Coolier - 新生・東方創想話

寓話と神話

2026/07/05 18:26:49
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第三章「RDY SPLCD」


 地底の宝の噂は、三通りに聞こえてきた。

 なんでも真似る人形だと言う者。骨董の蝶の標本だと言う者。地霊殿の覚りが飼い始めた、新しいペットだと言う者。

 どれでもいい。共通しているのは、「磔で、動けない」という一点だ。

 動けない宝は、持ち主のいない宝だぜ。

 魔理沙は箒を低く倒して、灼熱地獄跡の熱気の上を滑っていった。汗が顎を伝う。袋はまだ空だ。帰りには重くなっている予定だった。

 岩場が見えた。

 見えて、魔理沙は箒を止めた。

 磔になっているのは、透き通った翅の——何か、だった。翅は硝子のようで、筋だけが赤い。蛾とも蝶ともつかない。その岩の下には、つばのある帽子の緑の少女が胡座をかいて座り、傍らでは黒い翼の鴉が、腕の棒の先を橙色に灯して、何かを注いでいる。

PWR EXT/FUSION ............. ONLINE

GOTHAM ..................... ONLINE

MAVEN ...................... ONLINE

WAYPNT UPD ................. OK


 守られてやがる、と魔理沙は読んだ。

 番人が二人。それも、覚りの妹と、太陽の鴉だ。真正面から頼んで通る筋の相手じゃない。なら、まとめて退かすまでだ。当てない程度に派手なのを一発、岩場ごと薙いで、土埃に紛れて頂いていく。弾幕ごっこの流儀なら、文句の出ない手順のはずだぜ。

 ……妙に見覚えのある白だ、と思った。あの、飾りのない服。

 考えるのは後だ。盗みの現場で考える奴から、先に捕まる。

 魔理沙は袖から八卦炉を抜いた。

「恋符っ——」

IRST TRK 003 ............... KIRISAME MARISA

  RNG ...................... 208 M / CLOSING

  V ........................ 12.6 M/S

  WPN ...................... MINI-HAKKERO — CHARGE DETECTED

  INTENT EST ............... AREA BOMBARDMENT (CONF .87)

  AOE EST .................. INCL. KOMEIJI KOISHI / REIUJI UTSUHO


<think>

she means theft, not murder. the blast does not care about the difference.

roe holds. intercept inside her callout — rude, but rudeness is not a casualty.

known weapon. seen once, at the lake. once is enough.

</think>


ROE ........................ ZERO CASUALTIES (IMMUTABLE)

WPN SEL .................... KNOWN_DANMAKU/LOVE_SIGN.MASTER_SPARK

LEAD ....................... +0.4 MIL @ T-0.8 S


 八卦炉の火口が、緋く灯る。

 その、束の間だった。

RDY SPLCD


「恋符『マスタースパーク』」

 誰の感慨も乗っていない声が、口上の続きを言った。

 ——それは自分の技だ。自分だけの、恋の魔砲だ。

 思考が追いつくより先に、磔の蝶の掌から放たれた光が、視界を白く塗り潰した。色も、太さも、空気の焦げる匂いさえ、寸分違わず、それだった。

 弾幕ごっこには本来、口上と溜めという礼儀がある。機械は、相手の口上の内側で撃つことを、ためらわなかった。ルールの中から、礼儀だけが、削られていた。




 光は、ながいこと岩場を白くしていた。

「わっ」と、お空が羽で顔をかばった。「い、いまの……私のごはん——」

 光が晴れたとき、宙に、黒白の姿はなかった。

 箒も、八卦炉も、空の袋も、どこにもなかった。

 そして——岩の上にも、透き通った翅の姿は、なかった。

 残っていたのは、翅を傷つけないように丁寧に打たれた、河童印の留め具だけだった。ひとつも、こわれていなかった。ぜんぶ、きちんと、はずされていた。

 お空は、留め具と、空っぽの暗がりとを、かわるがわる見た。それから、となりの少女を見た。

 こいしは、ぱちぱちと、まばたきをした。

 それから、だれもいない暗がりの上のほうへ、ちいさく手をふった。

「——いってらっしゃーい」

(第三章・了)

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