Coolier - 新生・東方創想話

系外付喪神

2026/06/06 22:48:27
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ある乗組員の手記

 この文明の旅路は間もなく終わるのだろう。残念ながら道半ばにして、だが。今日、最後のエンジンが故障した。
 無論慣性により船は航行を続ける。上手く恒星の重力圏につかまる可能性も残されてはいる。が、そうなるまでのどんなに短くても数十年の間に私は死ぬ。エンジンは生命維持装置の電源も兼ねていた。それに、餓死は避けられない。今まで飢え死にせずに済んでいたのは籤引きと内紛の結果生まれた同胞の死体を食料にできていたからだ。死体を機械に投げ入れること以外に食べ物を得る方法を私は知らない。
 最後に残ったのがエンジニアだったならば、と思わずにはいられない。エンジニアであれば故障箇所の修理はできただろう。一人では手に負えないにしてもロボットを再稼働させることだってできたに違いない。
 とはいえ、仮にエンジニアが一人残されたとして、その人は星図を読めないことか、あるいは適切な軌道条件の計算ができないことに絶望したに違いない。結局、最後一人だけになるような時点で詰んでいたのだ。
 元々我が種族、我が母星の命の最晩年において、その命を無理やり延長せんとするカンフル剤(注釈:原文を音韻に従い直訳すると「ナボフェレイネド」。種族と薬品名の医学的機能の対応を優先させた意訳を行なっている)のようなものだった。成功率もせいぜい一厘といったところだっただろう。これが物語ならば針の穴を通すが如く成功するのだろうが、現実は確率通りに進んだ。
 悔いはある。悔いはあるが、悔しさが原動力となるような若さを私はもう持ってはいない。老いた者の悔恨とは諦念である。壊れた機械はせめて煤を拭き取り感謝の一つを述べるという文化がエンジニアにはあったらしいが、それをする気力もなく、壊れたままに放っておいている。
 子供の頃、コップを割ってしまって親からひどく怒られたことがあった。今から思えば、生まれてついての船育ちという環境において水も貴重品であったということの方が本題なのだろうが、そのときはどういうわけか、コップという道具を粗末に扱ったことの咎を滔々と説かれた。
 私は何一つ成長しなかったのだろう。また道具を粗末にしている。道具にも魂が宿っているという。エンジンや装置の魂は私を恨んでいるのだろうか。
 その恨みが何かの原動力になってくれれば……。これもまたエゴか。彼女ら(訳注:執筆者の言語においては機械を女性名詞で呼称することがあるようだ)も老いている。


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