Coolier - 新生・東方創想話

〽胸に付けてる マークは梶紋

2020/12/05 15:29:45
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★戦い終わって 非日常


「‥‥爆発四散は怪人の華か、いいこと言うわよね、早苗ちゃんも」
「まあ、無事でよかったよ。我を忘れてたからね、あのとき」
「本当に良かったと思ってるのかしら」
「実はあんまり」
「けっ」

 うろこ雲たなびく秋の空の下。幽香と神奈子が、湖のほとりでぼそぼそと会話している。お互い精魂尽き果てたといった風で、言葉もぽつりぽつりとつぶやくようだ。
 守矢神社の湖のほとり。そこに作られた即席の温泉。皆、ショーで疲れた体をお湯に浸し、ゆったりだらけていた。

「最後には本気の光線でぶち抜かれたし。こっちはちゃんとちょっぴりずつ手加減してたのに」
「ちょっぴりとか本気で言ってます?だって幽香さん、本当に見境なかったですから。ほんとに会場全滅するかと思いましたよ。天魔様も冷や汗流してましたよ」

 ため息をつく幽香に、椛が口を尖らせた。ぎろりと幽香が横目でにらむ。

「あれえ?暴れられますとか言って誘いに来たのはだあれ?」
「いや、しらねっす。早苗さんじゃないですか」
「最初に声かけたのは椛さんでしょ」

 そうでしたっけとすっとぼける椛に、幽香はふん、と横を向いて苦笑いした。恐れ多くも大怪獣相手にとぼけて見せるとは、どこまでも怖いもの知らずなワンころである。

「まあ、終わってみれば今までにない盛り上がりだったし、河童の里でも評判よかったんだよ」
「白狼も烏も、参加した連中は皆喜んでたよね」
「爺様たちもまあ、概ね反応は良かったしねー」
「あと、子供たちも!」

 にとりにはたて、射命丸が相槌をうち、早苗も手を合わせて笑った。会場はぐちゃぐちゃになってしまったが、参加者は総じてあのヒーローショーを称賛しており、特に子供たちの反響がすごかった。当日会場に来ていなかった子供たちの中には、話を聞いて泣いて悔しがる子もいたらしい。天狗の里でも河童の里でも、次の日から赤の巨人や怪植物、そして銀狼、蛇女の真似をして遊ぶ子供たちであちこちにぎやかだった。守矢神社にも神奈子や早苗を目当てに訪れる妖怪の子供の参拝客が増え、ちょっとした賑わいを見せていた。そしてその全員から、来年も絶対やってくれとねだられ、嬉しいやら困惑するやら。とりあえず早苗はリクエストに大喜びだった。レミ蝙蝠がその光景を思い浮かべてしみじみつぶやく。

「うちら紅魔館だし。馴染みも親近感もないから咲夜大丈夫かと思ったけど、人気出たわねー」
「そこは早苗のリアルな演技のおかげですわね」
「感謝したまえ」
「はいはい」

 胸を張る早苗に、レミ蝙蝠が、咲夜の頭の上で苦笑する。そして、漂う湯気を嗅いでふああ、とあくびをした。主従がのんびりしている姿を見ながら、射命丸が尋ねる。

「レミリアさんと咲夜さんはまだこっちで休んで行かれるんですか」
「そーね。咲夜疲れてるし。私がこっちにいるし。それにまだ、あのショーの記録映画もらってないもの。編集まだぁ?それ持って帰らないと妹とか魔女が煩いのよ」
「うちの撮影隊が頑張ってますので、もう少々お待ちを‥‥」

 はやくーとねだるレッドちゃんを頭にのせたまま咲夜が苦笑する。そして隣の少女に話しかける。

「あなたも、もう少しほとぼり冷めるまで帰れそうにありませんね」
「私はお姉さまと居られるので、このほうが嬉しいです」
「まあ」

 咲夜に話しかけられた白狼の少女が、にへらと笑って腕に抱きついた。彼女は当初ただの観客で偶然巻き込まれただけなのだが、なかなかの活躍だったうえに変身した面子で唯一の白狼天狗であるため、ショーが終わると彼女の周りも大騒ぎになった。このまま返しても面倒に巻き込まれそうなので、椛が世話役として里に断わりを入れて、しばらく守矢神社でかくまうことにしたのである。ショーの当日からそうだったが、衝撃的な出会いをした咲夜にはすっかり懐いており、同じく守矢神社に泊まり込んでいる彼女にべたべたくっ付いていた。

