* * * * *
まどんでいたらいつの間にか夕食の時間になっていて、咲夜がフランドールを連れ立って食事を運んで来た。
今晩の献立は、とろとろ半熟の目玉焼きが乗ったハンバーグと、サラダとコンソメスープ。デザートにアイスの盛り合わせという豪華なメニューだった。
それを、今度は何故だかフランドールと一緒にまったりと食す。
米派な霊夢は勿論ライスを選択し、フランドールは焼きたてのふわふわフォッカチオを選んで、揃って頂きます。
「食べて寝てばっかだと太っちゃうよ?」とかなんとか無邪気に笑いながらフランドールが言ってきたが、「へーきへーき」と余裕ぶってご飯をおかわり。ナイフとフォークなんて上手く使えないので箸でモシャモシャと洋食の料理を頬張る霊夢。
一方フランドールはシルバーを上手く扱える筈なのに、何故だかナイフでハンバーグを突き刺してモグモグしていた。
なかなかワイルドな食べ方をするフランドールに「危なくない?」と霊夢は軽く問うたが「へーきへーき」と軽い回答が返ってくるだけだった。流石は悪魔の妹である。
そんな感じでまったりとした食事を終えて、揃って「ごちそうさま」をする。
食事を終えてもフランドールは自分の部屋へ帰ることはなく、そのまま居座ってトランプをしようと暇潰しの提案をしてきた。
そこへ遊びに来た小悪魔も参戦して、きゃっきゃっしながら色々なゲームをして遊び倒す。
勿論、小悪魔がカモになったというのは言うまでも無い。
夜も更け始め、健康優良児な霊夢的にはそろそろ寝る時間になる。
まだ遊ぶとフランドールは少々愚図っていたが、小悪魔が必死に「明日も遊べますから」と説得を繰り返し。しかし、それでも納得いかなそうだったので、霊夢は「明日も遊んであげるわよ」と約束してやって。そこで漸く渋々フランドールはトランプを放った。
小悪魔に手を引かれて出て行く無邪気な悪魔。また明日と言うと、「うんっ!」と嬉しそうな笑みを零して、小悪魔と一緒に「おやすみなさい」「おやすみぃ~」と退室して行った。
誰もいなくなって、また静かになる狭い空間。暖炉の火は相変わらず小さな温もりを吐き出し続けている。穏やかに揺れる小さな火を見ていると、自然と欠伸が込み上げてきた。
「なんだかんだで、誰かしらが遊びに来るわねぇ~」
欠伸を噛み殺しながら、両腕を天井へと向けてぐぅ~っと伸びる。
なんとなく、身長伸びないかな~っと思ったりした。別に深い意味は無い……と思う。
「まっ、紅魔館に一週間泊りにきたって考えれば、悪くないか」
思いっきり伸ばした両腕と背骨をゆっくりと元に戻しながら、至極楽天的な言葉を吐き出す。
だって、何せ三食プラスおやつアンド昼寝付き。しかも洗濯、掃除はやってくれるから家事なんて一切する必要なんてない。なのにタダだと言うのだから、なかなか優雅な生活だ。
「文句があるとするなら……」
会いに来ない奴がいる事くらいで。
なんて呟こうとした唇は、急いで閉じて音を遮る。
「……まぁ、無茶な話だけどさ」
自分がこんな事になっているのだから、あっちだってそれなりの制限がかかっていてもおかしくない。
霊夢はそう取りとめも無く考えながら、どっこいしょっと呟いて立ち上がった。
別段汗なんて掻いていないが、これでも巫女さんなのでいつでも体は清潔に保っておくものである。あんまり本気で思っちゃいないが、乙女たるもの、お風呂は大事なのである。
霊夢は鼻歌交じりで風呂の準備をし、着替えを用意する。ベッドに腰掛けて足をパタパタと動かしながら湯が貯まるのを待った。
「あと、五日か……」
あと五日で、この生活は終わり。
明日は何をしよう。自分からは動けないから、また誰かが遊びに来るんだろう。咲夜にチェスでも教えてもらうか。もしレミリアがきたら腹いせにパチュリーの話題でも出してからかってやろうかな。あぁ、そういえばパチュリーに賭けのやつを貰わないと。何にしよう。まだ思いつかない。ここから出してはダメだし。あ、出た時にはまだ寝てないわよね? 去年だって初雪のことは約束はしたし。
