Coolier - 新生・東方創想話

異譚・紅魔郷

2025/02/23 17:22:24
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創生

「……存在の核を壊したのに戻ってくるなんてねえ」

気付けばホールに立っていた。
そして、目前には先のメイドはいない。
代わりにいたのは、金髪の幼女。
赤を基調にしたドレス。何処までも燦めく真紅の瞳。
口元には楽しげな笑みが張り付き、しかしその視線は何処か――遠くを見ているような、なにものをも見ていないような、焦点の定まらない眼。
とても愛らしい姿をしているが、その背から生えた奇異なる翼で人外と知れる。
なにより――おぞましいまでの雰囲気が、あった。
霊夢は直感する。

「貴女がこの事件の元凶のようね」
「……? 何言ってんの?」
「違うの?」
「私に聞くなよ、バーカ」

とても愛らしい子だ。
破壊の気配を撒き散らす乱暴さは目障りだが。
近付く破壊の気配の悉くを祓いながら、霊夢は目前の吸血幼女の処遇に迷う。

……殺す?
いいや、なぜだかそれは止めるべきと、思う。

「……勘に障るヤツだな。おまえ」
「博麗霊夢。貴女は?」
「……フランドール。フランドール・スカーレット」
「そ。それじゃフランドール、あんたが元凶じゃないのね? 勘違いか、ごめんね」
「あのさ」
「ん?」
「私さっきからあんたを壊し続けているのだけど」
「知っているわ。躱しているのよ」

幼女の瞳の紅が燃える。
いけない、怒らせてしまったか。

「そんなこと聞いてない! なんで、当たらないのかって言ってるのよ!」
「そりゃ躱しているからって言ってるじゃない」
「本当、癇に障るヤツだなあ……いいや、もう、戦おうか」
「うぅん……まあそうなるか。そうね、邪魔するなら、斃す」

――そういうことになった

フランドールが魔力を集中させ、その手に巨大な炎の柱の如きを生み、振り回してくる。

「今度こそ手加減してあげないから!」
「さっきはしていたの?」

恐るべき破壊の気配。
ほんの少し触れただけでも、また奈落にまっさかさまとなるだろう。
怖い、だが、怖くない。
恐怖は感じねばならない。
脅威を脅威と受け取れなくなってしまうから。
だから、こわいけど、がまんして、乗り越える。
避ける、避ける、避ける。
ほむらのあぎとを避け、魔力弾を飛び退り、空を蹴って身を翻す。
針の隙間ほどの間隙を飛び、退り、時に死に戻りで体験した空間を超える術を応用し、世界の隙間を潜って躱す。
そして時々、好機を窺って退魔針を投げつけた。
霊夢の手から放たれた針は、霊夢と同じように破壊の領域を縫うように進み、やがて悪魔の幼女の身体を穿つ。
――一回投げたら、どこかのタイミングで回収しなければならなくなったのが実に面倒臭い。
札も、だ。今回は持たなかったが、次からは紙と墨と筆を携帯せねば。

「いつでも頼れるのは玉だけか」

躱しきれないときだけ陰陽玉に霊力を籠め、破壊の薄い場所を霊力で砕く。
鍛えに鍛え抜かれた精髄なる霊気は黄金色の輝きを纏いおぞましき破壊の意思すら撥ね除ける。そうして生まれた安全地帯に飛び込んでいく。
――とはいえ霊力だって、一つの戦闘では体力とおんなじで、いつかは尽きる。無駄遣いは出来ない。
霊夢の敵は、もっぱら消費リソースになっていた。

「さあて、どうしたものか……」

【この子を殺すべきじゃない】
直感が、深淵からの声が、告げている。
幾億ものわたしからの助言には、未来視にも似たものがあった。
あそこは、時間からも見放された場所。
たぶん、未来の霊夢もいたのだろう。
だからだろうか、その忠告は意味合いが曖昧だ。ただ、この子は殺すべきではない、その印象だけが強く残る。
……とはいえ、こんな破壊に晒され続けるのは流石にキツイ。
霊夢は斃すことから無力化する方法へと思考をシフトしながら破壊をひたすらに躱し続ける。
思考しつつも身体は勝手に反応して最善の回避を行い、回避不能の弾幕には空間を跳ぶか陰陽玉で対処する。
……その様はまるで、気侭に宙空を泳ぐ魚のようであった。

