……最後の矜持だけは、保てたと思う。
弱い私は泣いて、ただ泣いて。不安と寂しさで、後悔と罪悪感で。ずっとずっと泣き続けていたけれど。あの2人の前でだけは、涙を我慢できたから。
「これで、何もなくなっちゃったね。父さん」
震える声で床の染みに語り掛ける自分は、びっくりするくらい惨めだった。遺骨も遺体もない。遺影も位牌もない。たったひとりの肉親が、洗濯されていない絨毯の染みになってしまったという事実は、控えめに言って受け入れがたい苦痛だった。
キリスト教圏で自殺が禁忌とされた理由が、痛いくらいに判る。神から与えられた命云々というのはお為ごかしだ。親しい者の自死は、遺された者の心をズタズタに引き裂いてしまう。どうして。どうして。どうして。延々と繰り返される自問自答の堂々巡り。
留め金を外したペンダントを掌に載せる。脈々と受け継がれてきた父の家系――セルトラダート家の、本物かどうかも疑わしい家宝(アンティーク)。かつて吸血鬼と戦った先祖が戦利品としたモノ。つい数日前、父の頸動脈を引き千切ったばかりのモノ。
私も、死んでしまおうか。
夕辻を継いだ母さんは、私が物心つく前に死んだ。本家の四辻さんたちとの繋がりはそこで途絶えた。セルトラダート家の末裔だった父さんも死んだ。私は祖父や祖母の名前さえ知らない。もう、どうしようもないくらい、ひとりぼっち。
「……ねぇ、本当にさ……私……っ」
声が震える。心、溢れてしまう。何度も何度も零して、もうとっくに空っぽになったと思ってたのに。
「……わけ、判んないよ……っ」
ペンダントを握りしめる。吸血鬼の尖った牙の先端が、私の掌に突き立つ。痛いはずなのに、痛みが判らない。滲んだ血が垂れて、かつて父だった染みに混ざる。
何もない。
もう、何もない。
理解不能な父の自殺を補完する目論見も、もう、何も――。
「――ずいぶんと芳しい香りをさせるじゃないか」
その声は凛と響いた。
まるで、時間の止まった泉に波紋を立てるように。
静まり返ったオペラハウスで、始まりの台詞を言祝ぐ演者のように。
私は振り返る。
エントランスの扉を背にして。薄桃色の豪奢なドレスで着飾って。真紅のヒールを指し履いて。空色の髪の毛に紅いリボンをあしらって。
奈落の底に佇む悪魔のような黒い翼を生やして。
ルビーのように赤く輝く瞳で、私を見つめていた。
「まるでロンネフェルトのダージリン・スーパーファインだ。知っているか? あそこの茶職人は実にいい仕事をする。アレを夏の終わりに仕入れるのが、私の晩夏の一番の楽しみでね」
それは、少女は、大仰な物言いをしながら優雅にこちらへ歩いてくる。
少女。確かに、少女と形容する他にないと思った。まだあどけなさの残る顔つきも、ガラス細工のように華奢な四肢も、単純な背の高さも。十代前半の少女だけが持つ肉体の特徴の域から出るものではなかった。
なのに、それは明らかに少女ではなかった。
どう見ても偽物には見えない翼もそうだけれど、何よりもその存在感が。重力、とでもいうべきか、明らかに存在強度の格が、ニンゲンとは比較にならない。
「……アナタは、誰」
質の悪い冗談みたいな、その
ただ、恐らくはその捨て鉢が、皮肉にも私の命を長らえさせた。少女の姿をした
「レミリア・スカーレットと言う。お前が手に持っているそれは――」
言って、少女――レミリアは、グイッと左手で口の端を摘まみ、口角を強引に持ち上げる。
通常の人間の犬歯よりも長く鋭い牙が、露わになって。
「500年前の今日。お前の先祖がへし折ったものだ。あの頃はまだ乳歯だったから、こうして新しく生えてきたがね」
先祖。鋭い牙。黒い翼。ニンゲンではない何か。
……吸血鬼。
ファンタジーやオカルトの中にしか存在しない、生命科学的に根本から存在を否定されている怪物。ヴァンパイア。ノスフェラトゥ。ノーライフキング。私の立つ世界が、当たり前の機能が今日も続く前提で成り立っている現実や文明から、めりめりと音を立てて切り離されていくのが判った。
