おまけ2
――鈴菜庵
定期的な見廻り兼、Qの新刊チェック兼、小鈴とのおしゃべりにやってくる巫女は、今日も愛らしい古書店の仮店主のやや熱烈な歓迎を受けていた。
「そろそろ新刊の刷りができそうですよ、霊夢さん」
「あらそれは嬉しいわね! Qに、励ましを伝えておいて頂戴ね。前作の推理も結局最後まで解らなかったわ……なんとなく、掴めそうなんだけどなあ……」
「ふふふ、確かに伝えておきます……あ、ところで霊夢さん」
「ん?」
「あの……えっと……」
可愛らしい子が上目遣いに此方をもじもじと見上げる。
それだけでも随分と破壊力のある行為だ。
小鈴の無邪気な仕草についつい髪を撫でたくなるのはしかたない。
ついでに甘い声になってしまうのも。
「……どうしたの?」
「もう、とぼけちゃってぇ……あんなことできるの、霊夢さんしかいないですもん」
「?」
はて、なにかこの子の顔を照れさせるようなことをしたかしらん。
頭を撫でつつ記憶を辿るがそもそも鈴菜庵に来るのは久しぶりだ。
答えを探るうち、焦れた小鈴が解を教えてくれる。
「ほらぁ、私が本棚の上をハタキ掃除してたらコケそうになったのを、助けてくれたじゃないですかあ。私、お礼がしたくって……」
「……え、私そんなことしてないわよ」
「えー? トボけちゃってぇ……あっ! コケる! こんな高台で! ……って思ったすぐ次の瞬間にバランスを戻していたんですよ? あんな、目にも止まらぬ早業、霊夢さんしかできる人を知りませんもん」
「ふむ……」
ホントに心当たりが……あった。
あれから咲夜と時の止まった間のことを雑談交じりに聞いていた。
彼女が鈴菜庵で、随分世話になったということも。
「あー、それは……」
「失礼致しますわ」
「あ、いらっしゃいませー」
おや、検討付けた相手がやってきたようだ。
霊夢は小鈴と共に来客、紅魔館の瀟洒な従者長を出迎えた。
「あら霊夢、貴女もいたの」
「私は一応ここの常連だからね」
「一応は余計ですよ、霊夢さんっ」
そんなやりとりを咲夜は微笑みながら聞き、それから小鈴の元へやって来て……(彼女にしては酷く珍しく)少しだけ恥ずかしそうに、可愛い包装の成されたレターセットを取り出した。
「あの……お礼を申し上げに参りました。それから、お願いを」
「へ? 私に……ですか?」
「はい、貴女に」
十六夜咲夜、
普段、レミリアからの手紙のやりとりに訪れるので、彼女のことは知っている。
とても綺麗で、しかし近付きがたい雰囲気の女(ひと)
小鈴の印象は概ねそんな感じだった。
だが、今の彼女の雰囲気はなんというか……とても柔らかい感じ。
まるで別人のようだ。
差し出された可愛らしい包装袋を受け取って「わあ……」と目を輝かせる。しかし、
「あ、あの……心当たりも無いのにこんなステキなものを受け取るわけにはいかないです」
そう言って、それを返そうとするが、咲夜は小さく首を振って「貸本の代金ですわ」とだけ応える。
「あれ……本をお貸ししましたっけ? 台帳にあったかな……」
「小鈴ちゃん、受け取っておきなさいよ。貴女を助けたの。多分咲夜よ」
「えっ」
メイド長は否定も肯定もせず、微笑んでいる。
「貸本の報酬がどんなものか解りかねましたので……このようなものでお礼しか出来ませんが。ともあれ盗み見てしまったことを謝罪いたします」
「え、えー? いつのまに……あれ? いつのまにか助かってた……あ、そっかー、そういうことですね、霊夢さん」
「そうそう。彼女は速いのよ」
咲夜はいよいよにっこり微笑む。
そして――
「つきましてはあの、小鈴……さん? 私に、貴女のお勧めの本を教えて頂きたいのですが……」
そう、すこしだけ恥ずかしげに伺ってきた。
小鈴は目を輝かせ、
「はい! それはもうお任せ下さい!」
そう応えるのだった。
鈴菜庵の常連が、また一人増えたようだった。
おわり
完璧を志しながらも徹しきれない咲夜さんがかわいらしかったです
紅魔館の家族愛は今日も健在でした
咲夜視点の心理描写に強く惹きこまれました。
愛され咲夜さん素敵。