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東方流重縁~forgotten wanderer~ 第三話 環境破壊は蜜の味

2025/01/12 09:28:52
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途中で文さんと別れて、私たちは哨戒部隊の天狗がいるという場所にたどり着いた。
「どうせなら全部案内してくれればいいのに、なんか怪しいのよね」と途中霊夢さんがぼやいていたが、そんなことを思わなかった私はお人よしに過ぎるのだろか。
「何者だ!」
びくり、と思わず体と震わせる。木の隙間からぞろぞろと人影が出てきた。皆一様に刀を構え、こちらに向けている。彼女らは頭に文さんと同じ山伏がつけるような帽子をかぶっており、その横からは獣の耳がぴょこんと生えている。文さんとは別の種類の天狗なのだろうか。
「白狼天狗ね。随分な挨拶じゃない」
霊夢さんの姿を確認した白狼天狗たちは一瞬ひるんだようにお互い顔を見合わせる。すると、私たちを取り囲んだ白狼天狗たちの後ろから、さらに一人の天狗が姿を現した。容姿は他の白狼天狗とそこまで変わらない。片方には剣、片方には紅葉の模様が描かれた盾を持っている。銀髪のショートヘアで、鋭い切れ長の目は、私たちよりもどこか遠くを見つめているようにも見える。
「博麗の巫女に、見ない顔。一体我々の領域に何の用でありますか?」
どうやらこの天狗がリーダー格のようだ。鋭い声で私たちを問いただす。
「あ、あの、私たち、天狗倒し事件を調べに来たんです。文さんに言われて」
「文に…」
文さんの名前を聞いた天狗は、一瞬、苦々しい顔をした後、すぐに元の冷静な顔を取り戻してこちらに向き直る。
「そういうことなら、協力せざるを得ませんな。全く、あなた方もご苦労な事でありますな。あの鴉天狗に振り回されて」
おい、とリーダー格の天狗が他の白狼天狗に指示を出すと、白狼天狗たちは刀を下し、どこかへと去っていった。
「改めて。哨戒部隊隊長の犬走椛であります。まずは、実際に切り倒された木をご覧に入れる」
くいっと首を動かした後、椛さんは歩き出した。ついてこいという事だろうか。
「やれやれ、ついて行かなきゃダメなの?」
不平を言う霊夢さんを伴って、椛さんの後についていく。
数分後、私たちは大きな切株の前に立っていた。
「これが、つい先日切り倒された木であります」
「この前の嵐でってことは…なさそうね。断面が綺麗すぎる」
「斧なり機械なり弾幕なり。人の手で切られたと考える方が自然でありますな」
確かに、切株は余す所なく整えられた形になっており、とても自然に発生したものではないことが伺える。そこまで考えて、一つあることに思い至った。
「あれ?切り倒された部分の木はどこに…?」
「それが、見当たらないのであります。恐らく切り倒した犯人が持ち去っているのではないかと」
椛さんが不思議そうな顔を浮かべながら答える。
「つまり、犯人の目的は木を持ち去ることだということでしょうか。一体何のために…」
「さあ、そんなことを考えてもどうしようもないでしょ。さっさと張り込みでもなんでもしてとっつかまえればいいわ」
霊夢さんが口を開く。確かに、犯人の目的を考えても、幻想郷に詳しくない私では思い当たるふしはない。
「張り込み、でありますか。それなら我々も協力するであります。事件は夜に起こる。人の身のあなた方では、満足に行動できないでしょうから」
どうやら椛さんたちも協力してくれるらしい。
「切り倒された木々は、天狗の領域の中でも特に妖力の濃い場所。今後切り倒される木にもいくつか目星は立てているであります」
「ふーん、なかなかやるじゃない。やっぱり天狗だけで解決できるんじゃないの?ま、脅されている以上やるしかないんだけど」
霊夢さんがやれやれと首を振る。
「ちなみに、他に何か変わったことは無いんですか?事件発生前後で」
私は椛さんに再び尋ねる。目的から犯人を検索することはできなくても、何か少しでも手がかりがあれば、実際に張り込みをするときに役に立つかもしれない。
「そういえば、事件が発生しはじめたのはあの酷い嵐の後からでしたな。天狗にも一人行方不明者が出た、あの嵐の」
「案外その天狗が黒幕なんじゃないの?」
霊夢さんが横から口をはさむ。
「まさか。写真を撮るのが趣味だった、しがない我々の同僚でありますから」
「それは…何というか…」
「…まぁ、哨戒部隊ならそういうこともありましょう。嵐だろうと何だろうと、任務はあるのであります」
そう言って椛さんは少し悲しげな顔をした。仲間を喪う。その辛さは、どこかで私も――。
「――っ」
頭痛。何か思い出せそうだと、決まってこれだ。
「かさね?」
霊夢さんが心配そうにのぞき込む
「――いえ、大丈夫です。椛さん。張り込みは今日の夜から早速?」
「ええ。近くに我々の待機所がある。そこで夜まで休むであります」
そうして私たちは、夜まで待機することになったのだった。

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