そして
夏が近くなってきた。
日差しが真上から墜ちてくる、じりじりと射す日の光。
里では恒例となっている夏祭りの準備が賑やかに進み、
人の往来もいつもより活気に溢れ、強い日差しに負けじと日々の営みを過ごす。
大通りで影踏み遊びをしている子供達。
何処から仕入れた魚を売り歩く人足。
通りに腰掛け野菜を捌く老婆。
遠くに聞こえる蝉の声。
「……と、言うわけでぇ、いま! 守矢神社の入信をして頂けた方には索道の無料券をですね……」
そんな大通りで、一人の巫女が辻説法していた。
最近、妖怪の山に棲み着いたらしいあたらしいかみさま。
その神に仕える巫女。
そんな少女が里に降りて教えを説くというのでこれは見物とちょっとした人だかりができている。少女も少女で、そんな人々に向けて臆することなく守矢の神を喧伝続けているのだった。
「なあ、ねえちゃんよ」
「はいっ、なんでしょう?」
「あんた巫女なんだろう?」
「はいっ! モチのロンです!」
「なら、当然妖怪退治も出来るよな?」
「勿論です! もう何体もやっつけましたよ!」
おお、と里人達がどよめいた。
ふふん、と鼻を鳴らす巫女……実のところ、守矢の神が天狗を雇って何度か妖怪退治の一芝居をしているのが真相なのだが、それにはまるで気付いていない。
巫女に自信を付けさせるため、いずれやってくるだろう「本番」のため、じっくりと巫女の成長を進めているのだ。
「それじゃああんた、妖怪神社に棲むヤツを退治しちゃくれないか?」
「へっ?」
「おお、そうだそうだ、それをしてくれるならこっちゃあ助かる」
「あすこも人が立ち寄らなくなって久しいしなあ……」
……里人達が勝手に話を進めていくのをよく解らないままに聞いてみれば、
なんでも人里どころか獣道のような細道の行き着く先に博麗神社と呼ばれる神社があるらしい。
そこに、住んでいた巫女がいなくなってから、いつからか魑魅魍魎妖怪の類が棲み着くようになったらしい。
いなくなった巫女を思って年に数度は若い衆が掃除に向かっていたのだが、妖怪がいるとなっては危険で放置するがままになっている……とのことだった。
「なんならあんたがそこを新しい神社にしたらどうだ?」
「えっ」
「そうだそうだ、もう誰もいないのだから、あんたが住めばどうだ?」
「えええ~」
――そうして、守矢の巫女は「ようがす!」と勢い勇んで博麗神社へと向かうことに……なってしまったのだった。
***
飛行できる巫女でも、辻説法が終わってからそこに辿り着いた頃には夕刻になっていた。
言われたとおりの特徴と、貰った地図を頼りに上空を飛んで、ようやっと見付けることが出来るような小さな神社。
夕陽に目立たなくなっている鳥居の赤。その根元へと降り立った。
「妖怪……上からは何も見えなかったなあ」
見えたのは草木が生えて荒れ放題になった家屋と境内だけだ。鳥居も、掃除されていないからか色褪せていた。
まずは草むしりから始めなきゃなあ……等と、この神社の再利用を計画しながら足を踏み入れる。
「おじゃましまーす……っと」
妖怪が何処から現れるか解らない。
おっかなびっくり、へっぴり腰で境内から拝殿へと進む巫女。
荒れているとはいえ見晴らしは良い(ものがすくないからだが)
だが昏く影を落とす社務所の中に潜んでいるかもしれないし、もしかして拝殿の扉の向こうにいるやもしれぬ。
油断は禁物。
妖怪退治すれば里の皆が安心できるなら、巫女は頑張らねばならないのだ。
夕闇が赤から紫へとその色を変え始めた頃、
狭い神社の中を概ね見回りきった。
「なにも……いない。なあんだ、妖怪だなんていうから、てっきり怖いのがいるのかと……」
等と言いつつ胸をなで下ろしていると――。
がらり、と、
社務所の雨戸が開く。
「ひいいいいーっ!」
「わっ」
巫女は大声と共に腰を抜かしてしまう。
無人の場所と聞いていたのだ、そんな折、すぐ傍の建物から人が現れたとあってはそりゃあ、驚く。
「わっわ、わわ……妖怪退散!」
