「自分が何時から剣をふるっていたか、何者から剣を学んだか、あまりに昔のこと過ぎて覚えてはいない。気づけば私は京の貴人に県の腕を買われて雇われていた」
「…」
「昼間は庭師として屋敷に努め、日が暮れてからは京の町に出でて仕事をこなした」
「仕事というのは?」
「主より指定された人間を切ることだ。法を犯しながら捕まらず罪に服さない者、己が人間であることすら忘れたような狂人、節度を失った妖怪…日によって切る者は違ったが切らぬ日はなかった」
「よくもそんなに殺せたもんだ」
「仕事だからな」
「しかし、ほんとにそいつらは罪人だったのかい?」
「罪人であったかは知らぬ。だがそう聞いている」
「自分で確認しなかったと」
「私は主が切れといったものを切るだけだ」
「命乞いしてくるやつだっていただろう」
「そんな者はいなかった。私がすれ違いざまに剣を抜き、収めた時には奴らは皆死んでいる」
「今までにいくら殺してきたんだい?」
「さぁ、知らぬ。だが多いときは一日で百人ほど切ったことがある」
「京でそれだけ切ったら大問題になるだろう」
「京ではない。京の東に村ぐるみで野党まがいのことをしている一団がいた。そいつらを全員切ったら百人ほどであったのを覚えている」
「女や子供もいただろう」
「ああ、村の半分は女・子供だった」
「それも殺したのか?」
「主の指示は村を誅滅することだった。無論、全員切り捨てた」
「良心は痛まなかったのか?」
「私は剣士だ。剣は人を殺すために振るわれる。断じて人に見せるためのものではない。美しさを競うものでも、喧嘩の勝ち負けを決めるものでもない。剣士は人を殺すための生業。そこに良心などいらぬ。己が強さと冷静でいること、それだけが必要なのだ」
「それだけのことをしてあんたは何を得たんだい?金かい?名誉かい?それとも女かい?」
「信頼だ」
「信頼…ね」
世界は再び静けさに包まれた。かれこれ数時間はこいでいるが岸はいまだに見えてこない。