「まあ、天魔も喜んでたし、神奈子の活躍も皆に見せられたし、よかったんじゃないかな」
「相撲大会だって騙されたときにはどうなるかと思ったけどね‥‥」

 お湯から顔を出して笑う諏訪子に、神奈子がため息をつきながらにらみつける。諏訪子はげろげろと笑って、神奈子の肩を叩いた。

「大丈夫、ちゃーんとできたじゃん。変身姿もカッコよかったし」
「そうかな」
「そうですよ!すごかったです!神奈子さんも幽香さんも、めちゃくちゃカッコよかったし似合ってましたよ!」
「はいはい」
「今回一番の黒幕はあんたよね」
「へ?」

 びっ、と親指を立てる早苗を、神奈子と幽香がやれやれと見やる。ほかのメンツも、苦笑していた。

「早苗ちゃんの入れ知恵でこの大騒ぎになったのよ。私もあんな姿でケンカする羽目になったし。わかってます?」
「え、幽香さんだって面白そうに特撮の本とか怪獣とか見てたじゃないですか。」
「貴女が見せなきゃ普通にケンカしてたわよー」
「んなむちゃくちゃなー」

 ふざけて笑いあう緑髪達。風呂につかる皆も、くすくすと笑いあった。 

「それでだね、皆の者」
「なに、諏訪子」

 笑いがひとしきり納まるのを待って、諏訪子が声を上げる。神奈子が笑って答えた。
 
「いつになったら元の姿に戻るんだい」
「‥‥」

 その問いに、演者だった4人が絶句した。そして自分の体をじっと見る。
 あのお祭りから、すでに1週間たっていた。しかし早苗も咲夜も、白狼少女も、いまだ蛇女と銀狼に変身したままだった。幽香と神奈子も大きさこそ元の人間大になっているものの、二人とも緑の巨人パワータイプと有棘有尾の竜人姿のままである。

「‥‥おもったより、力がなじんじゃってねぇ」
「戻ろうと思っても戻れないのよ」

 神奈子と幽香が顔を見合わせて頬をかく。

「尻尾溶かされたり串刺しになったりして何度も体を再生しましたしねぇ‥‥あれが良くなかったんですかねぇ」
「魔力と気を何回ももらいましたし‥‥私の魔力に完璧に混じっちゃって」
「私はどうすれば変身解けるのすらわかりません!でもいいです!」
「咲夜の変身解けるまで付き合ってるだけよ。私は」
 
 早苗と咲夜も、恥ずかしそうに眼を閉じてつぶやく。白狼少女は何やら嬉し気に毛皮をまとったままの咲夜の腕に抱き着いた。解けるまで一緒にいられるので!と相変わらずとろけた笑顔で咲夜にくっ付いている。レミ蝙蝠は私は違うわよと言って耳を掻いているが、仕草がだいぶ本物の蝙蝠になってきていた。

「まあ、そのうち戻るんじゃないかな」
「猿みたいで嫌なんだけど、この体」
「ごつくてかっこいいじゃないですか」
「普段の私の姿覚えてるでしょう。私のセンスじゃないのよ」

 早苗に突っ込む幽香。神奈子はお湯に体を浸しながら、のんきに空を見上げていた。

「まあ、わざわざ関係者以外でここまで見に来る奴はいないし。しばらく休んでりゃいいさ。そのうち元に戻るよ」
「暢気よね、あなた」
「そうかな」
「なんかね。博麗の巫女に通じるものがあるわよ」
「誰に通じるって?」

 突然響いた冷たい声に、一同が空を見上げる。高い秋空を背景に空中に佇むのは、紅白の‥‥

「霊夢さん!え、どうしてここに」
「やあ、霊夢。貴女も温泉につかりたくて?」
「違わい。調べに来たのよ、ここを!」
「え?」

 早苗と神奈子の挨拶に、イライラと答える霊夢。調べに来たとの言に、一同は首を傾げた。それがとぼけた様子に見えたか、霊夢が湯船の端に着地するとお祓い棒を振り回しながら、叫ぶようにしゃべり始めた。

「全部あんたらのせいでしょ!晴れてるのに山から雷の音が途切れなく響くわ、ひっきりなしに地鳴りが起こって里の人間が騒ぐわ、挙句の果てに赤い光に空に舞う巨人よ!?何事かと大騒ぎなのよ!麓は!」
「あ」

 皆がその内容に心当たりがあった。諏訪子はくっくっくっと下を向いて笑っている。霊夢はぐるりと皆を見渡すと化け物ばかり居る光景に顔をしかめた。そんな巫女を幽香が煽る。

