Coolier - 新生・東方創想話

罰と欠けた真実

2016/10/26 10:15:37
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 永久に続くかと思われる大河を一艘の小舟が進んでゆく。チャポッ、チャポッ、と船頭が舟をこぐ音以外何の振動もない。それだけではない、見渡す限り他に船はあらず、生き物のぬくもりが絶えてしまった世界が広がっていた。凍えるような寒さのこの川にはただ二人、船頭たる死神と罪人たる男が存在するのみである。
「ずいぶん長いねぇ、いったいあんたは何をしてこんなところに来ちまったんだい」
 船頭の死神が舟に乗った時から無言で座りっぱなしの男に話しかけた。彼女の言葉が質問というよりも独白に近かったためか男はいまだに無言のままである。
「この川はねぇ、生前に犯した罪に比例して長くなるんさ。今まで何人も運んできたけどこんなに長いのはそうそうないねぇ」
 およそ全てが静止した世界に死神の声だけが流れてゆく。
「それにここに送られてくるような奴は大抵暴れるか、後悔してしおらしくするもんなんだが、あんたにゃその様子もない。あたしの見立てによりゃそんな奴はよほど肝の座った人間か、そうでなきゃあ道徳の欠落した稀代の悪人かのどちらかだね」
 死神は男を横目で見るが何の反応もない。男の顔に深く刻まれた皺の奥にしまわれた感情を読み解くことはベテランの船頭である小野塚小町にも不可能であった。
「なぁ、あたしに教えておくれよ。あんたは何者なんだい?」
 小町は舟をこぐ手を一瞬休めて男の顔を覗き込んだ。閉じられていた男の目が開き小町をひたと見据えている。刹那の静寂の後、男の口が開いた。
「私は私だ。それ以外の何者でもない。だが人は私を死神と呼んだ」
その一言を皮切りにしてその男―魂魄妖忌―は己の人生を語りだした。

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