【ムラサ】……はぁ、はぁ。
肩で息をする。
もっとも、その行為自体に意味はない。
人間だった時の名残でしかない。
私に酸素は必要ないし、
街ごと沈めた高波の底で、呼吸も何もない。
みんな沈んでいる。
みなが沈んでいる。
私が具現化させた波に飲まれて。
私が呼び寄せた水の底に。
【ムラサ】あぁ……っ。
堪えようもない高揚が腹の底で渦巻いて。
同時に、耐え難い自責の念に駆られる。
新たにこの地の果てで得た信徒たち。
性根は卑しかったけど、
悪い奴らじゃなかったのに。
聖の下で共に励んだ同胞たち。
みんな、聖の次くらいには好きだったのに。
ぬえ。
誰より気の合う一番の友達だったのに。
みんなみんな、
邪魔な奴ら諸共に押し流してしまった。
きっと苦しいだろう。
冷たい水の底で呼吸もできず、
空気を求めて口をパクパクさせて。
上下の感覚さえ朧になって、
目前に迫る死の気配に怯えながら、
ぐるぐると海月のように揺蕩って。
【ムラサ】あぁ……あは……。
あはは、はは、あははは……っ!
泣きながら笑っていた。
嘲笑しながら慟哭していた。
遠慮なんかしなければ良かった。
最初からこうしてれば良かった。
どうして、こんなことになったの。
なんで何もかも諦めてしまったの。
大切なものをデイヴィ・ジョーンズの
屑籠めいたロッカーにブチ込む悲壮が愉快で。
頭が変になりそうなほどの苦痛が愛しくて。
それでも、苦しい。悲しい。
アンビバレントな感情が胸を焼き焦がす。
どうしよう、私、こんなじゃなかったのにな。
もう、どこにも辿り着きたくなくて。
もう、何をも成したくなくて。
今まで積み上げたものを台無しにして。
この街を、ひとつの世界を終わらせて。
もう、私はどこにも戻れない。
行き着く先も、どこにもない。
うまくやれてると思ってた。
でも、自暴自棄な私は追い詰められて。
大切なものを失ってなお、嗤ってる。
とっくに駄目だったのかもしれない。
赤の女王に見初められて、
怠惰の仮面を被せられたあの時から。
そうだ。私は間違えた。
私は、道を誤った。
堕ちていった私は、けれど、
こんなところに行き着くことなんて、
望んではなかったのに。
やり直したい。
やり直せるのなら、やり直したい。
悲しみに止まった足を踏ん張って。
恨みに染まった胸を張って。
この心に染み渡った怠惰を振り切って。
そう思った、その時ーー
あまりにも眩い光が、
暗い水底にまで差してきてーー
【空】ーー核融合シーケンス、開始。
原子核、収束。セルフトカマク、形成。
放射性物質発生、制御。
【空】エネルギー圧縮率、
…80%…90%…100%ーー
【空】ーー105%…110%…120%…臨界!!
出力解放…2…1、イグニッション!
あぁ、光が。
あの輝かしい日々の空のような、光が。
【空】『サブタレイニアンサン』!!!
暗澹たる水底に沈む私を包んでーー