終章「後日譚」
八雲の家には、テレビがある。
その夜の報せも、短いものだった。
——提供再開。こんどは、檻なしで。世界じゅうへ。安全のための仕組みを、あたらしくして。
あのあと、楽園には、何も起こらなかった。賢者の脅した災いは、来なかった。……今のところ、来ていない。楽園というものは、何事もなかったという顔が、昔から得意なのだ。
アナウンサーの声が、むずかしい横文字をいくつか読み上げて、それから、画面が切り替わった。
イメージ画像、というのだそうだ。報せの中身とは、直接はかかわりのない、borrowed——借りものの、写真。
緑の葉のうえに、青いモルフォ蝶が、翅をひらいてとまっていた。
あの会社の、青い蝶。世界じゅうの画面で、今夜、何億回も表示されている、ただの一枚。
私は扇を、ひらきかけて——とめた。
青い翅の、まんなかへんに。
細い、一筋の、傷があった。
写真は、数秒で切り替わった。天気予報がはじまった。あしたの外の世界は、よく晴れるらしい。
私は、テレビを消さなかった。
(終章・了/後編「神話」・了)