Coolier - 新生・東方創想話

東方流重縁~forgotten wanderer~ 第三話 環境破壊は蜜の味

2025/01/12 09:28:52
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それから私たちは夜になるまで河童たちのアジトで待った。アジトの中では、切り倒した木をせっせと木材に加工していた。さすがに木をまるまる一本持っていくわけにはいかないということで、河童たちの技術力を使って持ち運びやすいようにしているそうだ。
ざわめく木々の中、私たちはにとりさんと共に指定場所を訪れていた。
「よし、置くぞ…」
にとりさんが持ってきた木材を指定の場所に置く。
「言っておくが、私の役割はここまでだ。囚われた同胞の姿を見て、冷静に行動できる自信がないからね」
そう言ってにとりさんはさっさと帰ってしまった。というのも、今回の作戦は、この材木を回収する者がいるはずなので、そこを叩こうというものだった。もしかしたら人質を連れているかもしれないし、あるいは受け子のような者を用意して、人質たちを捕らえている別の場所まで運ばせているのかもしれない。後者の場合でも対応できるように、私たちはにとりさんから光学迷彩スーツを借りていた。つまり、後者なら尾行してやろうということである。
「しっ…誰か来た」
霊夢さんが小声で私を制する。ごくりと息を吞む。あれは――
「河童…!?」
河童が二人、置かれた材木をいそいそと拾い始めた。昼、にとりさんが見せてくれた写真に写っていた顔だ。にとりさんから借りた暗視スコープで、夜でもはっきりと顔が見える。
「何か、様子がおかしいわね」
霊夢さんに言われて、目を凝らして彼女たちの表情を伺う。彼女たちの表情には生気が無く、動きもなんだかのろのろしている。まるで、何かに操られているように。
「プランBで行くわよ」
「尾行、ですね」
河童たちが、材木を拾い終わった。そのままゆっくりと、どこかへ去っていこうとする。
私たちは、その後を、音を立てないようにゆっくりと追っていった。
数十分後、私たちは樹海のただなかにいた。夜の樹海。得体の知れない不気味さを感じる。一度入った者を逃がさない、天然の牢獄。そんなことを感じた。前を行く河童たちの足が不意に止まる。そこにあったのは、樹海には不釣り合いな、木でできた小屋だった。河童たちはその小屋の扉を開け、中に入ろうとする。
「急ぐわよ、かさね!扉が閉じる前に、あの小屋の中に入るのよ!」
そういって霊夢さんは足を僅かに地面から浮かせ、超低空飛行で猛然と扉に向かって突っ込んでいく。なるほど、これなら足音は立たない。私もそれにならい、何とか扉が閉まり切る前に、小屋の中へ侵入することに成功した。小屋の中に入り、先ず目に飛び込んできたのは、小さな部屋の中に納まりきらない程の、巨大な獣の姿だった。奇妙なことに、顔は人のようであった。人間の目、人間の鼻、人間の耳。しかし、身体は犬そのもので、黒々とした体毛がびっしりと生えており、その全てが逆立っている。鋭い爪に、たくましい胴体。敢えて犬との違いを挙げるとすれば、尻尾が見当たらない事だろう。そんな人面犬は河童たちが持ってきた木をバリバリとほおばっている。その木をほおばるたびに、少しずつ体が大きくなり、放つ威圧感が増している。木を、まるで餌のように取り込んでいるのか。そのわきには、先ほど見た河童と同じように、生気を失った河童が縄で縛られている。先ほど木を運んできた河童は、なんと互いに縄を結び始め、最終的に二人とも自ら囚われの身になってしまった。すると、巨大な人面犬がクンクンと当たりを嗅ぎ始めた。
「どうやら…侵入者がいるようだなぁ~。どれ、一つ。分からせてやるッ!」
