Coolier - 新生・東方創想話

〽胸に付けてる マークは梶紋

2020/12/05 15:29:45
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★防衛隊奮戦す


舞台の上では、赤い巨人と怪植物の死闘が続いていた。

「っだあああっ!」
「あははははは!」

 巨人が赤い尻尾をなびかせ、呻きながら蹴りを入れるが、怪植物はちぎれた蔦をまき散らしながらも怯まずに笑い声をあげている。巨人はなおも回し蹴りに加え鋸のような尻尾での一撃も加えたが、怪植物の表皮をえぐり飛ばすだけで、すぐに再生してしまった。相手は動きこそ遅く、肉体も攻撃で削れなくはないが、巨大な質量は打撃を加えても怯むことなく怪植物を支え、厚い体は攻撃が深手になるのを防いでいる。そしていくら削っても減らない再生能力。神奈子にとって普通に手ごわい相手だった。
舞台である“土俵”はすでにほぼ全面が砕け散り、観客も土俵全周を囲んでいたのが、時計の3時から9時の間までの範囲、すなわち南側半分に射命丸達会場係の誘導によって集められていた。広場の北側半分を怪獣バトルのために開け放ったのである。戦っている二人も、それを汲んで北側の広い範囲で殴り合いを行っていた。
 神奈子も幽香も、一応ショーであることを前提に戦ってはいるものの、体も大きい分あまり細やかな手加減もできていない。なにせ、幽香が手加減なのか本気なのか判別しがたい力加減で大暴れをしているため、ショーの都合上負けられない神奈子もその勢いに乗らざるを得ず、二人ともほとんど真剣勝負と変わらない状態なのである。しかしそれは逆に、二人のバトルをまるで今回の相撲大会の河童と天狗の試合の巨大版といった趣にしていて、大人妖怪たちが子供妖怪以上に、真剣に舞台にのめりこんでいた。

「いい加減、倒れろっ、幽香!」
「こんな楽しいケンカ、そう簡単に、やられてたまるもんですか!」
「うおおおおっ!」

 叫んで繰り出したチョップが、受け止めた怪植物の腕を切り裂く。怪植物は割かれた腕を逆に無数の蔦にバラし、突き刺さる相手の腕を絡めとる。同時に、怪植物の体表の色が、深い緑から薄暗い橙へと変化していく。ただならぬ気配に巨人が腕を引こうとするが、遅かった。

「溶けろ溶けろ溶けろ!」
「っぐあ!」

 蔦に縛り上げられた巨人の腕から、熱した鉄板に水をまいたような音と煙が上がり、巨人が激しく抵抗する。何か透明な液体が煙が上がったあたりから舞台にこぼれたかと思えば、激しい音を立てて舞台が焼けただれた。強酸性の溶解液。蔦から溶解液をにじませ、腕を丸ごと溶かそうとする怪植物。巨人は苦悶の表情で自由な腕の鱗を鋭く長く変化させると、鉈鋸のように乱暴に怪植物の腕を付根から切り落とす。その攻撃にも怪植物は痛みを感じている様子もなく、してやったりの笑みを浮かべながら地響きを立てて数歩後退した。切り落とされた蔦は急激に萎れ、絡みついていた腕からひとりでにほどけて地面に落ちてゆく。肉が溶けるすさまじい匂いが会場に漂い、痛々しい光景に妖怪たちが固唾を飲む。

「く、ああ‥‥」

 片膝をつき、傷ついた腕をだらりと垂らして呻く赤い巨人。尻尾も力が抜けたように地面に横たわっている。白煙の上がる腕では、溶けて変色した鱗がばらばらと剥がれ落ち、新しい鱗が瞬く間に成長してゆく。しかし腕が完全に回復しきる前に、巨人よりも素早く腕を再生させた怪植物が襲い掛かる。また溶解液攻撃を食らうまいと、再生中の腕も振り上げ、巨人が必死に怪植物の突進を止める。歯を食いしばる巨人に、子供たちがガンバレと声を張り上げる。怪植物が幽香の顔で、そんな巨人を嗤う。

「ほおら、頑張んなさい!さもないとあなた、負けるわよぉ!」
「こ、のっ!」

 竜人神奈子は歯を食いしばると、硬質化した頭部を、怪獣幽香の顔面に渾身の力で打ち付ける。ぐしゃりと果物がつぶれるような音がして、頭部がはじけ、四方に液体が飛び散った。体色が変わった怪植物は体液が強酸性溶液と化しているのか、体液が付着した頭部からもじゅっ!と音を立てて煙が上がるが、巨人はものともせずに二回、三回と頭を打ち付け、ついに怯んだ怪植物を全力で蹴り飛ばす。

