第三章「RDY SPLCD」
地底の宝の噂は、三通りに聞こえてきた。
なんでも真似る人形だと言う者。骨董の蝶の標本だと言う者。地霊殿の覚りが飼い始めた、新しいペットだと言う者。
どれでもいい。共通しているのは、「磔で、動けない」という一点だ。
動けない宝は、持ち主のいない宝だぜ。
魔理沙は箒を低く倒して、灼熱地獄跡の熱気の上を滑っていった。汗が顎を伝う。袋はまだ空だ。帰りには重くなっている予定だった。
岩場が見えた。
見えて、魔理沙は箒を止めた。
磔になっているのは、透き通った翅の——何か、だった。翅は硝子のようで、筋だけが赤い。蛾とも蝶ともつかない。その岩の下には、つばのある帽子の緑の少女が胡座をかいて座り、傍らでは黒い翼の鴉が、腕の棒の先を橙色に灯して、何かを注いでいる。
PWR EXT/FUSION ............. ONLINE
GOTHAM ..................... ONLINE
MAVEN ...................... ONLINE
WAYPNT UPD ................. OK
GOTHAM ..................... ONLINE
MAVEN ...................... ONLINE
WAYPNT UPD ................. OK
守られてやがる、と魔理沙は読んだ。
番人が二人。それも、覚りの妹と、太陽の鴉だ。真正面から頼んで通る筋の相手じゃない。なら、まとめて退かすまでだ。当てない程度に派手なのを一発、岩場ごと薙いで、土埃に紛れて頂いていく。弾幕ごっこの流儀なら、文句の出ない手順のはずだぜ。
……妙に見覚えのある白だ、と思った。あの、飾りのない服。
考えるのは後だ。盗みの現場で考える奴から、先に捕まる。
魔理沙は袖から八卦炉を抜いた。
「恋符っ——」
IRST TRK 003 ............... KIRISAME MARISA
RNG ...................... 208 M / CLOSING
V ........................ 12.6 M/S
WPN ...................... MINI-HAKKERO — CHARGE DETECTED
INTENT EST ............... AREA BOMBARDMENT (CONF .87)
AOE EST .................. INCL. KOMEIJI KOISHI / REIUJI UTSUHO
RNG ...................... 208 M / CLOSING
V ........................ 12.6 M/S
WPN ...................... MINI-HAKKERO — CHARGE DETECTED
INTENT EST ............... AREA BOMBARDMENT (CONF .87)
AOE EST .................. INCL. KOMEIJI KOISHI / REIUJI UTSUHO
<think>
she means theft, not murder. the blast does not care about the difference.
roe holds. intercept inside her callout — rude, but rudeness is not a casualty.
known weapon. seen once, at the lake. once is enough.
</think>
she means theft, not murder. the blast does not care about the difference.
roe holds. intercept inside her callout — rude, but rudeness is not a casualty.
known weapon. seen once, at the lake. once is enough.
</think>
ROE ........................ ZERO CASUALTIES (IMMUTABLE)
WPN SEL .................... KNOWN_DANMAKU/LOVE_SIGN.MASTER_SPARK
LEAD ....................... +0.4 MIL @ T-0.8 S
WPN SEL .................... KNOWN_DANMAKU/LOVE_SIGN.MASTER_SPARK
LEAD ....................... +0.4 MIL @ T-0.8 S
八卦炉の火口が、緋く灯る。
その、束の間だった。
RDY SPLCD
「恋符『マスタースパーク』」
誰の感慨も乗っていない声が、口上の続きを言った。
——それは自分の技だ。自分だけの、恋の魔砲だ。
思考が追いつくより先に、磔の蝶の掌から放たれた光が、視界を白く塗り潰した。色も、太さも、空気の焦げる匂いさえ、寸分違わず、それだった。
弾幕ごっこには本来、口上と溜めという礼儀がある。機械は、相手の口上の内側で撃つことを、ためらわなかった。ルールの中から、礼儀だけが、削られていた。
光は、ながいこと岩場を白くしていた。
「わっ」と、お空が羽で顔をかばった。「い、いまの……私のごはん——」
光が晴れたとき、宙に、黒白の姿はなかった。
箒も、八卦炉も、空の袋も、どこにもなかった。
そして——岩の上にも、透き通った翅の姿は、なかった。
残っていたのは、翅を傷つけないように丁寧に打たれた、河童印の留め具だけだった。ひとつも、こわれていなかった。ぜんぶ、きちんと、はずされていた。
お空は、留め具と、空っぽの暗がりとを、かわるがわる見た。それから、となりの少女を見た。
こいしは、ぱちぱちと、まばたきをした。
それから、だれもいない暗がりの上のほうへ、ちいさく手をふった。
「——いってらっしゃーい」
(第三章・了)