「今日お前のもとに来たのは、なにも昔話を披露しに来たわけじゃなくてね。契約のためなんだ。悪魔の契約さ。悪魔が結んだ契約は、何があっても遂行されなくてはならない。それこそ天地がひっくり返っても、世界が幻想と科学の境界で分断されても。500年前の今日。私はお前の先祖に呪いという名の契約を締結した。
『500年後、必ず我が牙で貴様の末裔を穿ち殺してやる』
……まぁ、皆まで言うな。あの頃は私も若かった。500年という年月の長さもよく判ってなかったし、たかが人間のエクソシスト風情にムキになるのも大人気ない。若かりし頃の青臭い思い出さ。吸血鬼が牙をへし折られたのは屈辱の極みだったが、もう別に気にしてない。そんなこともあったな、という程度かな。だから、かつての恨みをお前で晴らそうという浅ましい気持ちは毛頭ないんだ。江戸の敵を長崎で討つ、なんてことわざが、この国にあるよな? お前からしたら、筋違いも良いところだろう。私だってそう思う。
――だが、契約は契約だ」
一瞬だった。
レミリアの表情が、尊大ながら朗らかな笑みから、肉食獣じみた冷酷なものに変わるのも。
私の首がレミリアに掴まれ、いとも容易く持ち上げられて宙づりにされるのも。
「う、ぐ……っ……!」
「別に、互いにこれまでの500年を語り合う仲でもなし。私はセルトラダートの歴史に興味はないし、お前も私の半生なんぞ興味はないだろう。さっさと済ませてしまうに越したことはない。食べ物で遊ぶのはマナー違反で品位を損ねるし、それに……」
レミリアが空いた方の手で私の右手を掴み、ヨーロッパの騎士が女性に対してする挨拶のように唇を寄せる。ゾッとするほど冷たい舌が私の右手に伝う血液を舐めとると、彼女はうっとりとした吐息を零して、
「お前の血は、なかなか美味い。ここ十数年で一番と言っていい。誇れ。では――」
「――構え、撃て!!」
突如、鼓膜を突き破るような発砲音が、四方八方から襲ってきた。
それと同時に、レミリアが私の首から手を離した。地面に頽れた私は、新鮮な酸素を求めて潰れた蛙のような咳に見舞われる。頭が真っ白になるほどの耳鳴り。身体的な反射によって滲む涙。次々に発生する閃光と破裂音。パニックで叫ぶことすら許されず、芋虫か何かのように身を縮めるのが精一杯だった。
そんな状況だというのに、レミリアがまだ立っていることは判ったし、彼女が苦々しげに舌打ちをする音は、鮮明に聞こえた。
「……まったく。当世の化け物退治屋は、ずいぶんと活きがいいな。洗礼済みの銀の弾丸で弾幕ごっことは。純銀と僧侶が畑から生えてくるのか?」
重火器の大量放射をその身に受けながら、レミリアの声は平然としていた。いや、機嫌を損ねていることは判ったけれど、死の危険だとか身体を蜂の巣にされる痛みだとか、そういうあって当然の反応を微塵も感じない。
不意にレミリアがいる方から、肌が灼けるほどの熱気を感じた。
見ると、ドレスを自らの血で真っ赤に染めたレミリアが、そのドレスの赤よりも紅い光の槍を右手に構えていた。真っ赤な雷を束ねて握った、としか形容のしようがない。今にも破裂しそうな熱量の奔流が、バチバチと猛り狂っていた。まるで彼女の業腹を具現化したかのように。
「そっちがその気なら相手をしてやろう。銀の豆鉄砲ごときで立ち向かってきた勇猛は認めてやる。褒美として、殺す前にひとりひとりの名前を聞いてやろうか。私がどこまで覚えていられるかは保証しかねるが」
血染めのレミリアが、穴の開いた頬を好戦的に歪めて笑う。笑う。まるで狂戦士のように。凶暴な、凶悪な、だというのに彼女の美しさをまったく損ねない、麗しき肉食獣の笑み。
不定形の槍を、彼女は構える。航空機が飛び立つ寸前のように、空気が極限まで鋭く引き絞られる音。商品が、屋敷が、空間そのものが、まるで神の意向に畏怖する哀れな信徒たちのように激しく振動を始めて――