「……あー」
霊夢は頬をポリポリと掻いて、呆れたような声を出した。
誰に呆れてるのかといえば、そんなの自分にである。
こんな生活も悪くないとか、割と居心地は良いと思っているのに、結局は早く出たくて。
結局は、早く逢いたいと思っていて。
「……はぁー」
そんなに自分に溜息が出る。でも、しょうがないって諦めた。
だって、幻想郷の秋は短い。
だから逢っときたい。
冬は長いから。その分、
今の内に。
「ゆ……」
無意識の内に呼ぼうとしていて、慌てて両手で口を塞ぐ。
だらしない唇と情けない喉を叱咤して、音にならない内に声を飲み込んだ。
だって、呼んだら来ちゃうかもしれない。
あの妖怪なら、こんな結界するりと越えて来てくれてしまう。
これは緩い罰ゲームみたいなもんだから、だからきちんと完遂しなきゃいけないのに。
「大丈夫だって……これくらい大丈夫だっつぅーの。全然へーき……」
だって、じゃないといつまで経ってもあんたに心配ばっかりかけちゃうし。
ちゃんと隣に並んで居れなくなっちゃうから。
「ん。よしっ」
霊夢は無駄に気合を入れ直すと、無意味に力強い足取りで風呂場へ向かった。
* * * * *
暖炉を消して、布団に包まってぬくぬくする。
昼寝をした所為か、なかなか眠気は来なかったが、風呂で良くあったまった体でふかふかの布団の中でゴロゴロするのは気持ちよかった。
ポカポカ。ぬくぬく。ゴロゴロ。
秋の終わりがゆっくりと近付いてくる夜。結界に阻まれて、外の音は聞こえない。
秋の音が聞こえない。
それを少し寂しく思いながら、目を閉じる。
意識がぼんやりと船を漕ぎ出して、うつらうつら。
手先、足先の感覚が曖昧になる。
感触が朧になる。
ふわふわと空を漂うように、思考が緩慢になる。
というところで、邪魔が入った。
窓の外によく見知った気配を感じたからだ。
(……もぉ、誰よ?)
こんな時間に。博麗の巫女様の睡眠を邪魔するなんて、ぶっ飛ばされたいんだろうか。
布団から出るのが面倒で、このまどろみから抜け出すのも勿体無くて。
だから無視しようと決めて狸寝入りをする。
しかし窓にへばり付いた気配は、格子を軽く揺すってこっちの眠りを妨げ続けてくる。
挙句の果てには格子をガンガンと激しく叩いて起床を強要してきた。
「だぁー! もっ、うっさい!!」
音は聞こえないのだが、気配が騒がしいことこの上ない。
こんなにマナーのなってない奴なんて、幻想郷中にはたくさんいると思うが、この自分の眠りを妨げようとしてくる奴はそんなに多くない。
霊夢は布団を跳ね除けベッドから降りると、窓に近寄った。
予想通りの人物の顔がそこにあって、霊夢のイライラ指数がぐーんと上がる。
窓の外には、格子に顔を突っ込んで縦に潰れつつある間抜け顔の友人、魔理沙がいた。
口の形からして「おーい」とか言っているんだろう。
悪びれた様子なんて皆無な、嬉しそうな表情になって、スッポンっと格子の間から顔を抜いた。
「あんたねぇ……」
文句を言ってやろうと思って、思い直す。
結界が機能しているので、多分こっちの声は届かないだろう。
魔理沙もそれを理解しているらしく、ちょっと困った顔をしていた。
「ちょっと待ってなさい」
霊夢は面倒そうにしながらも魔理沙に待機命令を出して、部屋の隅へと向かう。
室内の四隅に施された術式を確認する。
パチュリーお手製の結界は、霊夢も関心せざるを得ないくらいには緻密な作りをしていた。
強度よりも感知優先という作りにしている辺りが、少しいらやらしい。
閉じ込めるというより、試しているという感じがヒシヒシと伝わってくる。
(壊して出て行くんだったらお好きにどうぞ……って?)