思わず霊力込みの米を投げつけるのも致し方ないというものだ。
巫女が袖から振り撒いた米をモロに浴び、少女はぽかんと立ち尽くす。
「あんた……だれ?」
「ひ、ひ、ひ……あ、あれ?」
其処に立っているのは……なんとも愛らしい、白いドレスの幼女であった。
米の雨を被り、不機嫌を隠していない顔で、巫女を見下ろしている。
巫女はようやっと落ち着きを取り戻し……その幼女を見つめた。
「あ……あのあの、すいません……まさか、住んでいる人がいたなんて」
「いないよ」
「へっ?」
「ここに住んでいる“人”はいない」
「そ……そうなんですか」
「だけど、いつか、いつか帰ってくる。私は……それを待っている」
「は、はあ……」
……よく見れば……なんて綺麗な幼女だろう。
白いドレスに青みがかった銀の髪。ルビーみたいに綺麗な真紅の瞳が夕闇の残照を受け輝いていた。およそ人間離れした美しさだ。
「――で? お前は何?」
「あ、わ、わたしは……守矢神社の巫女で、東風谷早苗と申します。こ、此処の神社を守矢神社の分社にしようと思いまして、その……下見というか、噂話に乗っかったというか……」
「…………分社ァ?」
びきり、と空気が凍った。
目前の、息を呑むほど綺麗な幼女の顔が、凄い険を浮かべている。
綺麗な娘は怒っても綺麗だなあ……なんて脳天気なことを考えつつも、何か怒らせてしまったのかと慌てて両手を振る巫女、早苗。
「あ、あ、あ、いいです、要らないです! こんなきったない神社、守矢本社と比べるべくもないですし、分社しただけで社格が下がっちゃいそうだし……なんて……あはは……」
びきびき、と空気が張り詰める。
あれ? なんか……もっと怒った?
「お前……死にたいのか?」
「へっ?」
「此処は……あの子の家だ。あの子が帰る場所だ。他の誰にも譲るものかよ」
「あ……あの……御気分を害されたならスイマセン」
幼女は早苗の謝罪を完全に無視して境内に降りる。そして――遥か空を見上げた。
「お前、巫女と名乗ったな」
「え、あ、はいっ、守矢神社という、向こうの山の大きな神社でして……」
「あの新入りか……咲夜というメイドが挨拶に行ったことがあったろう」
「え、あ、はいっ……私、幻想郷に入りたてのときだったし、ボコボコにされちゃって……って、なんで知っていらっしゃるのですか?」
「ふ……」
幼女はまたしても早苗を無視して空を指差す。
「もう、待つのは飽きたのだ」
「?」
「終わらない冬も、終わらない宴も、終わらない夜も、乱れる花、乱れる気質……どれもこれも、あの子は……そして、お前らが来た。私はもう、待つのは飽きたんだ」
幼女の指さしている遥か遠く。
その雲が……夕闇の紫から、思い出したように紅さを取り戻していく。
紅は赫となり、物凄い勢いで空を侵蝕していく。
「な……なんですか、あれ……?」
「もう一度、思い出すがいい、幻想郷よ、お前が危機に陥った時、現れるものを。もう私は飽きた! 会いたい! あの子に逢いたい! ……どうして、一言も、礼すらさせてくれなかった……」
「…………あ、あの……」
「お前は巫女なのだろう? なら、あの異変を解決するのだな。名を紅霧異変という」
天変地異が起こっている。
天の色が変わっていく。
陽光が閉ざされていく。
世界が緋に染まっていく。
それなのに、幼女は心底楽しそうで、
早苗はまるで夢でも見ているのではないかと自分の頬を軽く抓って涙を浮かべた。
「待っているぞ、巫女。今度はフランドールのためじゃない。私のために私が拡げた霧だ。お前が異変解決の巫女だというならば、見事解決して見せろ! お前にも、参加券だけはくれてやる!」
「あのっ! さっぱり話が見えません!」
「待っている……待っているから……」
「あのっ! 待って――」
そこまで言い切ると、幼女は満足したのか――最初、赫の拡がり始めた地点へと飛び去っていく――速い、速い、速い! あんな速度で飛べるって、何者!?
