Coolier - 新生・東方創想話

好きなのに

2009/09/01 03:12:53
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 誰もいない廊下。長い長い廊下。窓のない、広い廊下。冷たく寒い廊下。
 そんな廊下で少女が一人立ち竦んでいた。
 肩を震わせ、小さくしゃくり上げ、両手で顔を覆って。

 咲夜は一人、泣いていた。


 それを見つけたのは、意外にも魔女だった。



 「……咲夜」
 「!」

 静かで抑揚の少ない声に呼ばれ、咲夜は肩を跳ねさせながら振り返る。
 図書館から滅多に出ない筈のその人は、いつも通りの無愛想な顔で咲夜に視線を送っていた。

 「ぱ、パチュリー様……」

 返事はしても顔を向けないのは失礼だと、そうだとはわかっていても顔を向けられない。
 こんな顔は見せられない。

 咲夜は慌てて目元を擦り、濡れた頬を乱暴に拭う。
 しかし、堰を切った涙は止まらなくて。
 我慢しようとすればするほどに涙は後から後から零れてきて、吐く息も吸う息も震えて、しゃくり上げる声も大きくなってしまう。
 堪えようとすればするほどに行き場のない感情が昂ぶって、出口を探して咲夜の胸を叩いた。

 「……咲夜」

 小さな溜息の後に、もう一度呼ばれる。
 声が震えて、今度はまともに返事も出来なかった。

 「……お茶、淹れて」

 唐突に与えられる仕事。
 踵を返すパチュリーを直ぐに追いたかったが、そこから上手く動けなくて。
 涙ばかりがぼろぼろと零れた。

 後ろで、パチュリーがまた溜息を吐いたのが聞こえた。


 「そういうところ……」
 「っ!」

 不意に手を取られ、引っ張られる。

 「レミィに似てるわ」

 思わず顔を上げれば、微かに笑んでいるパチュリーが滲んだ視界に映った。


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