「その後、男の死体だけ片づけて私は寺を出た」
「姫はどうするのさ?」
「寺にいなくとも姫を守ることはできる。少しでも怪しいものは片っ端から切って回った」
「会わなかったのかい?姫とは」
「会わなかった。そしてあの日が姫に会った最後の日になった」
「討ち漏らし?」
「いや、妙な胸騒ぎがして半年ぶりに寺へ行くと、桜の木の根元で姫は自害なされていた」
「桜の木の根元で…ねぇ」
「姫を木の下に埋葬し、そして…」
「そして?」
「約束を守れなかったことを主に詫びて腹を切った。手元が狂い一太刀で逝けなかったことは残念だ」
「そうかい……、ほれ、着いたよ」
妖忌が目を開けるとすでに裁判所の中にいた。最上段にいる裁判長・四季映姫が口を開く。
「ここまでの話は全て聞かせてもらいました。おおよそ、あなたの話は事実のようです。ただ」
「ただ?」
「真実ではありませんね」
「私は嘘をついておりませんが」
「ええ、知っています」
「ならばそれが真実でござろう」
「いいえ、それは真実ではありません。断じて、真実ではありません」
「何が足りないのでしょう?」
沈黙が場を支配する。スッと映姫が立ち上がり冷たく言い放つ。
「判決を言い渡します。被告を冥界送りし、白玉楼付きの庭師とする。刑期はこちらで別途定めたものに準ずる」
「白玉楼…」
「白玉楼の主は生前の記憶を失っています。あなたがよく知る人物です。そこで欠けた真実の答えを見つけなさい。もし見つけることができたならあなたを転生させてあげましょう」
「見つからなければ?」
「永遠にそのままです。さぁ、もう行きなさい。忘れないように、これはあなたへの罰です。あなたが答えにたどり着けない限り私はあなたに罰を与え続ける。還らぬ日々の中でよく考えなさい」
妖忌の体が光に包まれ、そして消える。書記官、邏卒も皆去って裁判所には映姫と小町が残された。