最悪の気分だった。
喰っても喰っても満たされない。
むしろ、喰えば喰うほど飢えていく。
そんな、地獄のような、夢を見た。
俺の自我では到底耐えきれない責苦。
存在するだけで、魂ごと穢れていく業苦。
それを、一筋の光が払ってくれた。
地獄に垂らされた蜘蛛の糸のような、
あまりにも鮮烈な一条の光が。
身体が軽い。
右腕の機関機械の重さがない。
飢餓感がない。
寝ている間すら消えなかった
飢えを感じない。
声も聞こえない。
朝な夕な俺を惑わせた声すら。
【リグル】終わった、のか。
なんて、拍子抜けするほど呆気ない。
俺は、まだ途上だった。
同胞たちを導く責務も。
愛する家族と共に生きる道も。
前触れなく奪われた。
理想も。幸福も。艱難辛苦の道のりも。
無念だ。
死にたくなんてなかった。
俺はまだ、耐えられたはずだった。
ラルバに笑っていて欲しかった。
ホタルが大きくなったところを見たかった。
俺の願いは、そんな、
ささやかなものだったのに。
【ラルバ】ーー泣かないで。アナタ。
顔を上げる。
そこに、俺の愛した女がいた。
最後の瞬間。
意識の弾ける瀬戸際。
俺が、喰ってしまった、女が。
柔らかな、幸せそうな、微笑みと共に。
【ラルバ】私、幸せだったよ。
【ラルバ】最後の瞬間まで、アナタと一緒で。
【ラルバ】幸せだった。
【ラルバ】あの子を残していくのは、辛いけど。
【ラルバ】あの子なら、大丈夫。
だって、アナタの子だもん。
【ラルバ】きっと、素敵な子になるわ。
【ラルバ】アナタも、そう思うでしょ?
【リグル】あぁ……。
【リグル】そうだな、きっと……。
【リグル】お前に似た、綺麗な子になるさ。
夢は、まだ終わってない。
きっと、俺はこの夢から醒めない。
仕方ない。そういうこともある。
だが、ありがとう。空。
お前が俺を、解き放ってくれた。
ありがとう。
第二章 終わり
相手を信じられるかどうか、に思考が移るのに心を読めるせいで先に答えが透けて見えて来るのは本当に便利で残酷な能力だとあらためて思いました。
またリグル視点でこいしに心を読まれたシーンで読心にも意識全体を瞬時に読む高度なものと意識の上辺だけを読むものとに分かれている
ことがあることが分かりやすく描写されていたのが好みでした。
最後にリグル一家、悲しい結末を迎えましたが次の世代に希望がつながったという意味では夫婦に少しでも救いがあってよかったです。
次のお話も楽しみにしています、ありがとうございました。
素晴らしかった
3章はよ
あまりの長さに開いては閉じ読んではやめ、ちまちまと進めたため最後の方が印象が強いですが、全体的に完成度が極めて高い。特に、キャラクターの書き分けがきちんとなされてその性格がみんな背筋良く立っていて、それらがぶつかり合ったときの鮮烈さが読者に深く刺さりうち響きます。お燐の犀利だがひょうひょうと振る舞う姿、リグルのカリスマと慈愛に満ちた言葉の数々、からっぽに見えたお空の揺れ動き彩られる生き様。本当に素晴らしい。
続きを楽しみにしています。