「……凄い」

玄関ホールで繰り広げられる死闘。
美鈴は少し離れた廊下でその光景を見つめていた。
あれが、先の巫女なのか?
可愛らしい未熟さも、
迸るが如き黄金のオーラも、
今はどちらも感じない。
だが……圧倒的だった。

毛先一つでも触れたら消えゆく破壊の波の中を、優雅に泳ぐ紅白金魚。

悪魔の妹の放つ破壊は館のオブジェを焦土に変えていく。粉砕、消失、そして、破壊。それこそ蟻一匹あの空間に生存することは許されない――筈なのに、あの巫女はその致死なる空間の只中をふわり、ふわりと漂い続ける。
ひょっとして、あれが……あれが巫女の本来の姿なのではなかろうか。
あれは、怪物だった、
あれは、未熟な少女でもあった、
あれは……あれこそが、それら全てを内包する“人間の巫女、博麗霊夢”そのひとなのではなかろうか
だとすれば……紅魔館総出であの巫女の成長を促している……と、いうことになってしまう。

――お嬢様の狙いは、まさか。

「なんで、なんで、あたらないのよう!」
「当たったら、死ぬからねえ」
「死ねって言ってるの!」
「それは聞けん。私にはまだしなきゃいけないことがある」

狂気なる破壊の只中をふわりふわりと生存し続ける巫女。
時折撃ち出す退魔の射撃もまた、尋常ならざる威力であった。大妖であるフランドールに目に見えてダメージが蓄積されていく。
美鈴が忠告した、回避と攻撃の同時は完全に成され、かつ、練り上げる霊力も先のものとは比べるべくもない。
少ない霊力で最大限の威力まで練り上げられるそれは、技の粋である。
……あの苛立ちは攻撃が当たらないことだけではない、
不死であるはずの己の身体に急激な衰退が起きていることに焦っているのだろう。
フランドール・スカーレット。
妹様。
あの御方は確かにお強い。強さだけなら、紅魔館の誰よりも、お嬢様よりも強いだろう。
だが、戦闘となれば……お嬢様にも、恐らく賢者にも劣る。
戦闘経験の無さ、あまりにも強力な能力の行使だけで“勝ててしまう”境遇。
そして……。

「おまえはこわれなきゃだめなんだ!」
「そう。なら、世の中には儘ならないこともあるって学びな」

今までで一番激しい針と、防御にだけ使っていたと見えた陰陽玉の掃射。
フランドールの幼い身体に針が次々突き刺さり、陰陽玉の一撃が奇異なる羽根の一枚を破壊した。

「あっ!」
「――妹様」

美鈴は、踏み込むのを我慢した。
まだだ、まだ、その時ではない。

「勝負ありね」
「痛い……いたいいたいいたいいたい!」
「……まいったな。なんだか私が虐めてるみたいじゃない。全く逆のシチュエーションだっていうのに」

幼い幼女は身体を転がし、初めての痛苦に身悶え、泣いた。
泣いて、泣いて、そして立ち上がる。

「ゆるさない……私の身体を壊したな……!」
「ねえ、もう止めましょう? 貴女に与えたダメージは、戦闘を続けるには――」

言葉を止め軽く頭を動かして、破壊の波を避ける。
悪魔の妹は苛立ち、その場で床を踏み抜いた。

「なんで死なないのよ!」
「死なないんじゃない。死んじゃいけないのよ、もう」
「……?」
「まあこっちにも色々あるのよ……それより、本当に続けるの? 貴女――死ぬわよ」
「ふざけるな! 死ぬのはおまえだ!」

紅い瞳が見開かれ、破壊の波ではない、
最初に成功させた存在核の破壊。
それを成すための視線。魔眼。
巫女の身体にある存在核を――視た――途端。

「あッ! ギャアアアアアッ!」
「……言わんこっちゃない」

フランドールの脳の処理能力を遥かに超えた情報量が一気に流れ込んできた。
霊夢が視られる、と意識した瞬間、自分が体験した、奈落の屍山の幻像を見せたのだ。
幾千、幾万、幾億の核。そんなもの、認識できるわけがない。
それなのに能力は意志に従い“把握”しようとしてしまった。目標を定められない能力がジレンマに陥り、起きたのはオーバーフロー、即ち、能力の暴走であった。