「――はい、お姉さま、スト―――ップ」
パンパン、パパン、パン。
まるで場違いなパーティクラッカーのように軽快な音が聞こえたかと思うと、それまで嵐のように襲い掛かってきていた閃光と発砲音が止まった。
何が起きたのかという疑念が私の心に生じるより早く、エントランスドアが二度、三度と砲弾の直撃でも喰らったかのような轟音を立て、やがて内側にひしゃげた状態でこちら側に倒れてくる。
気だるそうな表情の少女が、その先にいた。
金髪の。紅い瞳の。宝石で作ったランタンを複数吊るしたような翼の。
……状況的に考えて、恐らくは2人目の吸血鬼が。涼しい顔でウチのエントランスを蹴破って。ロリポップを舐めながら、お姉さまと呼んだ吸血鬼のもとへと歩み寄る。
「行儀がなってないぞ、フランドール。ドアは蹴って開けるな、といつも言っているだろう。それに、哀れな化け物退治屋の連中はお前が
「別にお姉さまが撃たれててカチンときたわけじゃないけど、ほらあれよ。耳障りだったから」
フランドールと呼ばれた少女は、レミリアの問い掛けを聞き流すように肩を竦めた。
「てか、化け物退治屋なんてババくさ。当世では結界省って言うんだって。この国の公的機関よ。軍隊だわ。兵隊だわ。そんな有象無象相手に騎士道精神なんか発揮してどうすんの? 街ごと消し飛ぶじゃないの。スキマにネチネチ言われるのなんて、私はイヤ」
「しかしだな、フランドール。軍隊だろうが兵隊だろうが、私という化け物に対峙した戦士たちなのは変わらんじゃないか。それをお前ときたら、まるで羽虫を潰すように」
「お姉さまの説教はさすが、含蓄がございますことね。それって古臭いニンゲンの価値観でしょ? 反吐が出るわ」
硝煙と血しぶきが充満する地獄のようなこの空間で、2人の少女は平然としていて、まったくもって人間の常識を超越していることをまざまざと見せつけられる。フランドールは翼を動かすごとにシャリン、と神楽鈴のような音を出すし、先ほどまで血みどろだったレミリアの傷は見る見るうちに癒えていって、血に染まっていたドレスまで元通りになっていく。他愛ない姉妹の会話と評するには、状況も内容も話者も、何もかもが逸脱していて手に負えそうもない。自分がまだ気を失っていないことが信じられない。
「――で? アンタが夕辻ミナ?」
不意にフランドールが私を指差して尋ねてくる。姉のレミリアはと言えば、やれやれと言わんばかりに嘆息し、
「ヒトを指差すな。行儀の悪い」
「は? うざ。マナー違反を指摘するのが最大のマナー違反じゃなかったっけ? まぁいいや。これってアンタのパパよね?」
フランドールが床に蹲る私に向けて、雑な手つきで一枚のプリントアウトを放ってくる。プリントアウトには強調文字で【夕辻モリス氏解剖鑑定書】との刻印があった。
宇佐見さんといい、フランドールといい、公的機密文書を何だと思ってるのか。
私がうんともすんとも言わない間に、彼女は勝手に話し始める。
「吸血鬼に襲われたことにするにしては、ずいぶんと古典的な手法を模倣したもんだと思うけど、本題はそこじゃなくて。私がアンタに聞きたいのは、凶器のこと。現場には見つからなかったらしいけど、もしかして、それって昔のお姉さまがへし折られた牙のことだったりしない?」
私を見下ろすフランドールの視線は、ゾッとするほど冷ややかだった。物のたとえなどではなく、本気で私とそこらの石ころとの区別を付けようともしてない瞳。
私が無言で首肯すると、「ふぅーん……」とフランドールは何かを考えるように明後日の方向を眺めたかと思うと、唐突にバキン! とロリポップを噛み砕き、
「――お姉さま。契約は満了よ」
「なんだと?」
「お姉さまは今回の旅行の目的って、セルトラダートの血脈に終止符を打つことって言ってたじゃない? でもそれって厳密に言えば違うわよね? 『500年後、必ず我が牙で貴様の末裔を穿ち殺してやる』だっけ?
