Coolier - 新生・東方創想話

愛銀時間

2024/08/27 19:23:06
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「……で、私が呼ばれたと」
「そうなの、どうにかできないかしら」

ヴワル大図書館に戻ってきたレミリア。
隣には恋人……いやさ、異変解決のエキスパート、博麗の巫女を連れていた。
最も甘えたい相手であり、最も頼りにしている相手でもある。
そして……不安を拭って欲しい相手でもあった。

「どうにか、ねえ……」

博麗の巫女は多くを語らない。だが、吸血幼女の手をしっかりと握っていた。
神社では泣き付いてきたクセに、図書館に帰ってきたら早速館主の顔を取り戻す。
まあ愛らしいことだと思いつつも、揶揄ったりは、しなかった――手から僅かな震えが伝わっていたから。
緊急の事象と言われ、取るものも取りあえずやってきた処に与えられた魔女からの状況説明に対し、霊夢は先ず、こう問うた。

「状況は解ったわ、で、何処にいるか解っているの?」
「……解らない」

少しだけ、悔しそうに呟く魔女に館主が混乱の顔色を隠しきれない。
門番も先程までずっと魔女と共にあったのだが、彼女が様々な施策を実行し、その度想定の結果を得られていないのを理解は出来ていた。
……魔女がはっきりと“できない”と言うのは極めて珍しいことだ。それだけで、この事象の深刻さを窺い知ることが出来た。
それだけ、紅魔館の皆は魔女の知識に信頼を寄せているのだ。

「ふうむ……生きているってことだけ解っていると?」
「そうね……首輪に鈴を付けてある。それが、動作していることだけしか解らない。あらゆる探知を試したけれど……この世界にいないのか、いるのかすら解らなくなってきたわ」

パチュリーはそこまで言ってから身体を起こし、霊夢を見やる。

「貴女なら、どうみる?」
「――貴女の言葉、そのままを信じるわ」

……霊夢もまた紅魔館の魔女の知啓を知る一人であった。
そして、魔女が自分の答えを確信へと導くために問うてきたのも直感できた。
曖昧な解を嫌う彼女らしい。
その程度には、霊夢も魔女を知っていたのだ。
霊夢は腕を組み……魔女の視線に合わせて頭を傾げる。

「私の、言葉?」
「そのままよ。この世界に居て、且つ、いないのかもね」

霊夢が視線を美鈴へと移す。

「門番、あんたさっき咲夜を見失ったのは疲れを指摘したときっていったわね?」
「ええ、まあ、はい」
「推測に過ぎないから私の当て勘を言わせて貰う。知識担当のあんたが推理しなさい……咲夜は、この世界にいて、いない。偶然にだけれど、同時に世界移行をしたのではないかしら」
「……どういう意味?」
「言ったとおりの意味よ。時間の止まった世界、咲夜が行き来できる世界と、もう一つ、咲夜が自分で潜ったワケではないもう一つの世界。それを同時に潜った」
「そんなこと――」
「できるわよ、能力発動と同時に、気絶したのではないかしら」

美鈴が、思い起こしたように言う。

「確かに、あの時咲夜さんは少しふらついていました! それ程に疲れていたようです。でも、気を失うだけで世界を超えるとか……」
「え、え、気絶が別世界に行く合図なの?」

不安げなレミリアと美鈴の問いに、霊夢は見下ろし微笑んだ。

「気絶ってことは眠ったってことでしょう? ドレミーに聞けば良いことだわ」
「――夢の世界」
「そういうこと。夢の世界と同時に時間停止の世界? 私はそっちの理屈は解らないけど、それを潜ったのではないかしら……強烈な自我の衝撃があると、夢から出られなくなることがあるらしいし、逆に、自分から夢に引き籠もることもあるという……なんでそんなことになっているのかは知らんけど」
「興味深いわ……二つの世界を同時に超えたら混じり合った……みたいな解釈なのかしらね」

魔女の導いた解に頷く霊夢。
成程……と納得する魔女と、理屈は解らないが何か良い方向に話が動いた予感に喜ぶ館主と門番。

「強烈な自我の衝撃か……美鈴、確か咲夜は……」
「ええ、何か含むところがありました」
「うん、私も気付いてはいたけど……あの子は見せようとしなかったから。そうだ、霊夢。あのカード一件のことだけど――」

