Coolier - 新生・東方創想話

好きなのに

2009/09/01 03:12:53
最終更新
サイズ
70.82KB
ページ数
8
閲覧数
5947
評価数
12/65
POINT
3510
Rate
10.71

分類タグ



 「子供ができました」
 「ぐふっ!!」

 咲夜の唐突な発言に、レミリアは口から紅茶を思いっきり噴出した。
 どうでもいいが、本日二度目の噴出は同じテーブルに誰もいなかった為、被害は壁に穴を開ける程度で済んだようだ。

 「なっ、な、ななな、なななっなな!?」

 別に『シャ●ハイ・●ーリング~幻●は燃えている』を歌っているわけでない。
 レミリアは混乱しているが故に「なんですって!?」の「な」を連呼しているわけである。

 (パチェってば本当にヤっちゃったの!? た、確かに一番手っ取り早い方法ではあるけど、心を無視したヤり方っていうのは……!!)

 吸血鬼のクセにやけに良心的なレミリア。
 そんなレミリアは顔を真っ青にして一瞬涙ぐみ始めたが、その内、

 「あんのヘタレ門番っっ……私の咲夜を傷物にしてただで済むと思うなよ……!!」

 怒りに顔を真っ赤に染めて、翼を広げた。
 漆黒の翼が不気味にバサリと音を立てる。

 「お嬢様?」
 「咲夜、大丈夫よ。貴女のしょじょま」
 「そこまでよ!」
 「あがっ!?」

 不敵に笑ってとんでもないことを言おうとしたカリスマの頚椎に、見事なまでのパチュリーチョップが炸裂する。
 そこには首にギプスを装着している、なんとも痛々しい姿のパチュリーが不機嫌そうな顔で立っていた。
 首がへし折れるくらいの魔力と力の篭ったチョップを喰らったレミリアは、そのまま真横に吹き飛び壁にぶつかって上方へとバウンド。そして天井にぶち当って、床に落ちてきた。

 「全く。私がいないと本当にダメね、レミィは」
 「だからって首へし折ることないでしょ!? 頚椎が一瞬死んだよ!?」
 「いいじゃない。頭が吹き飛んだとしても死なないんだから」
 「死にはしないけど死ぬほど痛いって何度言えばわかんのよー!!」

 ギャーギャーと今日も仲良く喧嘩する二人。いや、レミリアが一方的に苛められている気もしないでもないが。
 咲夜はきょとんとした顔で二人を見ながら、何か誤解を招いているようだとなんとなく気付いた。

 「あのお嬢様……何をどう思ったのか分かりませんが、とにかく子供が出来てしまったので、このメイドに暫くの暇を与えてもよろしいでしょうか?」
 「だから子作りとか、そういう既成事実云々はダメって……って、え? メイド??」

 パチュリーと取っ組み合い……というか、パチュリーのギプスを無理矢理外しながら抱き締めて、その首筋にじゃれるように甘噛みをしていたレミリアは、咲夜の言葉に一旦動きを止めた。
 パチュリーは全力で嫌がっているが、どう見てもイチャイチャしている風にしか見えない。
 どうやらこの二人にとって『ケンカ』と『イチャイチャ』は同義らしい。

 レミリアは冷静になって周囲を見る。
 咲夜の後ろには、門番隊の隊員とメイドが互いに抱き合い体を縮め込ませてガタガタと震えていた。
 多分、カリスマが恐ろしかったのだろう。ブレイク的な意味で。

 「あぁ、なるほどね。てっきり咲夜に子供がデキたのかと思って慌てちゃったよ」
 「はぁ!?」

 パチュリーを抱きすくめて首筋をペロペロと舐めながら話すレミリア。
 咲夜はレミリアの言動に「何言ってんだこのカリスマ!?」と、信じられないような声を発し、レミリアの腕の中のパチュリーは「ちょっとレミィ、んっ、いい加減離してよ!」とジタバタ暴れている。
 残念ながら腕力でパチュリーが勝てることなんて有り得る筈がない。パチュリーは簡単に押さえ付けられて、首筋を甘く吸われていた。

 「はむはむ。ゴメンゴメン。ちょっとタイムリーだったから」
 「っ! き、牙立てないでっ……よぉ、っ、んっ、バカっ、はなし……!」
 「あむあむ。つまりは産休が欲しいってことだよね?」
 「くっ、ぅ……んっ、んっ……もっ、いい加減にしなさいっ!」
 「ぅあぢっ!?」

 調子に乗って動脈の上を牙で軽くなぞっていたレミリアに、とうとう怒ったパチュリーが一点集中型プチロイヤルフレアを喰らわす(説明しよう! 一点集中型プチロイヤルフレアとは、日符「ロイヤルフレア」をレミリア撃退用に改良した、ある意味愛が篭りまくっている技である。魔力を全体に拡散させずに一点に集中させることで体力アンド魔力の消費を大幅に軽減させ、環境破壊も最小限に抑え、しかしレミリアにのみ大ダメージを与えられるという大変幻想郷に優しいエコな魔法なのである)。
 レミリアは再びぶっ飛んで壁にぶち当たり綺麗にバウンド。そのまま「あちちちちっ!!」と床を転がって全身に燃え移った火の消化を行う。
 炎が消えると、そこには黒焦げになって頭はチリチリパンチパーマとなったカリスマがいた。

