Coolier - 新生・東方創想話

緋焔のアルタエゴ 第三章_下

2025/08/06 00:28:26
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【さとり】ーーこれにて閉廷します。

さとりが宣言すると、
彼女の持つ悔悟の棒が静かに機能を停止する。

歯車の音が止まる。
それと同時に、私の姿も元に戻った。

意識を失う予兆はない。
眠気も感じない。
頬をつねってみる。ちゃんと痛い。

周囲を見回してみる。耳をそばだてて。
囁きかけてくる声は、聞こえない。

【空】何ともない……。

【空】天使の力、制御できてる……?

【さとり】勘違いしないように。
さっきも説明しましたが、
あくまで契約で縛っただけです。

さとりが悔悟の棒を仕舞いながら、

【さとり】現象数式で暴走したアナタを、
私の新たな使い魔として徴用したのです。

【さとり】根本的な解決ではありませんが、
多少は力のオン・オフが自由になるでしょう。

言って、小さく息を吐く。

【さとり】……上手くいってよかった。

【空】うん、ありがとう。

ずぶ濡れの瓦礫の山の上で、
幾分か肩の力の抜けたさとりに微笑む。

【ナズーリン】二人とも、お疲れさま。
苦労を掛けたね。

朗らかに歩み寄ってきた彼女は、
私たちの顔を交互に見つめて、

【ナズーリン】いい具合の落とし所を
見つけたじゃないか。
安心したよ。

【ナズーリン】こっちも寝覚めが悪いからね。
あんな方法で助けられたんじゃ。

【さとり】ナズさん、その節はーー

【ナズーリン】おっと、頭を下げられる
謂れはないよ。
言ったろ。単なる老婆心さ。

【ナズーリン】むしろ、こっちこそだ。
助かったよ。ありがとう。

彼女が深々と頭を下げる。
私は煙草を咥えながら、

【空】どうするの? これから。

【空】街、めちゃくちゃになっちゃったけど。

【ナズーリン】とりあえず、生存者の救出かな。
もう一輪たちに動いてもらってる。

【ナズーリン】瓦礫の撤去も進めるとして、
再建の計画もどこかで立てなくちゃね。
やることが山積みだ。

【ナズーリン】でも、きっと大丈夫。
何とかなるさ。
御仏が導いてくださるとも。

そう言って笑う彼女の表情は、
清々しいほどに晴れやかで。

良かった、って思った。
一時はどうなるかと思ったけど。

でも、良いことをした心地よさがあった。
たとえ、一銭の得にもならなかったとしても。

【さとり】……おほん、失礼。
お空さん、何か忘れてませんか?

【空】うにゅ?
何が?

【さとり】うにゅ? じゃなくて。
DeSの撲滅。金貨500枚ですよ。

【さとり】この街に来た目的でしょう?
アナタたちは報酬を得る。
私はあのメス山羊に一杯食わせる、って。

【空】…………。

【空】……あ、そっか。

今の今まですっかり忘れてた。
金貨500の仕事で来てたんだった。

【空】おぉ……金貨500……。
500かぁ……。

今更ながらその金額の大きさに震える。
実感がジワジワと滲むように膨らんで。

【空】お燐はどんな顔するかな?

【さとり】さぁ、どうでしょうね。

【さとり】ですが、許してはくれるでしょう。
言葉通り、金貨500を稼いだのですから。

【さとり】私も楽しみです。
饕餮の泡食った顔を見るのが。

【さとり】ふふ、ふふふ……!
うふふ、うふふふふ!

【さとり】ふふふふふ……!!
ーーそこ、キモいって思わない。

さとりに軽く叩かれる。理不尽。
思うくらいは許して欲しい。
口にしないだけの配慮はしたのだから。

ーーと、

【燐】ーーお空!! さとり!!

【空】え、お燐?

聞き違い、ではなかった。

お燐が遠くから走ってくる。
瓦礫の隙間を、剣呑な表情で。

どうしてここに彼女が?
ここは無限雑踏街じゃない。
壁を隔てた白蓮教徒の街。

さとりも怪訝な表情をしてる。
全速力で走ってくるお燐を見やり、
首を傾げながら私を見て、

【さとり】呼びました? お燐さんのこと。
私が気付かないうちに?

【空】私、機関式通信機持ってない。

【さとり】解せませんね。
こいしのお守りを任せたはずですが。

【さとり】……待って。
……何か、大変なことが起きたようです。
話を聞きましょう。

さとりが渋面を拵える。
お燐の心を読んだのだろう。
すべて把握したわけじゃないみたいだけど。

そうこうしてるうちに、
お燐が私たちのところまで到着する。

どれほど走ったのだろう。
ちょっと見ないくらいに憔悴して。
ヒューヒューと声を喘がせながら。

【燐】げほ、……大変だ……!
げほ、ごほ、……っ!

【空】お、お燐、どうしたの……?

【さとり】お燐さん、落ち着いて。
ひどく混乱してますね。
ノイズだらけで心も読めません。

【さとり】深呼吸をしてください。
私の声に集中して。

【さとり】どうしたのですか?
白蓮教徒の街まで、わざわざ来て。

【さとり】こいしはどうしたのですか?
あの娘は大丈夫なんですか?

【燐】げほ、はぁ、はぁ……。

【さとり】……ッ!?

不意にさとりの表情が強張る。
サッと顔色が青ざめて。

私は一気に不安になる。
何か、とんでもないことが
起きていることだけが判ってーー

【空】ねぇ、どうしたの!?
お燐、しっかりして!!

居た堪れない気持ちで、
息も絶え絶えなお燐の肩を揺する。

よっぽどのことがないと、
お燐がこんなに焦ることはない。
息もできなくなるほど走るなんて。

それは逆説的に、
よっぽどのことが起きていることの証左。
私は奈落の底に落ちていくような気分で。

【空】お燐!!

【燐】ごほ、お空、……!
む、無限雑踏街が……!!
あたいたちの街が……っ!!

お燐の声色が、事態の深刻さを
私に深く刻み込んでーー

第三章 終わり
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コメント



0.簡易評価なし
1.100ひょうすべ削除
お空ちゃんのケアが進んでいきますね・・・
おもしろかったです
2.100南条削除
とても面白かったです
ボスたちを各個撃破してく獣狩りのお空がカッコよかったです
他人のために怒れるようになったお空が第一章のころとは比べ物にならないくらい他者を思いやっていてとてもよかったです
3.100名前が無い程度の能力削除
力を持つ者とその力を背負う責任、お空とさとりの二人の関係の進展が見えて安心したような、これから物語が動いていく熱さがあるような、とても良かったです。