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東方流重縁~forgotten wanderer~ 第三話 環境破壊は蜜の味

2025/01/12 09:28:52
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翌日。私、霊夢さん、そして椛さんは再び妖怪の山を訪れていた。
「ひゃー、すごいですね」
目の前には絶壁の渓谷。数十メートルはあろうかという岩壁の真ん中を水がごうごうと下り落ちる。玄武の沢、と呼ばれる場所らしい。
「あれ、沢に人が…?」
「あれは河童よ。…ちょうどいいわね。いたわ」
そういうと霊夢さんはいきなり、人影に向かって陰陽玉を放った。
「ちょ、ちょっと何してるんですか霊夢さん!?」
「これでいいのよ。…ほら来た」
こっちにまっすぐ向かってくる影。
「やいやいやい、いきなり弾幕を撃つなんてひどいじゃないか!」
ビシと人差し指を霊夢さんに突き付けた少女は、緑の帽子を被った青い髪のツーサイドアップで、背中に巨大なリュックを背負っている。青い上着とスカートを身に着けていて、清涼感がある。大きな目と丸い顔は非常に愛嬌がある様子だ。
「とぼけても無駄よ。天狗倒しの主犯格」
「な…」
いきなり主犯格と呼ばれた少女は愕然とした顔を見せる。
「あんた、普段胸元に身に着けている鍵はどうしたの」
「そそそそそんなこと、お前には関係ないだろ!」
「これ、なーんだ?」
霊夢さんがこれ見よがしの鍵をひらひらとさせる。
「あっ…」
少女の目が驚きでさらに見開かれる。
「さて、全部しゃべってもらうわよ。何が目的なのかをね」
「う、う、う」
滝のような汗を流す少女。しかし。
「うるさ~い!そんな鍵、見たことも聞いたことも身につけたこともないね!この河城にとり様に冤罪を吹っ掛けるとどうなるか、お、お、思い知らせてやる!」
「あら、まだ抵抗する気なのね。いいわ、そっちがその気なら弾幕ごっこでケリをつけてあげる。…かさねがね」
「…私ですか!?」
いきなり霊夢さんに対戦相手に指名され、びくっとする。
「ちょうどいい相手よ。たまには私と魔理沙以外とも戦いたいでしょ?練習だと思って頑張りなさい」
「なんでもいいけど、私が勝ったら金輪際この事件に関わらないでもらおうか!」
「…殆ど犯人だと認めているでありますな」
はぁと椛さんがため息をつく。
「分かりました。受けて立ちましょう!天狗の皆さんの領域を荒らしたことを、後悔させてやります!」
そして、弾幕ごっこが始まった。
「水符『河童のポロロッカ』!」
千手を取ったのはにとりと名乗った少女だった。無数の弾幕が、私めがけて流れ落ちる。
大丈夫。霊夢さん、魔理沙さんとの特訓を思い出せ。弾の隙間をぬって避けるんだ。そして、神経を研ぎ澄まして、弾幕の「流れ」を読み取る。そうすれば、当たる事はない――!
「星剣『ホライズンスウィング』!」
適度に接近してから、思い切り刀を振り抜く。振った刀の軌跡から、星型の弾幕が大量にばらまかれる。
「くっ…!」
命中した!
「『半跏趺斬』!」
返す刀で振り抜き、飛ぶ斬撃をお見舞いする。
「やったな…!河童『お化けキューカンバー』!」
鋭い光線が、私のすぐ横を掠める。違ったタイプの弾幕だ。危なかった。あと少しでも横にずれていたら、あえなく被弾していただろう。
「はぁっ!」
反撃の光弾。命中しているものの、大技でもないのでそこまでダメージは無い。勝負を決めるには、やはりスペルカードでなければ!
「ああ、もう!何者なんだ、お前!霊夢とつるんでる奴にお前みたいなのがいるなんて知らなかったぞ!」
にとりは焦って弾幕を連発する。その焦りによるわずかな隙をついて、一瞬で相手の懐に潜り込む。そして。
「不可智剣『鬼女返し』!」
二連の剣閃。
「うわあっ!」
たまらず落下するにとり。ぼしゃーんと大きな水音。
「はあはあ…か、勝った…!」
思わずへなへなと座り込もうとして、ここが空中であることに気が付き、慌てて浮き上がる姿勢を取る。刀もまともに握っていられないほど力が安堵で抜けている。そして、遅れてやってくる高揚感。勝ったんだ。私、弾幕ごっこに勝てたんだ。
「よくやったわ、かさね。危なげない勝利じゃない」
「いや、ギリギリですよ…ほんとに…」
そんなことを話していると、先ほど墜落したにとりが、再びこちらにやって来た。
「どうやら、まだやられ足りないらしいわね。今度は私が相手してあげるわ。跡形も無く退治してあげる」
「わあ!待った待った!負け負け、私の負けだ!全部話すよ!」
両手をぶんぶんと振り、霊夢さんの攻撃を制止するにとり。そのまま慌てて話し始めた。
「確かに天狗の領域の木を切り倒していたのは我々河童さ!光学迷彩スーツと音の出ないチェーンソーを使って、夜に紛れて切り倒していたんだ」
「こ、光学迷彩?音の出ないチェーンソー?」
「こいつら、技術だけは一級品なのよ」
なんだか意外だ。幻想郷にもテクノロジックな集団がいたのか。
「けど、これには事情があるんだ」
「事情?」
「仲間が、人質に取られている…」
そう言ってにとりは、一枚の写真を見せた。そこには、縛り上げられた十数人の河童たちがいた。
「天狗の領域の木を切り倒して、指定の場所に置かないと、仲間たちを、こ、こ、殺すって…!」
にとり、さんが声を震わせる。何ということだ。こんな卑劣なこと、一体誰が。
「…自分とにとりは友人でありまして。事情は全て知っていたのであります」
唐突に椛さんが口を開いた。
「もし、事が露見すればにとりたちを捕らえなければなりません。そうして木を運ぶ者がいなくなれば、河童たちは…殺される!」
「だから、わざと見逃していたって訳ね」
「…そうであります。あなたたちの案内を買って出たのも、にとりたちに辿り着かせないためでありました」
やはり、椛さんはわざと犯人を見逃していたのだ。昨日感じた違和感は、これで解消された。
「…にとりに肩入れしたのは、もう一つ理由があるであります。」
「もう一つ?」
「この人質たちの写真。撮り方が、行方不明になった我々の同僚の撮り方に似ているのであります」
「てことは…やっぱり黒幕じゃない!」
霊夢さんが声を張り上げる。
「…まだ、そう決まったわけでは。しかし、そうも考えられる。その迷いが、どうしても犯人を捕らえる覚悟を鈍らせたのであります」
「やれやれ、とんだ天狗がいたものだわ。ここからは、誰が相手だろうと容赦しないわ」
「…事は全て露見したでありますからな。致し方ないであります」
そうして椛さんは天を見上げた。後はこちらに任せるという意だろうか。
「それじゃあにとり、私たちに協力してもらうわよ。木を置く指定の場所に連れて行きなさい」
「…指定の時間は夜さ。今日は私が木を持っていくことになっている。時間が来たら、連れて行ってやるよ」

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