 「えふっ、げふっ……。まぁ、とにかく、いいわよ。好きにしなさい。美鈴からも意地悪するなって頼まれてるし、何より家族が増えることは良いコトだもの」

 そんなカリスマは玉座に座り直し――どうでもいいが、パンチパーマーでガングロになったカリスマほど玉座に不釣合いなカリスマはいない――咳込みつつも、咲夜の後ろで未だ震えている二人に言った。
 パチュリーは少し離れたところに立って、レミリアに物凄く冷たい眼差しを送っている。結構ご立腹らしい。

 「は、はいっ!」
 「ありがとうございます!」

 きっと相応の覚悟を持って此処へと来た二人。
 出鼻から挫かれまくってどんな風にこのカリスマ達と接せればよいのか分からなくなっている筈だし、何を間違えたのか主人はガングロパンチパーマーになっていてもうどうすれば良いのか分からなくなっている筈だが、そこはやはり瀟洒なメイド長の元で働くメイドと、普段はアレだけどいざという時は頼りになる隊長の下で働く門番隊隊員。
 二人は瞬時に居住まいを正すと、背筋を伸ばして深く頭を下げた。

 「お前が父親?」
 「は、はいっ!」

 門番隊隊員が頭を上げ、返事をする。
 若い妖怪だったが、なかなか精悍な顔付きをしていて真っ直ぐな眼差しをしている。
 レミリアは唇の片端を上げた。

 「妻と生まれてくる子供を守れるのは、お前だけだよ。しっかりやりなさい」
 「はっ! 必ず!!」

 隊員は力強く頷き、再び深く頭を下げた。

 「お前も、元気な赤ちゃんを産みなさい」
 「はい!」

 メイドは緊張のあまりか声が裏返ってしまい、恥ずかしそうな顔をして俯くように頭を下げる。
 そうして二人はもう一度声を揃えて主に「ありがとうございます」と言い、嬉しそうに顔を上げた。

 「でも、隊長が……」
 「詳しくは言わなかったよ? ただ、『少ししたら部下が行くと思うので、苛めないで下さいね』って」

 隊員はレミリアの言葉に自分の上司のお節介さ加減に苦笑して、でも優しすぎる笑顔を想って困ったように笑った。
 メイドの方も、苦笑というか照れ笑いみたいな顔で恋人と目を合わせた。

 「……そういえば、二人はもう式は挙げたの?」
 「式? 結婚式ですか?」

 パチュリーがふと問うた言葉に、何故だか咲夜が反応する。
 「それ以外何があるのよ?」と返されて、咲夜は「そ、そうですよね。あはは……」なんて、わざとらしく笑った。
 ちょっと頬を赤らめている辺り、何か想像でもしたのだろう。
 メイドはパチュリーの問いに首を横に振っていた。

 「ふむ。じゃあ挙げましょうか。いっそ盛大に」
 「えぇっ!?」
 「そ、そんな! め、めめ、滅相も!!」

 軽いノリで提案するレミリア。
 隊員は目を見開いて声を上げ、メイドの方はわたわたと手をバタバタさせる。

 「あら、イヤなの?」
 「ま、まさか! あっ、じゃなくてですね! お、お、恐れ多いですし……!!」
 「私が祝いたいと言っているのに?」
 「で、ですが一従者にそんな……」

 何故だか頑なに断る二人に、レミリアは小首を傾げる。
 主にそんなことを言われたら、誰だって恐縮するだろう。

 「そ、それにわざわざ館の皆までに知られるような真似というか、その……恥ずかしいですし……」
 「それは無理だね。さっき扉の外に妖精メイドがいたから」

 ね、咲夜?

 と、いたずらっ子のような顔で同意を求めてくるレミリアに、咲夜は「はい」とにっこりと笑った。
 そんな主と上司にメイドと隊員は「!!?」という驚愕の表情を向けたが、文句を言ったところで何も変わらないし、というか、口答えなんて出来るわけがない。
 隊員は顔を片手で覆って溜息を吐き、メイドはそんな恋人を苦笑しながら励ました。

 「だから挙げちゃおうよ」
 「レミィは退屈凌ぎをしたいだけでしょ」

 しきりに式を挙げる事を進めるレミリアに、パチュリーは呆れた声音で言って持っていた本を開いた。

 (結婚か……)

 暫しの間、弾んだ声や照れたような声、レミリアの意地の悪い言葉が飛び交っていたが、咲夜の心此処にあらずといった風だった。


コメントは最後のページに表示されます。