ーー聞くな。
もう何も聞くな。
私だって何も聞きたくない。
目や口は容易に閉じられるのに、
耳に蓋が無いなんて冗談じゃない。
そんな欠陥を抱えているから、
聞きたくないことを聞く羽目になる。
小言も呪詛も、聞き飽きた。
精彩を欠いた念仏もうんざりだ。
酒が不味くなるばかりじゃないか。
だいたい、不平不満が多すぎる。
口を開けばアイツが憎い。コイツが嫌い。
ここの連中の恨み言は耳障りにも程がある。
仏だって、形ばかり信仰されたって
面白くも何ともないに決まってる。
獣になりたくないだけの取り繕いなんぞ。
信仰は歪んでしまった。
この地下世界では欲望ばかり加速して。
張り合いがないったらありゃしない。
だから私は、もう口も耳も
うっちゃってしまうことにしたんだ。
祈るための手だけあればいい。
それだけで私の信仰は仏に届く。
他の連中なんか、もう知るもんか。
だから、もう聞くな。
私に何も聞いてくるんじゃない。
あるいは弥勒菩薩が救済に来るまでーー