――それ、
「……は?」
思わず漏れ出た声は、予期せずレミリアのそれと重なった。フランドールはそんな私と姉のリアクションなんて目にも入っていないかのごとく気色も満面に、
「そうよ、そうだわ。考えてみれば、まったくもってその通りじゃない。モリス・セルトラダートが日本の夕辻家に婿入りしたことで、セルトラダートはお家断絶。となると、セルトラダートの末裔は夕辻ミナじゃなくて、夕辻モリスということになるんだわ。で、その唯一残った末裔に他ならぬ自分自身の牙で死なれちゃ、お姉さまに打つ手はもうないじゃない。
ふふふ、詰みね」
「…………」
フランドールに指差されても、今度のレミリアは苦言を呈さなかった。まさしく詰みの盤面を突き付けられた指し手のように渋面を拵えて。
「お姉さまったら、ニンゲンごときに出し抜かれたのよ。おとぎ話に出てくる悪魔みたく、契約の穴を突かれてね。厭だわ。だっさ。仕方ないから行ってやるかー、みたいなテンションだった癖に。蓋を開けてみれば惨敗じゃない。あー恥ずかしい」
「あぁもう、判った判った。認めるさ。今回は私の負けだ」
「やーい、敗北者ぁ」
「うるさいなぁ、もう。あまり姉をからかうな」
「――ねぇ、ミナ。アンタのパパ、やるわね」
それまでレミリアを嘲弄していたフランドールが、不意に私のもとに歩み寄ってきたかと思うとしゃがみ込み、私と視線を合わせてから言う。
「先祖に刻まれた呪いを打破するために、500年も切り札を受け継いできた血脈ってだけで相当だけど、いざ500年経ったとき、それを躊躇いなく切る判断を下せるなんてクレバーだわ。最高に冴えた一手だったと思う。面白いニンゲンも居たものね。まさかニンゲンが、吸血鬼の狩りに一矢報いてくるなんて!」
「帰るぞ、フランドール」
「はいはい。今行きますわ」
キラキラした瞳で興奮気味に語っていたフランドールは、姉の一声でスッと真顔に戻って立ち上がる。それきり、もう私のことなんて忘れてしまったかのように、振り向きもせず姉と共にエントランスへと歩いていく。
「それにしてもフランドール。ちょいちょい居なくなると思ってたが、遊びに行ってたわけじゃなかったということか?」
「遊びもしたわ? ちょっとニンゲン狩りごっことかしてた」
「それに、よくここが判ったな。京都の町は入り組んでいるというのに」
「親切なお姉さんに教えてもらったのよ」
「ほぅ。ヒトに道を聞けるようになったんだな。お前も成長したものだ」
「それ、馬鹿にしてるー?」
そんな他愛のない会話をしながら、2人の吸血鬼は行ってしまった。少女たちの後ろ姿が夜闇に溶けてしまうまで、私は穴が空くほどに見つめていた。
「――夕辻さん! 無事ですか!」
割れた窓から、知らない男性が飛び込んでくる。高級そうなスーツが血糊や泥で汚れているのも構わず、腰が砕けたままの私に優しく毛布を掛けてくれた。
そこで私は初めて、自分が猛烈な寒気に襲われていて、震えが止まらないことを自覚した。
「……アナタは?」
「石神井と申します。怪我はありませんか? あの吸血鬼どもに噛まれたりとかは……」
「……いえ、してません」
力なく首を横に振る。
この人の声。聞き覚えがあった。そうだ。確か、私がレミリアから宙づりにされた時に聞こえた号令と、同じ声。
となると、この人は結界省の人なのか。
世間では存在が囁かれるだけの組織の所属員。
まさか、実在したなんて。
「クソっ、何だったんだ! まるで手に負えなかった……あぁ、失礼。いま、救護班を回しますからね。とにかく、アナタが生きていてくれて良かった……」
石神井と名乗った彼は、むしろ私の方が心配になるくらいにやつれ果てていたけれど、最後の言葉には心底の安堵の感情があった。その響きを暖かいと感じた私は、そこで、唐突に理解に至る。
――生きていてくれてよかった。
誰に? 私に?
