「死ぬってどういうことなの?」
雪球人の子供が親に聞いた。
「循環器と思考をする臓器の両方が機能を停止することだよ」
昔、この星が恒星の周りを公転するごくありふれた惑星だった時代ならば、地球における天国に相当する概念が説明に使われただろう。だが終わりの見えない旅路の中でそうした情緒は失われて乾燥した正しさだけが残った。
「ママは死ぬの?」
「死ぬよ」
「死んだらどうなるの?」
「お肉になるの。そのために死ぬんだから」
「死んだ後も会える?」
「お肉としてね」
「そうじゃないよ。僕は話したいの」
「そりゃあ無理だよ」
「じゃあ死ぬのは駄目じゃん」
「でも誰かが死なないと他の人が生き残れない。病気や罪人から肉にしていくのだけれども、そうした人がいなくなった、でも食べ物はない、そうしたときにどうするべきかが大事なんだ。殺し合いは文明人のやることじゃない。だから大人が籤を引いて死ぬ人を決める。ママはね、そうして籤引きに当たったんだ」
「なんでママが当たるの!!」
「単なる偶然だよ。籤は平等だ。文句は言えないし、ママは満足してるよ」
「そう、ママは納得してるんだ……じゃあさ、もう一個聞いていい?」
「なんだい?」
「ママは、そういう世界なのに、どうして僕を産んだの? どうせみんな肉になって死んでいく世界で。僕、『肉にしてください』なんて一度も頼んだことはないよね?」
この時代、こうした会話はどこでもありふれていた。そして、大体は、子供の「どうして自分を産んだ」という問いに対して答えに詰まってしまうのだった。
深刻な食料問題により雪球人を食肉に加工する機械と制度が作られはしたが、その仕組みに正当性を与える倫理はまだ未完成だった。
最終的には雪球人達はあることを悟ることとなる。つまりは結局のところ「いかにして社会の中で生きるか」は「いかにして社会の中で死ぬか」ということでもあった。かつて人のために食べ物を生産する生き方をする者がいたように、人のために食べ物を生産する死に方をする。雪球人版のカンビュセスの籤は社会の原則の一つを極端に具現化したもの、それ以上でもそれ以下でもなかった。
この原則に社会が至るまでにはまだ暫くの期間、籤制度すらも人口不足で維持できなくなりつつあった文明の最末期まで待たねばならなかったが。
***
「何!?」
レミリアは驚き、投槍で目の前で金切り声を上げているディスプレイを攻撃した。今は一人だから王としてのカリスマなどという虚勢を張る必要もない。純粋な咄嗟の生存本能としての攻撃である。
が、槍はディスプレイに傷一つ負わせることはなかった。扉を明らかに防ぐように配置されているそれは存外頑丈らしい。
「々+*:〆¥・々〒……。>+=#」÷」
ディスプレイは先ほどよりは落ち着いた音を出して、七色に光る円が画面内を動き回る映像を出した。
「???」
レミリアは意図が分からないまま、一応それを目で追った。稀に円は紫色のときに姿を消して、少ししたのち少し離れた場所で赤色で復活する。
「動物実験されてるようで気分が悪いわね」
「×¥=%。〒*」
「お嬢様!! ご無事ですか?」
再びの落ち着いた電子音からの映像切り替わりのタイミングで四人が追いついた。
「おかげさまでね。貴方達が来るのが遅いものだからつまらない映像を見せられたわよ」
「私達が遅いんじゃなくてあんたが先走りすぎたの……。つまらない映像ってこれ? 綺麗ではあるけど。星?」
「ああ違う。前はもっと単純なカラフルな円が一個画面内を飛び回るだけの……」
また映像が切り替わった。棒が一本表示されているところから始まり、五秒くらい経ってから二本に増え、また五秒経つと一本に戻り、更に五秒経つとゼロになる。
「あ、外れだ。なにこれ? 二本に一本外れの映像が出てくる籤引き?」
「棒が増えたり減ったりするだけですもんねえ。妖精メイドにお遊戯させたってもうちょっとまともな劇を見せてきますわ」
映像の質にやいのやいの文句を言っていると、画面左半分に棒が二本、右半分に三本あって間に何らかの記号が一個あるという状態で映像が停止した。
「何がしたいの……?」
「足止めじゃない? 吸血鬼さん、貴方の怪力で突破できないの?」
「一度試したわよ。無傷。悔しいことにね」
「じゃあメイドさんが無敵の時止め能力で」
「こういう状況には対応してません……。というより、これは計算問題ではないかしら」
「あー。でも真ん中の記号が数学記号として、加減乗除のどれかとかはたまた別なのかとか分からなくない?」
「一問目は流石に足し算じゃないです? 特に今回これが引き算や割り算だと答えが負の数や循環少数になりますから、そういう捻ったことを最初にしてくるとも考えにくい」
「じゃあ、五」
少し間を置いて、映像が切り替わった。とはいえ棒の本数が少し違うだけでさっきとほぼ同じだが。
「これも答えたらいいのかしら」
そして十数問こういうやり取りが続いた。解答というアクションがあるとはいえ退屈だ。レミリアなどは「あたしゃ寺子屋の一年生か!!」と露骨に苛立っている。
また映像が切り替わり、今度はなんとも形容しがたい、強いて言えば球状の異形の怪物みたいなのが映し出された。
「何!?」
と思えば人型、というかほぼ鏡写しの自分達の姿が表示されたりもする。
「私達じゃん」
算数の問題を出したり自分達の映像を出したり、映像には何らかの意味、それも自分達を試すという意図がある。ここまでは五人も置かれた状況から理解していた。ただ、試して何をしたいのかというのは分からなかった。
そしてその答えは永遠に続くと思われた映像テストが突然終わると共にディスプレイ側から示された。
「ハイ、違ウ星ノ私達」
***
今までの会話記録から不完全ながら学習した日本語に、ディスプレイは言語を切り替えた。画面は青色の肌を持った直立歩行するタコ型の生命体の画像になっている。
「貴方は?」
「私、々%÷・%→。付喪神。貴方達、付喪神」
「この二人は違うけどね」
雷鼓はレミリアと咲夜をスティックで指した。
「付喪神ト、付喪神違ウノト。私達、同ジ」
「同じ、というのは私達と貴方の種族が同じってこと?」
「イヤ。私達ニモ付喪神違ウノガ」
「うん……? ああ、道具だから使い手が別にいると」
ここは咲夜が意図を読み取った。
「ソウ。イル……。イタ」
「いた、つまり今はいない?」
「・<〆|+: :REPLACED: