誰もいない廊下。長い長い廊下。窓のない、広い廊下。冷たく寒い廊下。
そんな廊下で少女が一人立ち竦んでいた。
肩を震わせ、小さくしゃくり上げ、両手で顔を覆って。
咲夜は一人、泣いていた。
それを見つけたのは、意外にも魔女だった。
「……咲夜」
「!」
静かで抑揚の少ない声に呼ばれ、咲夜は肩を跳ねさせながら振り返る。
図書館から滅多に出ない筈のその人は、いつも通りの無愛想な顔で咲夜に視線を送っていた。
「ぱ、パチュリー様……」
返事はしても顔を向けないのは失礼だと、そうだとはわかっていても顔を向けられない。
こんな顔は見せられない。
咲夜は慌てて目元を擦り、濡れた頬を乱暴に拭う。
しかし、堰を切った涙は止まらなくて。
我慢しようとすればするほどに涙は後から後から零れてきて、吐く息も吸う息も震えて、しゃくり上げる声も大きくなってしまう。
堪えようとすればするほどに行き場のない感情が昂ぶって、出口を探して咲夜の胸を叩いた。
「……咲夜」
小さな溜息の後に、もう一度呼ばれる。
声が震えて、今度はまともに返事も出来なかった。
「……お茶、淹れて」
唐突に与えられる仕事。
踵を返すパチュリーを直ぐに追いたかったが、そこから上手く動けなくて。
涙ばかりがぼろぼろと零れた。
後ろで、パチュリーがまた溜息を吐いたのが聞こえた。
「そういうところ……」
「っ!」
不意に手を取られ、引っ張られる。
「レミィに似てるわ」
思わず顔を上げれば、微かに笑んでいるパチュリーが滲んだ視界に映った。