「それで1週間たってからここに?やっぱり底抜けに暢気だわ、あなた。どうせ紫か華扇に尻たたかれて渋々来た口でしょう?」
「うっさい幽香。大体何よ、その格好」
「似合う?」
「気持ち悪い。それに、蛇女に狼女、トカゲ女?なに、早苗に咲夜なの?んで神奈子?ああ、そう。あんたら正体表して暴れてたのね。化け物だったのね」
「あ、マズい。いや霊夢さん。これはお山のお祭りの衣装でして」
「うっさい蛇女。それが衣装じゃないくらいわかるわよ。あんたなんか早苗じゃない。蛇女よ。妖怪は私の敵よ。おら、大人しく退治されなさいよ。したくもない山登りさせられて、出会う河童や天狗に祭りは終わりましたよとか散々にやつきながら謎の嫌味言われて、こっちゃ腹立ってんのよ!」

 ぷんすか怒る霊夢。いつもの彼女の様子にちょっと日常が戻った気がして、早苗と咲夜は顔を見合わせて吹き出した。

「無茶苦茶ね相変わらず」
「気持ちはわかります」
「笑うな。あんたらが暴れるのが悪いんでしょ。狼女!」
「さて、どうするかい」

 神奈子が早苗と咲夜に問いかける。二人は顔を見合わせると、こくりとうなずいた。

「私たちで、説得しましょうか。早苗」
「ですね。咲夜さん」
「おー。私を馬鹿にしている声色ねぇ。腹立つわぁ。腹立つわぁ」
 
 早苗と咲夜が風呂から上がり、そのまま空に浮かんだ。霊力を体からはじけさせ、お湯を一瞬で掃う蛇女と銀狼。その姿に霊夢が慌てだす。

「ちょ、あんたたち、なに、服着なさいよ!」
「へ、裸じゃないですよ。大丈夫ですよ」
「そうですよ」

 恥じらいもなくうそぶく二体の獣。人外の姿で散々暴れまわって、二人ともこの姿に慣れすぎてしまっているが、変身が解けてしまうと大変デンジャラスな姿だということを一瞬で見抜いた霊夢は、こめかみを押さえてお祓い棒を握りしめる。

「はあ?うわあ‥‥ついに人間としての道徳心まで消えかかってんのね。はい。あんたら妖怪。退治」
「されてたまるもんですか」
「ですわね」

 早苗が蛇女の姿で、べろべろと舌を出して笑う。咲夜も獣の腕を構えると、爪をギラリと光らせた。

「私たちが勝ったら霊夢さん、どうしましょうか」
「私たちと同じようにしましょう」
「あ、いいですね」
「なによ、わけわかんないんだけど」
「ぐへへ。博麗霊夢。貴様を改造してやる」
「観念しなさい」
「はぁ?」
「お、アンコールステージかな?いいよいいよー」

 蛇女と銀狼がニヤリと不敵に笑う。霊夢は何よこいつら、とお祓い棒を構えた。諏訪子がそんな彼女らを囃し立てる。
 
「はーい、じゃあ、霊夢さんと早苗、咲夜タッグの一戦、用意はいいでしょうかー」
「なんであんたが仕切ってるのよはたて」
「いいじゃーん。いくよー。両者、見合って!」

 はたてが、風呂につかったまま右手を上げる。

「はっけよーい、のこったー!」
「なんで相撲なのーー?!」
「うははは!」

 竜人たちの笑い声と霊夢の困惑した叫びが晩秋の山々に響く。
 目の前で繰り広げられる弾幕を眺めながら、神奈子は来年の演出をどうしようか、ぼんやり思いをはせていた。


 







‥‥
‥‥‥

「はい、神秘の霊獣、吉祥白狐、どうです!?」
「モフモフして動きにくい‥‥」
こまけえことはいいんだよ!的な。東方で特撮。
ウルトラマンZ面白いです。

こんなお話いつか書いてみたかったんですが、たまたまリクエストをもらったのではっちゃけてみました。
お口に合えば幸いです。
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コメント



0.簡易評価なし
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白く楽しめて良かったです
2.100名無しの権米削除
待っていましたよ!
また貴方の小説が読めて幸せです!
今回の話も手に汗握る展開が
続いていて良い意味でテンプレを突き通してくれる作風が大好きです!
復活ありがとうございます!
3.100名前が無い程度の能力削除
実に楽しそうな山の相撲大会、読んでいる此方もニヤニヤが止まりませんでした。
登場人物が各人とも本当に生き生きと動いていて、それぞれに見せ場があり、とても完成度の高い群像劇だと感じました。相当な力量の方とお見受けします。
大変楽しめました。