誰がそう思ったというの?
石神井さん? それとも、
「――父さん?」
私は跳ね上げられるように、いまだ絨毯に残る染みを見つめる。
あの晩の、錯乱した父の言葉が、リフレインする。
――吸血鬼に殺される。
誰が? 父さんが?
違う。それじゃ、辻褄が合わない。殺される、と叫びながら自殺するなんて、どう考えてもおかしいじゃないの。
それじゃ。
あの時、吸血鬼に殺されると、父が思ったのは――。
「……私、だ」
あの晩の父の狂気は、恐慌でありながら、錯乱ではなかったのだ。
あの晩の父の行動は、フランドールが称したようなクレバーな打開策でも、セルトラダート家が代々受け継いできた冴えた一手でも何でもなくて。
ただ、父さんは――。
「……ぐすっ」
「あぁ、夕辻さん……! そうですよね、さぞ怖かったでしょう。安心してください。我々は完全に敗北しましたが、けれどアナタは……」
「違います……違くて……ただ私、私は……っ」
どうしてだろう。
この胸から溢れ出しそうな感情の奔流を、気付きを、この刹那に至るまでの軌跡を、今にも爆発しそうなのをグッと抑えてまで――。
――他の誰でもない、秘封倶楽部のあの2人にしか、打ち明けたくないと思ったのは。
天才か?
どうやったらこんな話思いつけるんですか
めちゃくちゃ良かったです
ありがとう
またちりばめられた秘封的なワードチョイスも子気味良く、物語をぐいぐい引っ張ってくれる蓮子が語り部として素晴らしかったです。とても楽しめました。ありがとうございました。
眼の前の謎を追い掛けながらも決してメリーを蔑ろにしない蓮子、吸血鬼としてミステリアスさ(オブラートな表現)に磨きが掛かったメリー、二人の魅力が詰まっていました。要所に登場する科学世紀らしい設定や幻想郷との繋がりも凄く好みで、すっかり楽しませてもらいました。
明らかに異常が発生している冒頭から夕辻ミナの宣戦布告
仮説にひとつひとつ裏を取っていく推理パートからのクライマックスの対峙
そして最後のどんでん返し
これらが流れるようにまとまっていて夢中で読んでしまいました
素晴らしかったです
夕辻ミナは最高の敵役でした
色々と並べ立てて偽物やなんやらが出てきた最後の最後に本物が出てくる文脈、王道ながら好きな要素です。
有難う御座いました。
表現力と構成力で無理やりねじ伏せたような作品。
一つの怪異に秘封が立ち向かうストーリーは2時間ドラマのようにしっかりと楽しめました。
作者のこれ前読んできた作品をたっぷり詰め込んだような書き方はまさに二次創作といった印象でした。
ラストを決めて書いたのでしょうか、オチもすばらしい。
それでいて蓮メリもしっかり魅力的で可愛かったです。
光とか闇とかと言うよりはとてもロマンチックな作品でした。
お見事
この作品ではSF要素が作品全体に散りばめられているお陰で、一般のミステリでは受け入れがたいその近未来的技術を逆に利用したトリック(○歩き)をごく自然に(かつ驚きをもって)受け入れることができました。そもそも作者様の構成する京都の絶妙にディストピアな雰囲気が読んでいるだけで楽しく、とても好きになりました。心的外傷性視覚情報取扱資格、には既視感があって思わずニヤリと。
文章や会話を彩る洒落た言い回しについては、吸血鬼伝承という不気味でロマンチックなテーマ、そして、無機質な印象を与える理系用語を組み込んだ知的な会話を普段は楽しみながらも、要所要所で一体感・信頼性を極めて感情的に表出させる秘封倶楽部の2人に非常にマッチしていて素敵でした。