体を恐る恐る一齧りする。そして――。

「うわーんっ! 美味しくないよーっ! 美味しい訳がないよーっ!」

 一言でいうなら自転車のタイヤ味。美味しいわけがない。
 早苗は満足したように高笑いした。わはははは! って。

「何でこんな変なお菓子持ってくるんだよーっ! 面白半分でこんなもの買うなよーっ!」

「あー気が済んだ! この間ヴィ〇ッジヴァンガード妖怪の山店で偶然見つけたんですけど、凄く不味いんですよねこれ。この不幸を誰かと共有したくて堪らなかったんですよ! 私だけがこんな苦痛を味わうなんて不公平ですから! うへへへ!」

 早苗さんの馬鹿ーっ! と小傘は心の奥底から叫んだ。

 何かこの早苗さん、いつもよりテンションが高い。そりゃ今までも普通の人とは若干ズレた部分があったが、ここ最近はもう何と言うか、良くも悪くも頭のネジが2~3本ほど外れてしまっている。一体何があってこんな変貌を遂げてしまったのか?

「簡単な話ですよ! 私はもう、常識には囚われない事にしたんです! スカイフィッシュを探している時にそう決めました! 忌々しい事に、どうやらそれが性に合ってるっぽいんです!」


・補足
 早苗さんがこうなった詳しい経緯を知りたい方は、創想話に投稿された作者の作品『空想イマイマシー』をお読みください。宣伝お疲れサマンサタバサ。


「そんな事知らないよーっ!」

 散々騒ぐだけ騒いだ後、小傘をいじめる事に満足したのか、早苗はすっきりした様子でそのままバス停から出て行ってしまった。好き勝手に揉みくちゃにされた小傘は心底疲れ切った様子ではぁーっとため息をつく。
 ……そこで、早苗のリュックがベンチの上に置きっぱなしにされているのに気付いた。どうやら忘れていったらしい。しかも、リュックには幾分か、微かな膨らみがあった。まだ何かが入っている。小傘はリュックに手を伸ばし、恐る恐る口を開けてみる。

 そこには……甘そうなチョコレート菓子と、一枚の手紙が入っていた。手紙を広げてみると、そこには可愛らしい丸文字で『リュックはちゃんと返しに来てくださいね!』と書かれていた。

 ……随分と回りくどいやり方だが、一応早苗も早苗なりに小傘を応援しているらしい。

「……早苗さんのばか……」

 言いながら、小傘はぎこちなくそのチョコレート菓子を一口頬張った。
 気恥ずかしい甘さが口の中に広がった。

 ……いつか、このリュックを返しに守矢神社へ行かないといけない。

 ……けど。

 …………。

 ………………。

 行きたくないなあー(笑)。

 小傘は思わず笑ってしまった。


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