Coolier - 新生・東方創想話

〽胸に付けてる マークは梶紋

2020/12/05 15:29:45
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★企画発表は突然に



「‥‥相撲大会?」
「はい。今度天狗の里でやるお祭りで開く演目でして。まあ、秋祭りの一環といいますか。そんなに規模はでかくないですけど、ご近所ということで今まで河童と一緒に開いてきたんです」

 守矢神社に隣接した住居の居間で。チラシを持ってきた白狼天狗の椛が出されたお茶を一啜りしながら神奈子の問いに答えた。
 今度行われる天狗の里での秋祭り。その出し物の一つに河童との合同相撲大会があるという。椛が持ってきたのは、その相撲大会のチラシだった。出し物と言っても3日ある祭りのど真ん中2日目を、丸々1日つかって行われるようで、メーンイベントの一つといった趣である。そんなに規模はでかくない、とはちょっと過小評価ではあるまいか。

「チラシを見る限りじゃ、あれですね、ショッピングモールの駐車場で場所借りて開く田舎のイベントって感じですかね」
「え?」
「早苗のたとえは椛にはわからないと思うよ」

 しょっぴんぐもーるとは何ですかと少し首を傾げた椛に、いいから続けてと諏訪子が先を促す。椛は気を取り直して話をつづけた。

「天狗と河童双方で参加できる出し物として、長らく相撲大会が行われてきたわけで。なかなか人気のイベントですよ」
「皆さんがお相撲とるんですか?河童さんと?」
「ええ」

 早苗がチラシに目を通しながら尋ねる。横では諏訪子も目をキラキラさせながら覗き込んでいた。

「河童と天狗じゃ、水の中と空の上、お互い得意な場所からして違うわけで。しかしながら力の上では天狗のほうが勝るわけですよ。なので河童が得意な相撲をやろうと。まあ、ハンデと言ってしまえば我々の驕りかもしれませんが、河童に少し譲ったんでしょうね、先人が」

 喋り終わった彼女は少しだけ、得意げな顔をしていた。椛が時々見せる、つーんとすましたような仕草は、神奈子に気まぐれな柴犬を想起させる。柴犬椛は煎餅をひとかじりすると、ふんふんと鼻を鳴らし、お茶で流し込んで話をつづけた。

「で、このチラシを持ってきたわけなんですがね。この相撲大会、ぜひ皆さまにもお越しいただきたくと、うちの天魔から申し出がありまして、今回あたしが伺った次第です」
「あ、行きます行きます!相撲大会だけじゃなくてお祭りや天狗の里にも興味ありますし!」

 早苗がはいはい!と手を挙げて答える。神奈子も同意見であったので、黙って微笑んでいた。

「じゃあ、来ていただけると?」

 椛が片方の耳をぴくりと動かし尋ねる。少し驚いたような、ほんのり片眉を上げた表情で。何かその様子に引っかかるものを感じた神奈子であったが、「相撲大会を見に来い」というだけなら特に問題もあるまい、と軽く流してしまった。

「まあ、面白そうだし。招待してくれるなら喜んで。な、諏訪子や」
「そうね。天魔の誘いだっていうなら」
「ありがとうございます。皆も喜びますよ」

 二柱の乗り気な様子を見て、椛は深く頭を下げた。
 そして、満面の笑みで爆弾を落とす。

「皆様の勇ましい雄姿を見ることができて」
「「「は?」」」

 3人の声が奇麗にハモる。驚いた様子の3人を前に、椛はすました顔で言葉をつづけた。

「承諾はいただきましたからね」
「ちょっと待てぃ。その口ぶりは何か?相撲大会にか?私らが?出るの?」
「え!」
「早苗嬉しそうな顔しない!」
「言質ハ イタダキマシタ ヨ」
「もみちゃん!?」

 あくまでもすまし顔の椛に、うれしそうな早苗の頭をペチリと叩いて、神奈子が焦った様子で問いかける。椛のこめかみを一筋の汗が伝うのが見えた。
 椛も天狗とはいえ、こんな狡い手で誰かを貶めるようなことはしないと思っていた神奈子だったので、その焦りの汗を見てすこし落ち着けた。きっと誰かの差し金なのだ。
 しかし、相撲大会である。別に裸でまわしを巻いて出ろなんて言うこともあるまい。村祭りの余興だと思えば別にどうということもない。問題はなんで椛がだまし討ちみたいな方法で守矢の参加承諾をとったかというところである。そこだけが気になる。
 ちょっと身を引いて口元に手を当てて考え込む神奈子の代わりに、諏訪子が椛の隣に座って肩に手を回す。椛の耳がへたるのが見えた。

「もみちゃん」
「わん」
「そこで犬にならないでほしいなぁ。ねえ。“これは一体どういうこと”だい」
「みなさんで相撲大会に出ていただけるとお返事を頂いたところです」
「肝心なところはちゃんと説明してもらってなかった気がするんだけどぉ」

 うりうり、とほっぺたをつつく諏訪子。舌がずるーりとカメレオンのように伸びて、椛の首に絡みついた。椛は目を静かに閉じると、芝居がかった様子でしくしく泣き真似を始めた。

「うう。堪忍してくださぁい、あたしのこと殺さないでください‥‥」
「げろげろげろ。それはもみちゃんの返答次第だなぁ。ねえ、いったいどういうわけなんだい。こんな不意打ちで我々を相撲大会に担ぎ出そうなんて、いったい誰のあいでぃあなんだろねぇ」
「うっうっうっ。天魔様です」

 天魔。主催者であるからして、別に我々に参加を申し込むくらい、おかしくもない行動であろう。なんなら本人が来たっていいくらいである。

「‥‥」

 こちらと面識のある下っ端をわざわざ出して不意打ちで参加承諾をとる意味が、神奈子にはまだもう一つ理解できなかった。べつに、そのくらい―――
 いや、一つだけ、見落としているような。
 今、目の前で椛は諏訪子に捕まっている。なんで、ここで「観戦じゃなくて参加」というネタ晴らしをした?騙すなら当日ばらせばいい話。現に椛は諏訪子に殺されかかっているくらいだ。いや、こんなことしても怒られない殺されないと思っているのか。ということは、つまり協力者が居るということ――――

「椛や」
「なんでしょうか」
「誰と考えたの、これ」
「っ」
「っ」
「っ」
「は!?」

 その質問に椛があからさまに動揺したどころか、諏訪子まで。そして動揺する息づかいは後ろからも。慌てて早苗を振り返ると、心穏やかに目を閉じて座っている。口元に隠し切れない笑みを浮かべて!

「あ、あなたたちぃ!?」
「意外と早かったねぇ。神奈子」
「神奈子様。観念しましょ」
「ちょっ、貴女達どういうことよ!いったい何がどこまで決まってるの!あなたたちグルだったの?」
「椛さん!天魔様に返答を!」
「がってん」
「あ、こら!」

 いうが早いか、椛は早苗に促されると縁側のふすまを開けてあっという間に空に逃げてしまった。

「ちょっ――――」

 手を伸ばすがもう遅い。手を庭に向かって伸ばす神奈子と、にやにや笑う祟り神とその子孫。

「神奈子様。ごめんなさい」
「こうでもしないと、あんた、OKしてくれないように思ったから」
「大泉○さんを騙す方々の気持ちがハッキリわかった気がしました」
「そうだね」
「おい」

 くそふざけたことをいう金色の瞳の二人。ぎぎぎ、と首を回しながら、怒気をはらんだ声で、風神女神は詳細説明を求めたのだった。


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