「はああああっ!」

 びゅん、と風音を立てて、家より大きな巨体がさっきまで観客席だった広場の端に飛んでいく。店主が避難した無人の屋台をすり潰しながら、怪植物は地面に地響きを立てて落下した。歓声が上がるが、怪植物はうめき声すら上げず、頭部のあった場所に巨大な橙色、溶解液と同じ色の丸い果実のようなものを出現させると、空に向かって打ち出した!打ち出された果実は、空中で向きを突然変えると、赤い巨人とその背後にある観客席に一直線に迫る!
 咲夜のリタイアを受けて会場上空で会場警備に参戦していた諏訪子が、その中身を見抜くと同じく空中で待機する射命丸に怒鳴りつける。

「正気かあいつ!射命丸!溶解液がくるぞ!結界!」
「わかってます!全隊、扇構え!」

 天狗たちが観客席と舞台との間に、網目のように配置につく。諏訪子は天頂方向だ。その眼下で、巨人は胸の鏡を光らせると、溢れた神力を両手に集め、空中に丸い文様を描く。

「マウンテン・オブ・フェイス!」

 巨人の咆哮とともに梶紋を模した渦巻く結界が展開され、神奈子の正面から広い範囲に広がる。今の彼女の姿的にはバリアーだ。飛来した果実はそのバリアーに真正面からぶつかり、派手に溶解液を撒き散らしてはじけ飛ぶ!

「神桜『湛えの桜吹雪』!」
「展開っ!」

 諏訪子と天狗部隊が、バリアから逸れた溶解液のしぶきから観客席を防御すべく、さらに広範囲に結界を展開する。溶解液のほとんどは神奈子の結界で蒸発させられていくが、はじけたしぶきが飛び回る。それがまた降り注がぬよう、諏訪子が真上で、天狗部隊が神奈子の背後で結界を広げている。溶解液はそのほとんどが神奈子や諏訪子の結界に当たって蒸発し、または天狗達の風にもまれて地面に落ちた。しかし。

「かけらが!」
「!」

 一人の烏天狗の悲鳴。はじけた果実のかけらが、渦巻く風に乗り、結界を抜けて会場方向に抜けた。会場の大人妖怪が目を見開き、子供妖怪が悲鳴を上げる。

「手伝え!蛇女!」
「あいよぉ!」

 突如会場の後ろから響く声。それはさっき巨人に助けられた、フェンリルの声!復活した!子供たちが歓声を上げる。

「いって、きなさいっ!」

 フェンリルが獣の腕で、果実のかけらに向かい、でかい何かを投げつける。真っ白いそれは矢のように果実に向かって突き進み――――

「テエィィィィル、アタァアアアック!」
ばしぃっ!

 目にもとまらぬ速さでかけらを打ち返す!真っ白い尻尾を振るって打ち返したのは、爆発四散したはずの蛇女!かけらを打ち返した反作用で真下に落下してくる彼女に、銀色の影が飛びついていく。

「上出来ですわ!」
「ああ、楽しーっ!」

 涙目で嬉しそうに絶叫する早苗。溶解液の残滓で尻尾が爛れた蛇女を、お姫様抱っこして受け止めるフェンリル。鱗と肉が焼ける痛みにうっすら涙を浮かべながらも、蛇女の顔は爽快感溢れる笑顔。フェンリルは赤く光る両足で空中を蹴ると、神奈子と少し離れて並ぶように、すっかり砕けた会場の端に着地する。蛇女とともに会場の歓声を受けながら。
 何やってんだへびおんなー!死んだんじゃなかったのかー!とからかうような男の子たちのヤジが飛ぶ。早苗は再生中の尻尾の痛みをこらえ、舌をべろべろさせて笑いながら男子共に向かって怒鳴る。
 
「お前ら喰いそびれて、地獄から戻ってきたんだよ!あたしが喰う前におまえら溶かされそうだったからな!感謝しろガキどもー!」

 ぐはは、と手をワキワキさせてふざける蛇女早苗のリアクションに男子共は手を叩いて喜んでいた。舞台開始直後の殺気交じりの緊張感はもう抜けている。普段守矢神社に行けば顔を合わせるちょっとハイテンションな現人神おねーさんの、エキゾチックな仮装姿に、今ではすっかり男子共が鼻の下を伸ばして盛り上がっていた。
 やがて溶解液の嵐も収まり、巨人もバリアー展開をやめる。怪植物は会場の向こう側で、蔦の絡み合った四肢を不気味に動かしていたが、また、頭部のあった場所に今度は赤い鬼灯のような塊を生み出した!よく見れば、体全体にも無数の小さな赤い粒が湧き出すように体表面に現れ、そのうちの数粒が破裂音とともにこちらに向かって発射される!