早苗が驚いている間に、幼女の白い小さな影は紅霧の彼方へと消えていってしまった……。
「あ……の……」
ぽかんとしたまま、数分。
ようやく、我に返って、もう一回眼をゴシゴシ擦ってから空を見上げる。
……見間違いではないようだ。
世界が紅くなっていく。
解決? これが異変? 確かにかみさまから異変とその解決についての話を聞いてはいたが、そんなそうそう起こるものじゃないと笑い話にされていたのに。
「どうしよう……わたし、こんなの……しらないよう……」
とにかく、いったん帰ろう。
帰って御神託を受けよう。
ににににに、逃げるわけではないわ。
なにをするにも心の準備が必要だもの。
早苗が飛び立とうとしたそのとき。
「……異変は待ってはくれないわ。いつ何時、何処で、何が起ころうとも、その時の自分で立ち向かうしかないのよ」
――背後から、声がもうひとつ。
振り向いた其処に、紅白二色、おめでたいカラーリングの巫女さんが立っていた(自分も巫女だが)
黒髪黒瞳。意志の強そうな眼差しは、遥か高みの赤を見つめている。
もはや吃驚慣れした早苗は、ぽかんとした顔のまま、訪ねる。
「あの……どちらさまで?」
「私は――」
おわり
夏が近くなってきた。
日差しが真上から墜ちてくる、じりじりと射す日の光。
里では恒例となっている夏祭りの準備が賑やかに進み、
人の往来もいつもより活気に溢れ、強い日差しに負けじと日々の営みを過ごす。
大通りで影踏み遊びをしている子供達。
何処から仕入れた魚を売り歩く人足。
通りに腰掛け野菜を捌く老婆。
遠くに聞こえる蝉の声。
「……と、言うわけでぇ、いま! 守矢神社の入信をして頂けた方には索道の無料券をですね……」
そんな大通りで、一人の巫女が辻説法していた。
最近、妖怪の山に棲み着いたらしいあたらしいかみさま。
その神に仕える巫女。
そんな少女が里に降りて教えを説くというのでこれは見物とちょっとした人だかりができている。少女も少女で、そんな人々に向けて臆することなく守矢の神を喧伝続けているのだった。
「なあ、ねえちゃんよ」
「はいっ、なんでしょう?」
「あんた巫女なんだろう?」
「はいっ! モチのロンです!」
「なら、当然妖怪退治も出来るよな?」
「勿論です! もう何体もやっつけましたよ!」
おお、と里人達がどよめいた。
ふふん、と鼻を鳴らす巫女……実のところ、守矢の神が天狗を雇って何度か妖怪退治の一芝居をしているのが真相なのだが、それにはまるで気付いていない。
巫女に自信を付けさせるため、いずれやってくるだろう「本番」のため、じっくりと巫女の成長を進めているのだ。
「それじゃああんた、妖怪神社に棲むヤツを退治しちゃくれないか?」
「へっ?」
「おお、そうだそうだ、それをしてくれるならこっちゃあ助かる」
「あすこも人が立ち寄らなくなって久しいしなあ……」
……里人達が勝手に話を進めていくのをよく解らないままに聞いてみれば、
なんでも人里どころか獣道のような細道の行き着く先に博麗神社と呼ばれる神社があるらしい。
そこに、住んでいた巫女がいなくなってから、いつからか魑魅魍魎妖怪の類が棲み着くようになったらしい。
いなくなった巫女を思って年に数度は若い衆が掃除に向かっていたのだが、妖怪がいるとなっては危険で放置するがままになっている……とのことだった。
「なんならあんたがそこを新しい神社にしたらどうだ?」
「えっ」
「そうだそうだ、もう誰もいないのだから、あんたが住めばどうだ?」
「えええ~」
――そうして、守矢の巫女は「ようがす!」と勢い勇んで博麗神社へと向かうことに……なってしまったのだった。
***
飛行できる巫女でも、辻説法が終わってからそこに辿り着いた頃には夕刻になっていた。
言われたとおりの特徴と、貰った地図を頼りに上空を飛んで、ようやっと見付けることが出来るような小さな神社。
夕陽に目立たなくなっている鳥居の赤。その根元へと降り立った。
「妖怪……上からは何も見えなかったなあ」
見えたのは草木が生えて荒れ放題になった家屋と境内だけだ。鳥居も、掃除されていないからか色褪せていた。
まずは草むしりから始めなきゃなあ……等と、この神社の再利用を計画しながら足を踏み入れる。
「おじゃましまーす……っと」
妖怪が何処から現れるか解らない。
おっかなびっくり、へっぴり腰で境内から拝殿へと進む巫女。
荒れているとはいえ見晴らしは良い(ものがすくないからだが)
だが昏く影を落とす社務所の中に潜んでいるかもしれないし、もしかして拝殿の扉の向こうにいるやもしれぬ。