姉妹

「パチェのヤツ……!」

此処まで運命の定める通りに事が進んでいたのに。
魔女が「紅霧の状況を確認する」と席を立った後に起きたのは、妹――フランドールの解放だった。
レミリア・スカーレット。紅魔館の館主には、運命を操る能力が備わっている。
しかしそれは、未来視ではない。
未来決定能力でもない。
酷く曖昧なものだ。
自分でもよく解っていない節がある……が、強く願ったことが叶わなかったことは少ないので、概ねそんなかんじの能力だ、と自己結論に至っている。
そんなレミリアが見つめていたのは――巫女。
博麗霊夢そのひと。
館に入ってから、いいや、美鈴と戦っている場面、いいや――

彼女が使命を帯びて、空へ飛び立つところからずっと“視ていた”

宵闇の妖怪……雑魚に殺され、陵辱を受け、
氷の妖精……雑魚に殺され、遺骸をばらばらにされ、
回帰に目覚め、
一の部下、紅美鈴と対峙。
回帰を更なる高みへと昇華させ、
二の部下、十六夜咲夜と対峙、
人間ではまず及ばぬであろう時間停止、空間支配の能力を、ただ蘇るだけの術でねじ伏せた。

そして――はじけて、きえた

椅子に深く座り、大きく溜息を吐く。
そして魔力を閉じ、画面を消した。
……フランドールが出てきた以上、もう視られない。
まさかあの魔女がこんな……こんな、手を噛むような真似をするなんて。
流石に予想外だった。

「まいったな……今度こそ、上手く行くと思ったのに」

こんな、紅霧なんて目立つ真似までしてやったのに。
……せめて、パチュリーにだけはちゃんと話しておくべきだったろうか。
いや、反対されて、終わりか。

画面が閉じられ、朧に光る紅光が差し込む部屋の中、一人目を閉じる。
巫女が……あの扉を開くことを楽しみにしていたのに。
ダンス・ホールの両扉を見つめながら、レミリアは幼さの残る丸み帯びた顎を撫で、思索に耽る。
……あの巫女、なかなかの胆力だった。
己が食われる恐怖からすぐさま立ち上がれるか?
己が砕ける痛みからすぐさま同じ痛みを享受できるか?
それもこれも、ひとのこころのままで、だ。
妖怪ならそれもできようものはいよう。
だって、自然のあらましに過ぎないからだ。
なあに、次があるさ、と、身体が、本能が囁く。
かくいう我が身がそうである。
ノスフェラトゥのこの身を何度打ち砕かせてきたか。
とうに痛みを制御できる身体になっていた。
そんなもの、必要ないからだ。
痛みとは、命が危険を叫ぶ声だ。
命無き我等にその声は、要らない。
……人間の中にも回帰を異能としてもつものはいる。だが、能力があるからといって、ひとのこころのままにそれを成せるものか?
……まあ、何かが壊れているのだろう。
そして、そんな壊れたものをこそ求めていた。

我が身へと至る牙持つにんげんを。

――気配。

「御機嫌よう」
「……ノックもしないとは失礼なヤツだ」
「申し訳ありません。ですが、内緒話がしたかったもので」
「フン……今の私はすこぶる機嫌が悪いぞ。それでよければ、話せ」

気配が姿を現す。
魔女が空間を閉じる術を紅魔館全体にかけていたはずなのに、この隙間妖怪はどこから入ってきたのだか。
レミリアの間合いの内に、隙間妖怪。
輝くような金の髪、艶持つ美貌、その相貌には鼻持ちならない笑みが張り付く。
八雲紫、幻想郷の管理者がぬるりと姿を現した。

「席を用意して頂けるだけでも充分ですわ。元々、私達の相性は悪い」
「解っているじゃない」
「それ故に火急の件と御理解頂ければと思います」
「回りくどいのは嫌いだ。さっさと話せ」
「……巫女を知っていますね?」
「識らないよ」