レミリアの回想に、霊夢は確かにそうかも、と呟く。
咲夜はあのとき、飯綱狐を任せろと言って自分と魔理沙を先に行かせた。

「終わってから咲夜の様子がおかしい……とまでは思わなかったけど、精彩に欠けていた気はするね。それそのものがおかしかったか。ごめんね、友達のことなのに気付いてやれなくて」
「あー……いや、そんなつもりじゃないんだ。私だって気付けなかったのだし」
「それを言うなら私だって」
「……ちょっと、此処で反省会を始めるのはよしなさいよ」

尤もである。
パチュリーの指摘に霊夢が苦笑する。

「――まあ、当てずっぽうもイイトコだから、確認しましょう。夢の世界の番人に聞けば解るはずよ」
「できるの?」
「私を呼んだのは境界を渡るためでしょう? 任せなさい。寧ろ問題はあの広大な世界からどうやってアイツを探すか――」
「――その必要はありませんよ、博麗の巫女」

霊夢の言葉に反応するかのように、囁くような声が訪れる。
そして、突如空間に穴が開き、其処からナイトキャップに白と黒のケープとワンピース。衣服の飾りにボンボンが着いている、なんともユニークで可愛らしい服装をした娘が現れた。
夢の世界の管理者、ドレミー・スイートである。

「あら、そっちから来たってことはビンゴかしら」
「はい、だから何とかして欲しいのです。夢の世界が止まってしまうという、ワケの解らない事態に陥っています」

紅魔館の面々はやや身構えるが、霊夢はあっけらかんと対応した。
紫と同質の動きをするヤツだ。神出鬼没なのも不思議はない。

「……この図書館に容易く侵入できるとはね」
「いえいえ魔女さん、博麗の巫女が認識し、かつ呼んでくれたからです。私だけでは到底無理でした……ので、異変の報せもできませんで」
「貴女、咲夜のことを知っているのか?」
「可愛らしい吸血鬼さん、貴女の部下は貴女を待っていますよ。ただ……時間が停止しているという影響のせいで、私ではその夢のエリアに近づけないのです。とても迷惑しています。さっさと回収してください」

のんびりした口調ではあったが、そもそも彼女が姿を自ら晒してくること自体が緊急の事態である。霊夢はパチュリーに向けて言う。

「時間停止の世界って言ったわよね? その中に入る方法ってあるの?」
「……難しいわね……私も咲夜の能力の研究は終わっていない」
「居場所がわかったけど、助ける方法が難しいか」

霊夢が腕を組むと、ドレミーはなんでもなさそうに呟く。

「呼びかければ良いのでは? ……私の声はガン無視、おそらく時間停止で止まったのでしょう――されましたが、此処の皆様ならどうにかできるかと。まあ、それをお願いするために来たのですし」
「咲夜は見付けてあるのかい」
「ええ、まあ。近付きすぎると時間が止まってしまうので、ちょっと離れた位置からですが……まあ夢の中なのでね、場所とか位置とか舞台とかは曖昧なんですよ、夢だけに。とにかく、声の届く場所には御案内できます。皆様は夢に渡れますか?」

レミリアと美鈴が顔を見合わせるのを横に霊夢が手を上げる。

「それは私が導くわ」
「……まあ、緊急事態ですからしょうがないですね……ポンポンと、眠る以外の方法で手前勝手に侵入されては困るのですが……」
「あんたから頼みに来たんでしょうが」
「まあ、そりゃあそうですけどネ。一応体裁としてですよ」

そういうことになった。

「それじゃあ誰が行くの? 私と……」
「美鈴、お前も来るか?」
「はい!」
「三人ね」

魔女は今回の事象をまとめようと筆記用具を小悪魔に用意させている……着いてくる気はないらしい。

「では場所を解るようにしておきますので、博麗の巫女、後はお任せしますよ」
「はいはい」

ドレミーが姿を消すのを見届けたら、霊夢は虚空に手を翳して――
魔女に問う。

「ねえ、此処で穴開けていいの?」
「私が赦す。早くしてくれ、霊夢」
「……だ、そうよ」

呆れた風に答えるパチュリーを余所に吸血鬼とその衛兵は巫女の沙汰を待っている。
苦笑し、霊夢はくるりと腕を大きく回した。
……虚空に闇黒の穴が生まれる。

「行きましょう……なんかドレミーが協力的だし、見付けるのは楽そうね」

言い残してから、躊躇無くその穴の中へ。
レミリアは手を繋いだままだ。そのまま着いていき、僅かに遅れて美鈴が続くのだった。

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