火照った目許を、慰めるかのようなパチュリーの魔力がこもったそれ。
その冷気がすっかりと失われる頃には、咲夜の紅くなった目許も普段通りの涼しげな色を取り戻していた。
隣ではパチュリーが静かに本を読んでいて、小悪魔は膨大な書物の整理という仕事に戻っていた。
そわそわと咲夜の事を気にしながらも、大人しく仕事をこなす小悪魔。
何も聞かず、そして何も言わないパチュリー。
彼女たちなりの気遣い感じながら、咲夜は席を立った。
広い広い図書館を歩く。
ブーツの踵が、コツコツと音を立てる。
(どこの棚だったかしら……)
極力静かに歩くようにしながら、咲夜は高い天井の上まで続く本棚を見上げる。
ぎっしりと詰まったあらゆる書物は、見たこともないのに、そして見たとしても分かるわけもないのに、その埃っぽさが何故だか懐かしさを呼んでいた。
「……こっちだったかしら?」
ゆっくりと、床を蹴る。
踵がコツン、コツンと、音を立てる。
上から下、左端から右端まで本棚を見渡して。
その内、ふと咲夜の視界に古ぼけた絵本が映った。
一番下の棚に差し込まれた絵本。
しゃがみこんで、手を伸ばす。
消えかけた文字と、褪せた絵。
そこには綺麗なウェディングドレスを着た女性と、タキシード姿の男性が幸せそうに笑っていた。
「……馬鹿よね」
咲夜はぽつりと呟く。
自分がウェディングドレスを着たら隣には美鈴がいいと、でも何故美鈴がタキシード姿だったのか。
そんな疑問の答えは簡単だ。
一重にウェディングドレスと対となっているのがタキシードであり、お嫁さんの隣には旦那様という固定観念があったから。
つまり、それは男と女ということ。
「……馬鹿よね」
絵を見詰めながら、もう一度呟く。
口端がふと、自嘲気味に歪んだ。
馬鹿だ。
本当に馬鹿だ。
だって、美鈴は女だ。
自分も女だ。
まして、妖怪と人間。
胸が、きゅぅっと痛んだ。
「馬鹿、だ……私じゃ……」
そう。馬鹿だ。
だって、妖怪と人間だ。
「……わた、し……じゃ………」
女と女で。
そして、人間と妖怪。
だから。
だから。
「……わた、し……じゃ……私じゃ、美鈴の、こと……」
――――幸せにしてあげられない。
なんで、違うんだろう。
なんで、美鈴と同じじゃなかったんだろう。
好きなのに。
好きなのに。
でも、幸せにしてあげられないなんて。
そんなの、ひどい。
ぽたり、ぽたり。落ちるしずく。
図書館に、遠い空から落ちてくる雨音が響いた。
外は雨が降り出していて、洗濯物を取り込まなければいけないなと思ったけれど。
でも、咲夜は暫くの間、そこから動くことが出来なかった。
あの妖怪のことを想うと、痛くて。
胸が、きゅぅっと苦しくて。
その痛みが“切ない”という名前だと気付いてからも、咲夜はその場に蹲ったまま動けなかった。
「……めい、り、ん…………」
あんまりにも切ないから。
だから少しは和らぐかなと思って、“切ない”に好きな人の名前を付ける。
でも、そうしたらもっと切なくなって。
涙が止まらなかった。
END
続きが気になります!!!
続き楽しみにしてます…!!!!
個人的に猫が気になりますぜ。何かありそう。。
咲夜さんが可愛すぎてドッキドキです
すごく切なくなりました。小説読んでて初めてなったぜ
副隊長、猫、悲しげな美鈴。これから非常に楽しみです。
胸が…キュンキュンする…。なんかキュンキュンて書くの恥ずかしいですね…。