Coolier - 新生・東方創想話

東方流重縁~forgotten wanderer~ 第六話 あいでんてぃてぃ・くらいしす!

2025/04/19 10:11:17
最終更新
サイズ
42.16KB
ページ数
11
閲覧数
1688
評価数
0/0
POINT
0
Rate
5.00

分類タグ


「え?早苗ちゃん?何言ってるんだい。早苗ちゃんならこの間も里に来たよ」
 日を改めて早苗さんに関する情報を集め始めた私は、この衝撃的な言葉を、懇意にしている八百屋のおばちゃんから聞かされた。
「まあ、普段と恰好が違ったけど。あれは制服っていうんだっけねぇ」
「その話、詳しくお願いします!お野菜、買うので!」
「お、まいどあり。そうさねぇ、大通りを歩いていたよ。だけど、なーんか態度悪かったねぇ。長いスカートつけて、周りにがんとばしちゃって。まるで、こっちに来る前の早苗ちゃんみたいだったね」
「こっちに来る前?」
「あら、かさねちゃんは知らないんだねぇ。こっちに来る前の早苗ちゃんは、学校一の「ワル」だったらしいわよ。「すけばん」とかなんとか。質の悪いいじめっ子や陰湿な教師、他校の不良をぼこぼこにしてたらしいわよ」
「…は?」
「早苗ちゃん本人が言ってたんだもの、間違いないわよ」


「ちょっと、どういうことですか早苗さん!私が早苗さんの学生時代の話を聞いたときは、全然そんな話無かったじゃないですか!」
 八百屋を退店し、人目につかないところで早苗さんを問い詰める。
「それは…そのぉ…言葉の綾というか…何というか…」
 早苗さんはしどろもどろだ。
「…はい、盛りました。聴衆受けがいいように」
 そしてあっさり自白した。
「…早苗さんの自業自得じゃないですか」
 信仰が乱れている原因の一つは、早苗さん自身にもあったという訳だ。
「うぐっ」
「…しかし、それで早苗さんの偽物が出現しているというのは非常にまずいですね。不良めいた偽早苗さんの悪行によって、早苗さん、ひいては守矢神社の評判が下がるかもしれませんよ」
「…気が付いたらそっちがホンモノってことになるかも…なりませんよね?」
「ともかく、何か起こる前に偽早苗さんを見つけ出しましょう」
 それから私たちは偽早苗さんを捜しまわった。里で目撃証言を集めたが、どうやら里にはたまに顔を出すだけらしい。仕方がないので妖怪の山を中心に里の外でも証言を集めることにした。妖怪相手の聞き込みは色々と大変だったけど、何とか偽早苗さんの居場所を突き止めることが出来た。どうやら偽早苗さんは、妖怪の山から霧の湖に流れ込む川の河原付近にいるらしい。
「不良と言えば河原ってことかしら。我ながらあまりにも安直な…」
 果たして河原には、一人の少女がどんと立っていた。長いスカートとセーラー服。顔は早苗さんとうり二つ、いや本人そのものなのだが、目つきが悪く、恐ろしい顔をしている。
「…何見てんだよォ」
 うわ、絵にかいたような不良のセリフ。
「ちょっと、私の顔で変なことしないでくださいよ!」
早苗さんが姿を現して偽早苗さんに呼びかける。
「あぁん?誰かと思えば…もう一人の私ジャン。感謝するよ、お前の盛りまくった演説のおかげで、私が生まれたんだから」
「ううう…あなたのせいで、私はこんな姿になってるんですよ!」
「いや、てめぇのせいだろ」
 それはそう。
「それで、私を消しに来たってわけか」
「消し…まあ、そうなるんですかね?実際あなたは妖怪みたいなものだし、あなたを倒せばいよいよ私の体も元に戻るかも」
「ふん、自分で生み出しておいて用済みになったらポイか。いいご身分だな。――いいよ、そっちがその気なら決着つけようぜ。勝った方が本物の東風谷早苗だ。お前もナマイキな先公にしたみたいに潰してやる」
 そういって、偽早苗さんはぐっとこぶしを握り、構えた。
「いいでしょう!――と、いうことでかさねさん。後は頼みました!」
「え」
「だってこんな状態じゃ戦えないですもん」
 私が言い返そうとした時には、早苗さんの姿はもう無かった。
「ちょ、ちょっと…!」
「へっ、私はどっちだっていいよ。さあ、かかってきな!」
し、しかたがない。私もすっと剣を構える。
「星剣『ホライズンスウィ』…」
「スペルカードなんぞ使ってんじゃねぇ!」
「へぶっ!」
 視界がぐらりと揺れる。殴られた。スペルカードの宣言中に、偽早苗さんが懐に飛び込んで、顎に右フック。後ろに二、三歩後退する。
「き、キチンとスペルカードルールは守ってくださいよ!」
「知ったこっちゃないね。喧嘩は己の拳一つでやるものさ」
 偽早苗さんはそのまま私に向かって真っすぐ拳を繰り出す。それを避けながら、再びスペルカード発動の準備をする。
「――いいでしょう。あなたの土俵に乗ってあげます。ただし、あくまでスペルカードルールの中で」
 もうあの畜生界でのような醜態は晒さない。殺し合いではなく、あくまで華麗な弾幕ごっことして。
「超人『飛翔道満』!」
 剣を投げ捨て、全身に霊力を行き渡らせる。藍さんのスペルカードからヒントを得た、肉体強化のスペルカード。
「はっ、面白い!」
 言うやいなやのハイキック。右腕で受け止める。
「っ!」
「先ほどまでの私とは体の強度が違いますよ!」
 間髪入れずにこちらから左ストレート。偽早苗さんを吹っ飛ばす。
「てめぇ!」
 すぐに起き上がり、こちらに突進してくる偽早苗さん。こちらも負けじと偽早苗さんに向かっていって。
――数刻後。
「はぁ…はぁ…」
「ぜぇ…ぜぇ…」
 既に日は落ち始めていて、夕闇が辺りを包み込んでいた。
「なかなか…やるじゃないか…」
「あ、あなたこそ…」
 お互いばったりと倒れ込んで、健闘をたたえ合う。
「へっ…そろそろ潮時か。まあ、いつまでも存在できるとは思ってなかったよ。最後に一暴れできて楽しかった。お前が最後の相手でよかった。腰抜けのもう一人の私によろしくな。」
「さ、早苗さん…」
 偽早苗さんは穏やかな笑顔を浮かべて、すうっと消えていった。これで本当によかったのだろうか。ただ、これでそろそろ早苗さんが元の姿に戻れるのではないか。
「早苗さん、終わりましたよ。どうなりました?姿を現してください」
「…あ、あの」
「どうしました」
「姿を現そうとしてるんですけど、無理なんです。――透明化が、元に戻らないんですぅぅぅぅうううう!」

コメントは最後のページに表示されます。