ぴしり、と空気に罅が入る。

「困りましたわね、話が進みませんわ」
「お前が勝手に止めているだけだろう? 言ったはずよ。回りくどいのは嫌いだと」
「……では、あの巫女をどう利用するつもりだったのか、聞いて良いでしょうか?」
「利用? それはお前のことだろう。私は……私の邪魔をするものを返り討ちにする気満々だっただけのことよ。それが巫女であろうと、魔法使いであろうと」
「紅霧、そんなもののために?」
「失礼ね、私も、そしてパチェも、凄く頑張って作ったのよ? そんなものとは言ってくれる」
「日光を気にせず出歩ける……だったかしら? 体裁は」

ぴし、と、罅は広がった。

「……本当に好かんな、お前の話し方は」
「数多人の腹の闇を振り払ってきた貴女にそう評されるのは光栄ですわ」
「もう消えろ。お前の知りたいことはもうここにはないよ」
「……そうさせてもらいましょう」

紫が手にした扇子で空を裂く。
するりと隙間……異界の穴が現れ、其処に身体を沈ませていく。

「ああ、そうそう……今外は、面倒なことになっていましてよ」
「なに?」

するりと穴が閉じる。
後には紅の闇と沈黙だけが残った。
……あの扉の向こう、吹き抜け階段で咲夜が戦い、フランドールが乱入した。
一撃で巫女は消えた。
いや、破壊された。
目論見は此処に潰えた。
……違うのだろうか?

「…………視ない、視てはいけない」

レミリアは自分にそう言い聞かせ、扉へと歩きだした。


***


「妹様!」
「――」

遂に美鈴が耐えきれず飛び出そうと――して、霊夢と目が合った。
既に巫女は潜む美鈴の存在に気付いていた。
その視線が合い、美鈴は破壊の最中に踏み込むことを止めた。
……臆したのではない、
巫女の黒瞳に、意味を見出したのだ。

――「任せろ」と。

「あんた、フランドールと言ったわね」
「く……来るな! 来るな! なに、なによ、あんた!」
「……凄いわね、あんた“達” わたしにも気付けなかったわたしたちを視れるだなんて。だけど、それは視てはいけないものよ。はやく眼を閉じなさい?」
「ぐ、グ、グゥゥゥッ」
「――あんた、能力の絞り方も知らないの?」
「痛い、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい! 頭が割れる!」

頭を抑え転げ回る幼女を前に、霊夢は周囲の破壊の波が秩序を失っていくのを感じる。
今まで及ばなかった、壁や床までもが破壊され、消失し、粉みじんになっていく。
芸術的な洋装が木屑となり、土塊となり、瓦解していく。天井が崩壊し、シャンデリアが墜ちてきて、その途中できらきらと霧散していく。

「聞きなさい、フランドール」
「私の傍に来るなーッ!」

破壊の視線。
自ら近付いたせいで回避行動ができなかった。
霊夢は左胸が破裂――する事を直感し、ちからの収束よりもなお早くちからを腕のほうへと伝導させ、伝わったと同時に右手を一閃、左腕を切り落とした。
同時、ぱぁんと破裂する、腕。

「ッ……ぐううっ」

激痛に歯軋りしながら、結界札を展開、左腕に巻き付け応急手当と腕の代わりをさせる。多量の血が流れ出すのを許さず札は腕の形を創り出し、流れ出す血がその中を循環し始める。
酷い痛みだが――それでも、動きだしては、くれた。
札が腕の輪郭を精巧に型取り、指先の一つまでもを再現、その中身を再生しながら元来の動きを霊夢の意志と共にトレースし始める。
……はじめての対処にしては上出来だろう。
二度としたくはないが、これからこの技術には、きっと何度もお世話になるのだろうことを予想してしまう。
回帰ではなく、治癒(常識外れの治癒ではあるが)
もう戻る事は出来ない。
ひととして、巫女として生きるのだから。

「……ッ、やるわね、ワンミスだわ」
「なんで……なんで……いたい、いたい、いたいよう……たすけて……たすけてお姉様……なんで来てくれないの……御本を読んで……」
「聞きなさい、フランドール」
「やだぁ……頭が……」
「いいから聞くの。いい? 眼を閉じなさい」
「…………閉じているわ」
「心の眼も、閉じるのよ」
「いたい……無理……無理よ……」

