Coolier - 新生・東方創想話

緋焔のアルタエゴ 第三章_下

2025/08/06 00:28:26
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過去のことばかり思い出す。
ひとり蹲って、あの頃の生活ばかりを。

そこにはみんながいて。
志を同じくした仲間たちがいて。

厳しくも心穏やかな日々。
人と妖怪が手を取って生きられる世界。
分け隔てなく、仏を目指した求道の生活。

聖さまも。彼女もまた、そこに。

毎日が宝石のように輝いていた。
満ち足りていた。
この身、仏に至るまで遠くとも。

聖さまの笑顔があった。
それだけで、魂が擦り切れるまで
頑張れる気がした。

あの日々が愛おしかった。
こんなにも幸福で許されるのかと思うほど。

だけどーー

すべて失った。
民草に聖さまの理想は伝わらなかった。
人間に妖怪たちの求道は理解されなかった。

すべて奪われた。
聖さまは魔界に封印され、
我々は地下の辺獄に追い立てられた。

そして私は妄執を断てなかった。
恋しい。恋しくて堪らない。
あの日々に帰りたくて堪らない。

どれほど修行に身を投じても。
どんなに熱心に祈っても。
心の奥底の切望が消えてくれない。

苦しい。辛い。
泣きたい。叫びたい。

私を帰してほしい。
私に返してほしい。

草木を撫でる風の匂い。
どこまでも抜けていく晴天。

小川のせせらぎ。鳥の鳴く声。
朝の張り詰めた静謐。
燃えるような夕焼けの赤。

聖さまの微笑み。
聖さまの清廉な教え。
彼女の美しい信仰の眼差し。

ここには何もない。
ここには何もないの。

もう私は頑張れない。
それをするだけの意味がない。
そうしたいと思う気力もない。

だから私は怠惰に見出された。
だから私は怠惰に縋りついた。

どれほど前を向いても、
そこに聖さまがいないから。

私は折れてしまった。
私は諦めてしまった。

もう私は許されない。
もう私は救われない。
魔道に堕ちた私は、もう聖にも。

暗い。暗い。何も見えない。
光を。もっと光を。ほんの少しだけでも。
救ってください。私を助けてください。

ーーあぁ、それにしても、厄介なことになった。

私の箱庭に。私の玩具箱に。
まさか、あんな連中が来るなんて。

閻魔代行、古明地さとり。
そして拳銃使いの空。

赤の女王から聞いてはいたけど、
まさかあんなに、
現象数式を使いこなしてるなんて。

私の獣たちでは、あいつらに勝てない。
閻魔の裁きにも。
あの訳の判らない熱線にも。

せっかくのバランスが崩れてしまう。
これまで、必死に組み上げてきたのに。
ここまで、怠惰に積み上げてきたのに。

面倒くさい。あぁ、面倒くさい。
本当に、本当に面倒くさい。

何とかして、この街からアイツらを
排除しなくちゃいけないなんて。

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