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何時間が経って。
すっかりくたびれた様子のパチュリーを背負いながら、ふわふわとレミリアが夜の家路をただよっていた。
あの喧嘩は、結局レミリアの勝ちで終わった。長らく図書館から出ていなかったことが響いたのか、パチュリーの体力が寒空の中でどんどん削れていき、最後にはパチュリーのスタミナ切れ、という形で決着がついたのだ。
喧嘩の様子を見ていた霊夢は、まだしばらく休ませようか、と聞いてきたが、『私のせいで騒がせてしまったんだもの。霊夢にそこまで迷惑はかけられないわ。それにパチェも、慣れたベッドで寝た方がきっと回復も早いでしょう』と、パチュリーを背負いながらそれを固辞した。
『それで、この子、面白い子だったでしょう?』
『まぁ、良い暇つぶしにはなったわ。…アンタ、ずいぶん得意げな表情するのね』
『そりゃもう。私の自慢の友人だからね』
『そう』
『あ、もちろん霊夢も私の大切な友人よ』
『そんなついでみたいに言われてもね』
『ふふ。私としては本気なんだけどなぁ』
『はいはい…ま、また来たくなったら、いつでもいらっしゃいって、そいつにも伝えときなさい』
『あんがと。確かに伝えておくわ』
そうして霊夢に別れの挨拶を告げて、今に至る。
うーん、と、パチュリーが小さくうなる声が聞こえてきた。どうやら話が出来る程度には回復したらしい。
「大丈夫?パチェ」
「うーん…大丈夫…」
「全くもう。寒い中無理をするんだからさ」
「……聞き耳立ててた、レミィが悪い」
「ははは。だからそれについてはごめんって」
パチュリーが苦しい姿勢にならないように羽の位置を器用に調整して、さらにはなるべく冷たい風が来ないよう気を付けながら、再び羽ばたき始める。
……すると、パチュリーがぎゅっとレミリアの背中を強く抱きしめてきたことが分かった。
「レミィの背中、あたたかいわ…」
どうしようもなく気の抜けたそのことばに、レミリアはくすりと笑って、夜空を見上げる。冬とも思えないような穏やかな月が、空の紺色を少しでも明るく、明るくグラデーションに織りなしていた。
「それは良かった。綺麗な月が出ているから、それでも見ながら、館まで休んでなさい」
ん…という返事ともつかない声が耳に入り、またおかしげに微笑む。
最初は、本ばかり読んでいる彼女なら、ちょっかいをかけやすいだろう、なんて、ほんの気まぐれだった。
実際、ちょっと本を取り上げる、それだけのことに対しても反応が面白くて。怒った彼女が放つ、綺麗でバラエティのある魔弾を避けるのはとてもスリルに満ちていて、楽しくて。それでまた反応して怒る彼女を見るのが、とても愉快だった。
だからその時は、きっと彼女「自身」のことは、見ていなかったんだと思う。
だけど、いつからだろうか。それが変わって、パチュリー・ノーレッジという魔法使いの人となりが気になるようになったのは。
こう、無表情で寡黙なように見えて、本当は感情豊かなところがあって。
知識豊かでブレインとして申し分のないように見えて、実はところどころ抜けているところがあって。
芯を持った確かな強さがあるのだけど、どうしても放っておけない、そんな危なっかしいところがあって。
そんな彼女に敬意を持つようになって、そして惹かれていって。いつからか「パチェ」「レミィ」と呼び合うまでの仲になった。
――――私の自慢の友人だからね―――
帰り際、霊夢に対して得意げに自分が言ったことを思い出す。
そう。たとえ誰から何を言われようと、誰と交友を持とうと。パチェは、私にはもったいないくらいに魅力的な――私の一の友人なのだ。
正直、こんなこと、本人に打ち明けたことなかったけど…パチェの方は、今日聞いてしまったし。いつか、自分も話してあげるとしますか。
「…さて、と。咲夜がご飯作って待ってくれてるだろうし、早く帰ってあげないと」
よいしょ、と身体を委ねてくる友人を再び背負いなおして、レミリアは家路を急ぐことにする。
月に照らされたパチュリーの表情は、どこまでも穏やかで、何やら微笑んでいるように見えた。
どこかまったりと流れる時間、登場人物の可愛らしさを存分に楽しませて頂きました。
紅魔郷のころの良い雰囲気、空気感が素晴らしかったです
暖かい世界の話で好みでした。
有難う御座いました。
パチュリーは本当に素晴らしい友人に恵まれたと思います
素晴らしく暖かいお話でした
出てくるみんなが綺麗で優しい話で、心があったまるようなそんなお話で素敵でした。
パチュリー、レミリア、霊夢それぞれの魅力がしっかり伝わってきて、読んでいてとても心地よかったです。素晴らしいお話を読ませていただきました。