ぐすぐすと泣くその姿からは、先の狂気は感じられない。
流れる涙は血涙であった。
恐らく脳が……自壊している。吸血鬼の再生が崩壊を止めているのか。
憐れなそのすがた……何年生きているのか識らぬが、年端のいかぬ幼女そのまんまのすがたであった。

「できるわ、あんたになら」
「できない……」
「できなきゃ死ぬだけ。死にたくないでしょ? 痛いのはいやでしょう? さあ、眼をとじな」
「うぅ……ううう……」
「……やれやれね」

霊夢は左腕の激痛を耐えながら、しかし顔にはできるだけそれを見せず……
足元で悶え苦しむ悪魔の妹に跪き、
そして……抱きかかえた。

「いつから痛むの?」
「ずっとまえ、ずっと、ずっとまえ……頭に、石を埋め込まれてから、ずっと……溶けては来たけど、まだちからをあんまりつかっちゃだめって、パチュリーが……」
「…………」

境遇は解らないが、途方もない凄絶だけは、解る。
能力の操作を識らないこの子は行使の度、どれだけの痛苦を耐えてきたのだろう。魔眼である以上、よもや行使に関わらず痛みは常に共にあったのかもしれない。
誰にも言わなかったのか? 否、誰に告げたとてどうしようもないことなのか。
再生が、狂うことすら許さない。狂わずして、狂っていったのだろう。
死ぬことすら出来ない。
死ねないつらさは、いまの霊夢にはよく解る。

「できるわ、あんたになら……今までずうっと、その痛みに耐えてきたのね」
「あ……あ……」
「可哀想に。だけど、それはあんたのもちものなの。あんたが自分で使いこなさなきゃいけないのよ……さあ、眼を閉じるの。大丈夫、視えたなら、視ないことだってできるでしょう? できるはずよ。先ずは、信じなさい」

幼いからだが抱き返してくる。
そのちからはとても弱々しく、所在なく、寂しげだった。
仄かに香る果汁の甘酸っぱい匂い。
この子の体臭? とても心地よい匂いだった。

「みんな……このちからをほしがるの……うらやましがるの……」
「だろうね。人は皆、異能に憧れ、畏れる」
「だけど……つかえばつかうほど、みんなはなれていくの……」
「だろうね。人は皆、異能を恐れ、忌避する」
「お姉様だけは、ずっとずっと護ってくれた……だけど、いつからか、お姉様が、私を……良い子にしていたのに……ずっと、ずっと……なのに……」

喋る度に、しゃくりあげる身体。
同時に、秩序を失い各所を崩壊させていた波が、波動が、潮を引くように静かになっていく。

「お姉さんがいるの?」
「うん……大事な人よ。だけど、怒らせてしまったの。もう、ずうっと、会ってない。嫌われてしまったの」
「……どうかな。案外、愛されているかもよ」
「嘘よ。だって、会ってくれないのだから」
「顔を合わせずとも、見えなくとも、想うことは出来るわ。信じるって、とてもすごいちからをもつのよ? そう、信じるのよ。できるって。大丈夫、できるわ……眼を閉じて。視ないぞって、強く想うの」
「ほんとうに……?」
「ほんとうよ。わたしにだって、できたもの」
「…………」

周囲にあった破壊の波が、次々と消えていく。
急速に破壊の眼を修得しているのが、解る。
フランドールのこころの働きだけではない。霊夢が道標を与え続けていた。
ちからの導線。そのやりかた。導き方。
いまの霊夢には、いまの霊夢だから、それができた。
回帰を識り、再生を極め、それをすら超えた存在破壊からの、創生。
ほんのすこし、ちからの行く先を変えるだけでそれはすらすらとかたづいていく。

ここまでの旅路は、これまでの戦いは無駄ではなかった――。

人を棄て、人を超え、そして人として戻ってきたすべてに。
霊夢は、霊夢達に感謝する。
怪物になるのも、そう悪いものではなかったのね。

やがて……フランドールが瞳を開ける。

「頭が……いたくないわ……いたくない!」
「そりゃ……よかった。イチチ……」
「ああ……霊夢、大丈夫?」
「あんたがやったんだけどねえ」
「ごめんなさい……」
「いいわ、敵同士なのだから」
「……あ、そうだった……あんたを止めるって……でも、どうして?」
「私に言われてもなあ」

「――何をしているの、フランドール」

頭上から、声がした。


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