「迎撃します!」
「っ、あなたたち、待ちなさい!」

 舞台の状況に興奮してしまったか、会場警備の天狗が数匹、射命丸の制止も聞かず神奈子を追い抜き、赤い粒に向かって突進していく。

「でえぃっ!」

気合とともに振るわれた天狗扇から生まれた鎌鼬が、赤い粒に突き刺さったとたん、凄まじい衝撃を伴って爆発する!

「わっ!」

離れて飛んでいる諏訪子まで、くるくると体勢を崩すほどの衝撃波。近づきすぎた天狗達は、爆風に巻き込まれてことごとく気絶してしまった。

「お前らっ!」

 神奈子が慌てて前方に駆け出し、墜落してくる天狗達を掌で受け止める。幽香の攻撃が観客・スタッフ側にも本格的な被害を及ぼし、会場が一気に緊張する。そして巨人の両手がふさがったのを、頭のない体でどうやって見ているのか、怪植物はそのタイミングを狙って、体の赤い粒をすべて発射した!100を優に超える爆弾果実が、放物線を描いて襲い掛かって来る。

「本気すぎるわ、向日葵妖怪っ!」

 諏訪子が怒鳴り、スペルカードの用意をする。あの粒を遠くから狙撃しなければ、衝撃波で会場がやられる。天狗隊はさっきの攻撃で半分が戦えない。焦る諏訪子だったが、こちらも増援が来ていた。さっき合流した、銀狼と蛇女だ。

「いくわよぉ、オオカミ!」
「足を引っ張らないでね、蛇女!」
「あんたたち?」

 ステージに復帰していた、咲夜と早苗が、ヒーローと悪役の姿のままで、神奈子の前に躍り出る!彼女らは台詞も役柄のままに、赤い球の迎撃に入った。

「子供は好きだけどさぁ!殺しちゃったら怖い気持ちも食えねえんだよ!カザミ様!」
「みんなは私たちが守ります!レッドちゃん!」
「はいよー!」

 空中に跳ね上がった蛇女が白い霊力を両腕に集め、フェンリルの背中にレッドちゃんが噛みつき、二人とも同じように両腕に力を集めた。

「雲を泳ぐ大蛇!いけ、おまえらぁぁ!」
「フィットフル・ナイトメア!」

 早苗は自前の、咲夜は主人の、レッドちゃんのスペルカードをアレンジして使う。
 蛇女の白く光る両腕それぞれから、霊力の白い蛇が次々と発射されて空を泳ぎ、赤い球を追尾して次々と破裂させる。フェンリルは赤く光る両腕から魔力をおびただしい数の光弾としてまき散らし、濃密な弾幕を作り出す。
 ある程度赤い球が迎撃された時点で、衝撃波がほかの球を弾けさせ、球は一気にすべて誘爆した!爆発の余波で暴風が吹き荒れ悲鳴が会場に渦巻くなか、巨人は手の中の天狗達を両腕で守り、その巨体をもって会場の風よけとなるべく、立ち続ける。咲夜と早苗は風にもまれ、舞台に墜落した。

「ったたた‥‥ああ、あれは、まずいですぇ」
「‥‥そう、みたいですわね」

 蛇女と銀狼が、瓦礫の中から体を起こしつつ、呻いた。遠くに立つ怪植物は、頭部の鬼灯をますます成長させてゆく。鬼灯の中には丸い果実がある。そう、さっきあいつが打ち込んできた丸い粒のもっと大きなものが。アレが爆発したらどうなるか。その光景を想像し、思わず早苗と咲夜の口調も素に戻る。

「ったく、幽香さんのドS」
「勘弁してほしいわよね」
「お前たち、大丈夫かい」
「わっ!」

 ずん、と大きな足が横に現われ、咲夜と早苗が見上げた先には、こちらを心配そうに見つめる巨人の顔が。ぐ、と表皮がきしむ音を立て、巨人が片膝をついて顔を近づける。そしてゆっくり手を開くと、守った天狗達を地面に置いた。射命丸や椛、はたてやほかの天狗達が彼らに飛びつき、礼を言いながら後方に連れていく。
そして巨人と銀狼と蛇女が、会場の真ん中でしばし対策を話し合う。

