畢竟、罪とは異端のことを指す。
そして裁きとは矯正に他ならない。
誰もが笑っている世界で、
ただひとりだけ泣いていれば、それは罪だ。
誰もが前を向いて生きる中、
ただひとりだけ膝を折ったなら、それも罪だ。
だから、それは正されなければならない。
それは裁かれなければならない。
ひとりだけ、他の者と違うのなら。
でも、私は知っている。
異端とは即ち、主流ではないだけのこと。
それはまた、罪そのものの本質でもある。
誰もが私と同じなら。
私と同じところまで堕ちてくれば。
あの眩い世界から、
暗い暗い海の底まで引き摺り込めば。
そこに差異はない。そこに罪はない。
断罪も贖罪もなく、裁定も審判もない。
水死体に大人も子供も関係ない。
男も女もあったものじゃない。
みんな同じで。みんな仲間だ。
怠惰とは、停滞だ。
それは、海の底の澱みに似ている。
どこまでも均質化した不変の普遍。
そこでは、ただ上を見上げればいい。
上を見て、見続けて、
通り掛かった奴を引き摺り込むだけで。
【ムラサ】ーーあぁ、堕ちて。
私と、同じところまで。
堕ちてきて。
かつて決別した道だった。
汚穢のように腐り切った、
船幽霊としての自分。
でも、どうだろう。
聖が居ない世界で、聖を否定した世界で、
私が頑張り続ける理由も、見当たらなくて。
彼女がいないことが、
気が狂ってしまいそうに辛く苦しいのに。
同胞たちは懸命だった。
淡々と仏の道を邁進した。
それさえ、私は許せなくて。
私だけが折れてしまって。
私だけが絶望してしまって。
私だけがただひとり苦しんで。
ここは暗い。寒い。
冷たい。寂しい。苦しい。
満足に息もできない。
みんな、一緒ならいい。
みんなが一緒なら。
そこに罪はないのに。
彼我の差別ない地獄の奥底に、
咎の芽生えを悔いることもないのに。
こんな曖昧な煉獄の只中で、
諦めてしまったことを
悲観しなくていいのに。
なのにーー
【ムラサ】……閻魔代行。
……拳銃使い。
せっかく、たくさん引き摺り込んだのに。
たくさん、道連れにしたのに。
私と同じところまで、たくさん堕ちたのに。
いまさら、連れ戻されるなんて。
断罪と裁定のような綺麗事に晒されるなんて。
私の仲間を、元に戻すだなんて。
せっかく、ここまで来たのに。
せっかく、私のクスリも蔓延してきてるのに。
この世界の中身を、
腐らせて引き摺り込むまで、
あともう少しだってのに。
止められてたまるもんか。
引き上げられてなるもんか。
許さない。
沈め。沈め。
奥底まで。光も届かない深海まで。
綺麗事なんて聞き飽きた。
希望も前進もうんざりだ。
堕ちて。堕ちてきて。
私のところまで。
誰も彼も。
この地下世界の一切合切すべて。
暗き怠惰の停滞に沈んで仕舞えばいい。
あるいは弥勒菩薩が救済に来るまでーー