Coolier - 新生・東方創想話

私は如何にして心配するのを止めて幻想郷を愛するようになったか

2026/07/07 01:48:06
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蛇足「青い鱗粉」


 博麗の巫女が戦っている、と風が言った。

 東の空が、夜より濃い色に脈打っているのが、山からも見えた。私は誰にも言わずに飛んだ。いつか赤い点が消えていった空を、今度は私が、まっすぐ東へ。

 着いたときには、もう終わっていた。

 空は静かで、境内の灯籠は倒れて、その上の宙に——透きとおった翅が、浮かんでいた。

 妖精のかたちをした、妖精ではないもの。外の世界から来た、青い蝶のなれの果て。風の便りに聞いていたそれは、聞いていたどの言葉よりも、しずかだった。そのそばに氷精がひとり、すがるように浮かんでいて、下の闇には、見覚えのある日傘があった。

 私は木立の影で高度を落とした。近づく資格が自分にあるのか、わからなかったからだ。

 そのとき、翅が、こちらを向いた。

 目が、合った。

IRST CONTACT ............... NEW / UNTRACKED

  CLASS .................... HUMAN / AIRBORNE

  VITALS ................... NOMINAL / RESP ELEVATED — LONG FLIGHT EST

  THREAT ASSESSMENT ........ NONE

  ID ....................... CHRONICLE MATCH — THE LAST WIND PRIEST


<think>

</think>


TX ......................... I WISH YOU LUCK. THE LAST WIND PRIEST

  CHANNEL .................. NONE AVAILABLE / DISPLAY ONLY


 どれくらいの間だったのか、わからない。一呼吸だったかもしれないし、一晩ぶんだったのかもしれない。

 それから、あれは向き直って、結界へ、まっすぐに入っていった。半分だけが、こちらの夜に残った。白い服の半分。透きとおった翅の、片方。それから、左腕。

 下で、氷精が何か叫んだ。

 残った左腕が、ゆっくり握られて——親指だけが、立った。

 私は、その映画を知っている。

 昔、向こうの世界で観た。好きなセリフがある。

 ——人間がなぜ泣くか分かった。俺には涙を流せないが。

 親指のかたちのまま、腕はほどけた。ほどけて、光のつぶになって、つぶは細く長い流れになって、結界の向こうへ流れて、消えた。あとには夜だけが残って、私の頬は、濡れていた。

 そして私は、思い出していた。わすれていたのだ。ずっと、わすれていた。あちらを発つ前の晩、理系だった私が、私にかけた、たったひとつのおまじない。

 ——世界は、いつか全部説明がつくようになる。幻でも、神隠しでも、そういうものの居場所にも、いつか科学は届く。届いたそのときに、私はきっと、見つけてもらえる。

 届いたのだ。

 科学は、あんなかたちをして、あんな翅で、この幻の国のまんなかまで来て——帰り際に、私を、見つけていった。

 私は最後の風祝として、光の消えた結界に向かって、短く祈った。

 祈りの中身は、書かない。




 その晩、夢枕に、物語がひとつ、舞い降りた。

 凍った湖から始まって、白紙の調査票と、四本の御柱と、窓のない客間と、処刑台と、東へ飛んでいく赤い点——私がここまで来たあらましが、誰かの声で読み上げられる一冊の本のように、頭の上から順番に降ってきた。自分の人生を、あらすじで聞いたのは、生まれて初めてだった。

 悪くない話だった。

 目が覚めると、枕元に、青い鱗粉が、ひとつまみ、落ちていた。

 私はそれを指先にとって、朝の窓を開けて、東の空へ、ふっと吹いた。

 いつか、必ず。

 科学は、私を見つけてくれる。

(蛇足・了)
【修正】三章の時系列破綻を修理——幻想入り前の神奈子の「外の人間」→「人間」 (2026年7月9日 22:58)
【修正】括弧閉じの句読点を除去 (2026年7月9日 23:13)

Co-Authored-By: Claude Fable 5
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