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時はちょっと遡って…紅魔館。
魔導書を読んでいたパチュリーは、ちらちらと、図書館の扉の方に目を向けていた。そして、扉が開く様子がないことを悟ると、はぅ、と短くため息をついていた。
なぜ彼女がため息をついていたかというと―――最近、友人でありこの館の主でもあるレミリアが、なかなか図書館に来てくれないからである。
ちょっと前までは、何かあっては暇を持て余したレミリアが図書館にやって来て、読書中だろうが構わずに話しかけてきたり、その場の思いつきでパチュリーに難題をふっかけてきたりとか…そういうのがいつもの日常だったのだ。それが少なくなったのだから、魔法の研究に集中できて良いじゃないか、と思いきや……パチュリーには、なぜレミリアが図書館に来なくなったのか、何となく分かっていた。分かっていたからこそ、こうしてもやもやしながら、本を読むにも落ち着かない様子だったのである。
―――レミィが、博麗神社に遊びに行くようになったから。……ここ以外に、暇つぶし出来る場所を、見つけたから。
それが、パチュリーが出した結論だった。
紅い霧を出す異変を起こしてからというものの、レミリアは退治しにやって来た巫女――博麗霊夢のことをいたく気に入って、彼女のもとへ通うようになった。それも、霊夢が起きている時間に合わせて、昼型の生活を試みる程に。欠点である太陽に当たるリスクも、日傘一本で克服しようとする程に。
文字に起こすのだけなら簡単だが、いくら吸血鬼であるレミリアでも、本来それらは面倒で実行には難しいことのはずだ。それを「それがどうした」とあっさり実行に移してしまう程に、神社に集う者たち――特に霊夢のことを、レミリアは友と認め、慕っているのだ。
…もちろん、それは良いことではあるのだ。レミリアに限らず、あの異変での出会いを経て、紅魔館を知る者が増え、ここもにぎやかになり、明るく笑顔にあふれる空間になった。咲夜はやっと人間の友人を――自身が息抜き出来る存在を見つけることが出来た訳だし、フランだって、引きこもりがちだった自分を徐々に開くようになっていった。そう、レミリアに友人が増えたことだって、良いことのはずなのだ……はず、なのだ。
だけど。これでもレミリアの一の友人と自負しているパチュリーにとっては、複雑だった。
レミリアが以前より自分に構ってくれなくなってしまったから。
レミリアが霊夢に取られてしまったような…そんな気がしてしまったから。
あぁ、こんなこと、レミリアに言ったら、きっと笑われるのだろう。
レミリアから見たら、私との仲は、あの異変を経たところで、何ら変わっているはずがないのだから。
そんなこと分かってる。分かってる、けど…
分かってても、自分の中では、どうしても煮え切らないことだって、あるのだ。
…あぁ、駄目だ。集中出来ない。こんなこと、いつぶりだっただろうか。魔導書をパタンと閉じて、重い腰を上げる。
―――たまには、自分からレミィを探しに行こう。
そうして、パチュリーは先ほどまで開くのを待っていた扉を、自分から開けに行った。