油断は禁物。
妖怪退治すれば里の皆が安心できるなら、巫女は頑張らねばならないのだ。
夕闇が赤から紫へとその色を変え始めた頃、
狭い神社の中を概ね見回りきった。
「なにも……いない。なあんだ、妖怪だなんていうから、てっきり怖いのがいるのかと……」
等と言いつつ胸をなで下ろしていると――。
がらり、と、
社務所の雨戸が開く。
「ひいいいいーっ!」
「わっ」
巫女は大声と共に腰を抜かしてしまう。
無人の場所と聞いていたのだ、そんな折、すぐ傍の建物から人が現れたとあってはそりゃあ、驚く。
「わっわ、わわ……妖怪退散!」
思わず霊力込みの米を投げつけるのも致し方ないというものだ。
巫女が袖から振り撒いた米をモロに浴び、少女はぽかんと立ち尽くす。
「あんた……だれ?」
「ひ、ひ、ひ……あ、あれ?」
其処に立っているのは……なんとも愛らしい、白いドレスの幼女であった。
米の雨を被り、不機嫌を隠していない顔で、巫女を見下ろしている。
巫女はようやっと落ち着きを取り戻し……その幼女を見つめた。
「あ……あのあの、すいません……まさか、住んでいる人がいたなんて」
「いないよ」
「へっ?」
「ここに住んでいる“人”はいない」
「そ……そうなんですか」
「だけど、いつか、いつか帰ってくる。私は……それを待っている」
「は、はあ……」
……よく見れば……なんて綺麗な幼女だろう。
白いドレスに青みがかった銀の髪。ルビーみたいに綺麗な真紅の瞳が夕闇の残照を受け輝いていた。およそ人間離れした美しさだ。
「――で? お前は何?」
「あ、わ、わたしは……守矢神社の巫女で、東風谷早苗と申します。こ、此処の神社を守矢神社の分社にしようと思いまして、その……下見というか、噂話に乗っかったというか……」
「…………分社ァ?」
びきり、と空気が凍った。
目前の、息を呑むほど綺麗な幼女の顔が、凄い険を浮かべている。
綺麗な娘は怒っても綺麗だなあ……なんて脳天気なことを考えつつも、何か怒らせてしまったのかと慌てて両手を振る巫女、早苗。
「あ、あ、あ、いいです、要らないです! こんなきったない神社、守矢本社と比べるべくもないですし、分社しただけで社格が下がっちゃいそうだし……なんて……あはは……」
びきびき、と空気が張り詰める。
あれ? なんか……もっと怒った?
「お前……死にたいのか?」
「へっ?」
「此処は……あの子の家だ。あの子が帰る場所だ。他の誰にも譲るものかよ」
「あ……あの……御気分を害されたならスイマセン」
幼女は早苗の謝罪を完全に無視して境内に降りる。そして――遥か空を見上げた。
「お前、巫女と名乗ったな」
「え、あ、はいっ、守矢神社という、向こうの山の大きな神社でして……」
「あの新入りか……咲夜というメイドが挨拶に行ったことがあったろう」
「え、あ、はいっ……私、幻想郷に入りたてのときだったし、ボコボコにされちゃって……って、なんで知っていらっしゃるのですか?」
「ふ……」
幼女はまたしても早苗を無視して空を指差す。
「もう、待つのは飽きたのだ」
「?」
「終わらない冬も、終わらない宴も、終わらない夜も、乱れる花、乱れる気質……どれもこれも、あの子は……そして、お前らが来た。私はもう、待つのは飽きたんだ」
幼女の指さしている遥か遠く。
その雲が……夕闇の紫から、思い出したように紅さを取り戻していく。
紅は赫となり、物凄い勢いで空を侵蝕していく。
「な……なんですか、あれ……?」
「もう一度、思い出すがいい、幻想郷よ、お前が危機に陥った時、現れるものを。もう私は飽きた! 会いたい! あの子に逢いたい! ……どうして、一言も、礼すらさせてくれなかった……」
「…………あ、あの……」
「お前は巫女なのだろう? なら、あの異変を解決するのだな。名を紅霧異変という」
天変地異が起こっている。
天の色が変わっていく。
陽光が閉ざされていく。
世界が緋に染まっていく。
それなのに、幼女は心底楽しそうで、
早苗はまるで夢でも見ているのではないかと自分の頬を軽く抓って涙を浮かべた。
「待っているぞ、巫女。今度はフランドールのためじゃない。私のために私が拡げた霧だ。お前が異変解決の巫女だというならば、見事解決して見せろ! お前にも、参加券だけはくれてやる!」
「あのっ! さっぱり話が見えません!」
「待っている……待っているから……」
「あのっ! 待って――」
そこまで言い切ると、幼女は満足したのか――最初、赫の拡がり始めた地点へと飛び去っていく――速い、速い、速い! あんな速度で飛べるって、何者!?