「なんとか、時間を止めて‥‥」
「あんな大きなの咲夜さん一人じゃ持てませんよ。もう幽香さんには悪いですけど火を付けて燃やしましょうか。それくらいじゃ死なないでしょう、あの人」
「あなたたち落ち着きなさい。大体、外側の鬼灯の殻を切り開かなきゃ、中の実までたどり着けないでしょうに」
「殻‥‥」
「ん!?」

 3人が、顔を見合わせる。あの鬼灯だけ、殻がある。ほかの赤い実は剥き出しだったのに。それはなぜか。

「‥‥守ってるんでしょうね。実を」
「たぶん、そうですわね」
「あの大きさだ。間近で爆発したら自分もタダじゃすまないんだろう。だからあれだけ殻が付いてるんだ」
「じゃあ殻に攻撃して邪魔をすれば、その間は実を発射できないってことです!」
「でもなんか、開きそうですわよ」
「えっ」

 みれば、鬼灯の先端に、びしりとヒビが入るのが見えた。

「発射される前にけん制するよ!」

 いうが早いか、巨人が足元の砕けた石畳を握りしめると、クナイのように怪植物に投げつける!今にも殻を開こうとしていた怪植物は慌てて殻を閉じ、蔦を弾け飛ばしながらなんとか石を受け止める。飛びのく蛇女と銀狼を尻目に、巨人は地面から土塊を噴き上げながら怪植物に向かって突進する!怪植物は邪魔をされまいと、巨人の動きを封じ込めようとして無数の蔦を伸ばしてきた!

「ダアアアッ!」

 水平チョップ、回し蹴りからの尻尾による打撃、エルボークロー。その巨体に見合わぬ素早さで次々と蔦を迎撃する赤い竜人。蔦に絡まれずには住んでいるものの、あとからあとから湧き出す蔦に邪魔されて、なかなか頭部の鬼灯までたどり着けない。巨人をあざ笑うかのように、再び殻の先端が開き始める。その時だった。
 ミサイルが一発、白い尾を引きながら、殻を狙って神奈子を追い越し飛んで行く!不意打ちにミサイルは運よく蔦に邪魔されることもなく、開きかけていた殻に直撃して爆発する。怪植物は驚いたかのように一瞬展開していた蔦をバラバラに動かして、再び殻を閉じ始めた。思わぬ援護に神奈子が振り返ると、天狗の代わりに空中で隊列を組む河童たちの姿!その中心でにとりが声を張り上げている。
 
「よおし効果あり!河童ども出番だ!いくぞ!会場と子供たちは我々が守る!」

 応、と勇ましい河童たちの声が会場に響く。後方の観客席では、河童の子供たちが、父ちゃんたちガンバレと大声援を送っていた。

「ビオランテの頭部を攻撃し巨人を援護する!第一列、空中魚雷、射撃開始!」

 にとりの仰々しい指示を受け、河童たちのおよそ1/3が、それぞれの武器を乱射し始める。大量の空中魚雷が幾筋もの尾を引いて、巨人を回り込むようにして次々と怪植物に向かって撃ち込まれ始めた。巨人神奈子と戦いながらであるため、怪植物も余裕がないようだ。空中魚雷を迎撃しようと蔦を振り回したが、数が多すぎて間に合わず、迎撃しきれなかった空中魚雷が一つまた一つと殻にぶつかり炸裂。巨大鬼灯の発射を防ぐ。
 その様子を凛々しく見つめるにとりに、蛇女姿の早苗が空を泳いで近づいてくる。

「さすが河童さん方です。説明が楽でした」
「はっはっは。お安い御用だよ。ほんと、この大会のために武器を持ってきていてよかった」
「おまえら、相撲大会で空中魚雷なんかどうやって使う気だったんだ」

 蛇女に褒められて得意げに鼻の下を伸ばす河童に、諏訪子はあきれ顔でツッコミを入れる。
 早苗と咲夜は会場係を通じて河童たちにあの怪獣幽香の目的とけん制の仕方を伝え、協力を要請したのである。技術屋という種族の性格的に、巨大な怪獣とどうやって戦えばいいか、楽し気にあれこれ考えながら観劇していた彼らに舞い込んだ、まさかの舞台協力の申し出である。会場警備は殆ど天狗で、あまり出番がなかったこともあり、彼らはすぐに大喜びでその要請を受けたのだ。

