ひどく暑い日だった。以前から目をつけていた男が姫にスイカを献上しに来ていた。私がちょうどお茶を入れて部屋に入る瞬間だった。スイカを両手に抱えた姫に男が短剣を抜いて切りかかるのが見えた。気づいた時には私は既に刀を鞘に納め、部屋には首が胴から離れた男の死体と返り血が顔にまでかかった姫が茫然と立っておられた。
「姫様、お怪我は?」
姫は目だけを動かし私を見るとこう言った。
「なにも殺すことなんて…」
私は努めて冷静に答えた。
「姫様をお守りいたすのが主よりの命でございますれば」
呆けたように立ち尽くしておられた。殺生を見たのはあるいはあれが初めてだったのかもしれぬ。だが従者としてこのまま場を放置するわけにはいかなかった。
「お召し物を取り換えましょう。さぁこちらへ」
私が姫へ手を伸ばすと腰が抜けたように床に座ってしまわれた。
「姫様?大丈夫ですか?」
私が一歩踏み出した途端、声が響き渡った。
「来ないで!」
「姫様?」
「人殺し!」
「しかし、これは…」
「人殺し!人殺し!人殺し!」