早苗が驚いている間に、幼女の白い小さな影は紅霧の彼方へと消えていってしまった……。
「あ……の……」
ぽかんとしたまま、数分。
ようやく、我に返って、もう一回眼をゴシゴシ擦ってから空を見上げる。
……見間違いではないようだ。
世界が紅くなっていく。
解決? これが異変? 確かにかみさまから異変とその解決についての話を聞いてはいたが、そんなそうそう起こるものじゃないと笑い話にされていたのに。
「どうしよう……わたし、こんなの……しらないよう……」
とにかく、いったん帰ろう。
帰って御神託を受けよう。
ににににに、逃げるわけではないわ。
なにをするにも心の準備が必要だもの。
早苗が飛び立とうとしたそのとき。
「……異変は待ってはくれないわ。いつ何時、何処で、何が起ころうとも、その時の自分で立ち向かうしかないのよ」
――背後から、声がもうひとつ。
振り向いた其処に、紅白二色、おめでたいカラーリングの巫女さんが立っていた(自分も巫女だが)
黒髪黒瞳。意志の強そうな眼差しは、遥か高みの赤を見つめている。
もはや吃驚慣れした早苗は、ぽかんとした顔のまま、訪ねる。
「あの……どちらさまで?」
「私は――」
おわり
はじめ、紅魔郷アレンジとな、また安直な。という思いで読み出したものでしたが、原作のゲーム性を如何に小説上に反映するかというところで画一的な独自性を感じました。拒否反応とかはございません。確かに「そのゲームオーバーの解釈」はやや、ビックリなところはあれど小説に落とし込む上で違和感はなく。
レミリアとの決戦で一合目、二合目と数えたのはいいアクセントですね。いっこずつの攻防が如何に熾烈だったのかを読者に印象付けています。
また、序盤、
「今頃騒ぎは伝播しているのだろう。
人々が恐怖に慄いているのだろう。
折角寝静まった子供が起こされたかもしれない。
明日の野良仕事を邪魔されて困っている農夫さんたちが沢山いるかもしれない。
良い気分で酔っ払っていた人がたちまち酔いを醒まされたかもしれない。」
が、異変解決後、
「今頃騒ぎは落ち着いた頃だろう。
人々は騒ぎを納めて家に帰っているのだろう。
折角寝静まった子供が起こされたかもしれないけど……また、お母さんと一緒に眠るだろう。
明日の野良仕事に間に合わんと慌てて布団に潜り込む農夫さん達が沢山いるだろう。
良い気分で酔っ払っていた人が、悪酔いしたかなと家に帰っているだろう。」
と対照的に語っているのもセンスあります(お母さんのとこが好みっ)。
このようなスキルは未だ私になかったため、とっても参考になりました。お疲れ様です。
最後、「異変を解決する巫女概念」と化してしまった霊夢さんのようでちっょと哀しかったり。この幻想郷の何人かは概念霊夢さんに脳やかれてそうで。
戦闘シーンなどは非常に見応えがありました。
早苗さん、このあと酷いことになりそ……
緊張の初陣
想定外の動き
想像以上の敵
死闘に次ぐ死闘
これぞコンバット・プルーフでした
怪物と戦っているはずなのに人間側の優位が「不死性」というのも原作の仕様が落とし込まれていて素晴らしかったです
ありそうでなかったテーマが余すことなく書ききられていて最高でした
最後の最後まで「自分」を捨てずに相手と向き合う気持ちを持ち続ける姿が勇ましく描かれる一方で
「立てない……飛べない…………あんなものになりたくない……どうしてわたしなの? わたしは、ただのおんなのこでよかった、なんにもできなくていい、飛べなくたって、つよくなくたっていい……里の子達が、羨ましかった……」
本音の部分も合わせて語られていたのがより強く印象に残りました。面白かったです。