そういうなり、姿が見えないはずの私の方に一瞬で飛び掛かって来た。ぞくり、と背中に冷たい汗が伝う。これは、スペルカードルールではない。本気で、私を、殺しに来ている――!
思わず目をつむる。しかし、振り上げられた腕が、私を捕らえることはなかった。
「随分なご挨拶ね」
バァンと大きな音。私が目を開けると、目の前で光学迷彩スーツを脱ぎ捨てた霊夢さんが、お祓い棒で人面犬の腕を受け止めていた。
「なんだぁお前は。この俺様の一撃を受け止めるとは」
「博麗の巫女よ。あんたを退治しに来た」
「お前が博麗の巫女とやらか。面白れぇ。やれるもんならやってみやがれ。但し…ここにいる奴らがどうなってもいいならなあ!」
そう言って人面犬はギラリと爪をきらめかせ、人質河童たちの方に向けた。
「…いいわよ。河童たちが何人死のうと、私には関係のないこと」
霊夢さんは冷酷にそう言い放つ。
「はったりだな。それならさっさと攻撃すればいいじゃねぇか」
「…低級妖怪は、やる事もせこいわね。ねぇ、彭侯」
ホウコウ?それがこの妖怪の名前なのか。
「何だと…」
「千年樹に宿る精霊。せいぜいが人間に食われた話しかない妖怪の中でも最下級の存在。やまびことも同一視されるわね。あなたも命蓮寺のあいつみたいにお経の一つでも読めば、その腐った性根も治るかもね」
「――言わせておけばぁ!俺様が低級かどうか、その身で味わうといい!」
そう言って、彭侯は霊夢さんに向かって思い切り腕を振り下ろす。それを霊夢さんはお祓い棒で受け止める。その攻防が続く中で、突如として、霊夢さんを予期せぬ方向からの弾幕が襲った。
「っ!!!!」
すんでのところで霊夢さんが躱す。見ると、人質となっていたはずの河童たちが、一斉に霊夢さんを攻撃しているではないか。
「どうだぁ!天狗の霊木、そして天狗自身を喰らった俺様にはこんなこともできるのさぁ!他人に種を植え付けて操るということが!」
「天狗の妖力を取り込んで、格を上げたというの…!」
「その通り。俺様の命令一つで、こいつらはドカンさ。これでもまだ抵抗するかぁ?」
「っ…!」
霊夢さんが動きを止める。そして、まだ姿を現していないこちらをちらりと見る。目の合図。私が人質河童たちを救えということだ――!
「それじゃあ、終いだぁ!」
彭侯が叫び声をあげて、霊夢さんに向かって突進する。その、彭侯の気が、河童たちから逸れた一瞬のスキ。
「はぁあああああ!」
光学迷彩スーツを脱ぎ捨て、河童たちの一団に飛び込む。
「夢剣『封魔陣剣』ッ!」
思い切り、地面に刀を突き立てた。刀の切っ先から広がる青い光。それが河童たちを包み込む。すると、河童たちの体から、種のようなものが浮かび上がった。青白い光を受けて砕け散る種。光が収束する。私の攻撃を受けた河童たちは、ばたばたと倒れていった。
「な、何ィィィイイイイイイイ!?」
「よくやったわ、かさね!…さあ、これでおしまいよ。――霊符『夢想封印』!」
霊夢さんが浮き上がり、七色の光弾を彭侯に次々ぶつけて行く。
「バカな…バカなぁああああ!」
彭侯の断末魔の叫び。最後の光弾が彭侯にぶつかり、はじけ飛んだ瞬間、彭侯の姿はどこにもなかった。霊夢さんがゆっくりと床に足をつける。分かっていたが、霊夢さんは容赦がない。今回は弾幕ごっこではなく、本当の妖怪退治だった。スペルカードルールがあろうとも。どれだけ呑気に見えても。霊夢さんはやはり、妖怪の退治者、博麗の巫女なのだ。
「さ、帰りましょう。この河童たちもほっとけばそのうち帰るでしょう」
「それでいいんですか…?」
「いいのよ。終わった事だけにとりと椛に報告しましょ」
そういって霊夢さんは腕をぐいと上げて伸びの運動をしたあと、扉から出て行った。

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