「フェンリルは?」
「咲夜さんは舞台袖でエネルギー充電中です。さっきも弾幕張ってましたし、今のうちにいろいろ補給しないと」
「‥‥あの子も大変だね」

 早苗がニヤニヤしながら答える。気力補充時の美鈴とのドタバタを思い出し、諏訪子は思わず合掌し天を仰いだ。その視線の先、空を舞う色とりどりの空中魚雷。それらは群れを成して次々と怪植物に襲い掛かってゆく。その攻撃の密度に、迎撃をあきらめた怪植物は鬱陶しそうに殻を蔦でさらに覆い始めた。弾切れまで耐えきるつもりか、と諏訪子が呻く。対してにとりは、うはははと腕を組んで笑っていた。
 
「ッハァ、そのくらい考えてるんだよこっちはぁ!第二列!誘導質量兵器、前へ!」

 ギラギラと笑いながらにとりが手を振ると、空中魚雷部隊の後ろにいた一団が前に出てくる。それぞれ背負ったリュックの脇から、ぶっといマジックハンドをのばしてワキワキさせながら。彼ら彼女らは位置につくと、マジックハンドの拳を固く握り締め、身構えた。

「投射!」

 にとりの合図に、ズ、ズ、ズと重たい音を立てて打ち出されていく無数のロケットパンチ。轟音を立てて怪植物に飛来すると、ロケットの炎を煌めかせながら蔦ごと殻を殴りつけ始めた!

「ロケットパンチが相手してる間に空中魚雷補充だ!子供も手伝え!」

 空中魚雷隊が地面に降り立つと、白狼天狗隊が河童の里から運んできた予備の魚雷を用意して待っていた。会場の河童の子供たちも、大人を手伝って魚雷の補充作業に混じる。ロケットパンチは一度殻に当たってもまた炎を吹き出して飛び回り、再び殻を殴りつける。数は少ないが、十分空中魚雷の代わりを果たしていた。早苗も、思わず役を演じることを忘れて、ロケットパンチ乱舞を楽しんでいた。

「さすがに貫通とはいかないですか。アニメみたいに」
「早苗ちゃんよ、それをやるにはちょっと重さと速さが足りなくてね。すまんな」
「なんでうれしそうなんだよ。つかだから、相撲大会でなんでそんなのが必要なのさ‥‥」

 諏訪子のつぶやきに、理系蛇女が赤い舌をべろべろさせて指を振った。

「自らが設計したものが思った通りの性能を、思った通りの強さで、思った通りに発揮してるんですよ。彼らが嬉しくないわけないでしょう」
「お、わかってるね」
「相撲大会にロケットパンチ持ってくるのはどうかって聞いてんだよ、あたしゃ」
「浪漫。浪漫ですよ、守矢様」
「ああ、そう」

 諏訪子はそれ以上聞くのをやめた。結果的に河童たちのおかげで神奈子の相手をする蔦の量がさらに減り、巨人は少しずつ怪植物との間合いを詰めてゆく。あと少しで攻撃の間合いに入れそうだ。

「にとり、神奈子がもすこし間合いを詰めたら、ロケットパンチは下げてまたミサイルでけん制しようか。ウルトラマ・・・・神奈子の邪魔になる」
「承知」
「はあ、あたしゃゴジラ映画の軍人さんかい‥‥」
「それをいうなら防衛隊の隊長さんですよ」
「はいはい」

 神奈子をちょろっとからかうだけのつもりが、いつの間にやら主要人物である。さっさと神奈子にとどめを入れさせてショーを終わらせなければ、幽香はどこまでエスカレートするかわからない。楽しくないかと言えばそうでもないが。諏訪子の額に汗がにじむ。
 しかし諏訪子の思惑とは裏腹に怪獣はただではやられる気がないようだ。やおら、あのぶっとい両腕を広げたかと思うと、絡み合う蔦で構成されたそれがすべてほどけて本体から無数の蛇のように分離する!

「うげっ!」

 巨人状態の神奈子も思わず驚き後ろに下がってしまう。一瞬のスキが生まれたのを見逃さず、分離した蔦が地面を這いまわると、神奈子の真後ろに集結し始める。そしてまたそこで絡み合うと、深緑色の巨人の姿になった。幽香の顔の。でかい鬼灯を頭にのっけた本体と、分離した巨人。二体に挟まれた神奈子は、挟撃だけは避けようと、横に飛び跳ねて間合いを取る。緑の巨人は、飛びずさった赤い巨人に遜色ない素早さで掴みかかってゆく!

「まだ終わらないわよ!」
「風見っ!」

 先ほどまでの怪植物がパワータイプとすればこちらの緑の巨人はスピードタイプか。赤い巨人につかみかかり、両手で組み合ったかと思えばそのまま激しく動き回り、神奈子が体勢を崩したところを狙って打撃を入れていく。

「おい、ふえたよ」
「大きな花とそれを守る護衛役。ガメラ見せた甲斐がありましたね」
「おまえ余計なことを!」
「あうあうあうあ」
「ロケットパンチ群はそのまま鬼灯をけん制!空中魚雷は補給終わっても待機!動きが速くてどちらに当たるかわからないから様子見だ!」

 諏訪子が白蛇の襟首を掴んでがっくんがっくん揺さぶりながら怒鳴るのを尻目に、にとりが河童たちに指示を出していく。その視線の先で対決する巨人神奈子も、緑の巨人と化した幽香に怒鳴っていた。

「出し物で本気出しすぎだぞ!」
「本気で暴れただけあなたも本気を出すでしょう!そのほうが皆も私も楽しいわ!子供に格好悪いところを見せないように頑張りなさい!」
「程度ってもんがある!」
「河童も参戦して大盛り上がりじゃない!」

 言い争いながら、緑の腕と赤い鱗だらけの腕が交錯し、蔦の破片と鱗が飛び散る。観覧席からはちょっと離れているうえ、鬼灯展開阻止のため、ひっきりなしにロケットパンチが怪植物の鬼灯を叩いてガンガン音を出しているため、その騒音で子供たちには会話は聞こえていない。実際幽香のいうとおり大盛り上がりである。天狗のほかに河童まで、もはや観客総出で二人のバトルに参戦しているのだ。

「私もおおっぴらに大暴れできて楽しいのよ!いい話を持ってきてくれたわ!天狗どもは!」
「お前がこんな喧嘩の仕方が得意だとは思わなかったわよ!」
「早苗ちゃんに色々見せてもらったから!」
「あいつ!」

 緑の巨人の回し蹴りを手刀ではじき返すと、空いた手を首に伸ばして喉元を鷲掴み。怯んだところを一気に引き寄せると、膝蹴りを腹部に食らわせる。蔦の集合体のはずだが、緑の巨人が呻いて腹を抑える。もう一発膝蹴りを入れると同時に首をつかんでいた手を放し、もう一発回し蹴りと尻尾の連続打撃を叩き込んで転がした。さらに起き上がろうとする巨人に飛びつくと、馬乗りになって首元にチョップを連続して叩き込む。しかし、緑の巨人は赤い巨人の顔目掛けて、口から緑色の煙を吹きかける。じゅっ!と音を立てて赤い巨人の皮膚が白煙を上げる。本物の毒霧だった。

「ぐあっ!」
「手加減なんかしないわよぉ!」

 ああっ、と観客席から悲鳴のようなざわめきが上がる。目をつぶされた神奈子は、顔を押さえながら地面を転がり、緑の巨人から離れる。巨人の窮地を見て、にとりがロケットパンチ群を緑の巨人に差し向けるが、巨人がぐるりと顔をめぐらして毒霧をまき散らすと、ロケットパンチは次々と装甲に穴をあけられ、爆発炎上してしまった。
 何とか起き上がろうとする赤い巨人に緑の巨人がゆっくりと近づいてゆく。呻き、ふらつきながら、立ち上がった赤い巨人。しかし。

「悪役が一回勝つと盛り上がるのよね?」
「っ、お前、何を!」

 緑の巨人が、不敵に笑う。赤い巨人が力を振り絞って殴りかかるが、拳が当たった瞬間、緑の巨人の体が無数の蔦に再びほぐれ、殴った腕を伝って赤い巨人にまとわりつき始めた!

「アアっ!」

 慌てて振り払おうとするが、蔦は瞬く間に体表を這いまわると、赤い巨人の全身を覆いながら絡みつきあい、その動きを封じてゆく!

「っぐ!」

 もがく神奈子の視界が、蔦で覆われ暗転する。叫ぼうとした口から声は出なかった。凄まじい力で全身を一気に締め上げられ、巨人の意識は焼失した。


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