「やんになるわね、ほんと……」
霊夢はそう呟きながら苦笑し、「さて、どうするか」と決壊を睨むように見詰めながら思考を働かせる。
破壊した瞬間に、便宜上の監禁が事実上の監禁になるんだろうという事は明確。出るつもりは無いので、魔理沙の話を聞ける程度に一時的に阻害できれば良いが、はてさて。
「といっても道具は無いし……」
没収されたし。きっとあれらは、パチュリーが嬉々として解体と分析に勤しんでいるに違いない。
霊夢は腕組みをして、部屋の中を見回す。目に入ったのは就寝前まで遊んでいてトランプのカードが入った箱と、花瓶に活けられた紅葉と秋桜。
霊夢はトランプを箱から一枚取り出し、枝から逸れていた紅葉の葉を手に取った。
「……ま、なんとかなるっしょ」
なんとかならなかったら、その時はその時。
霊夢はこれまた至極楽天的に考えて、トランプ一枚と葉っぱ一枚を持って窓の方へと戻る。
魔理沙がまだかー? と待ちくたびれた顔していたが、気にせずに結界の阻害作業を開始する。
トランプと紅葉と重ね合わせて……と、そこでトランプの絵柄が偶然にもジョーカーだったという事に気付いて、口の端が自然と上がってしまった。
「おあつらえむきじゃない」
霊夢は何処か自信たっぷりな表情になって、重ね合わせたトランプ(ふだ)と紅葉(あき)へ、霊力を軽く込める。
それから髪を一本抜いた。
髪の毛にふっと息を吹き掛けると、それは針のようにピンッと真っ直ぐに伸びた。
まさしく針代わりとなった髪で、札と秋の欠片を突き通し、完成する。
「簡易過ぎるけど、こんなもんでしょ」
そうして、霊夢はソレを窓へと無造作に投げた。
漣(さざなみ)が立つように、霊夢の術が魔女の結界へと微細に干渉する。
窓が少し上へとスライドし、隙間が開く。魔理沙の声が届き始めた。
「すごいな。どうやったんだ?」
「外の秋と中の秋を繋げただけよ。あんま長くは持たないし、直ぐに気付かれるだろうけど……」
あいつなら、もっと上手くやる。
という言葉が浮かんだが、それは口の中だけで呟いておいた。
「ふぅん? よく分からんが、とりま急げってことだな?」
「そーゆーこと。んで、なんか用? まさか人の睡眠時間を泥棒しにきただけじゃないわよね?」
「私は時間泥棒なんてしないぜ。盗むのは人の心と魔導書だけだ☆」
「あーはいはい。じゃあね。さよなら」
霊夢は無表情で魔理沙の戯言を受け流して窓を閉めようとするが、その前に慌てた様子で魔理沙が手を挟み込んできた。
「悪かった悪かった! 下らない事いってすみませんでしただぜ! ってか、お前の為に来てやったんだからもうちょっと殊勝な態度をだなっ、って行くな! 話を聞いてくれぇ!」
「あー、うっさいわねぇ。急げっつってんでしょ?」
「悪かったって。まぁ、何はともあれ、こんばんはだぜ。囚われのお姫さん」
「挨拶はいいっつーの。んでもって姫とかあたしの柄じゃないわよ」
「だよなぁ~。お前なんかが姫とかじゃ助ける気が失せ、わぁー、すみませんすみません! ちょっ、目潰しとかやめ!」
格子の間から飛んでくる容赦の無い二本の指に、窓に掴まった魔理沙は首を左右に動かして危ういところで回避し続けるが、やっぱり避けきれるものではなく、しっかりと喰らって窓の下へと落ちた。
「ぎゃぁああぁぁ」という声が窓の外から聞こえる。それからカサカサと枯れ草の上で悶絶ローリングする音も。
「お、おまぁ! 大切な友人の大切なおめめになんて事しやがるんだぜ!?」
「だぁーれが大切な友人だっての」
「ぐぐっ、お前、それは素で傷付くんだぜ……なんだよ。寂しくてぐじぐじ泣いてるのかと思ったのに、全然いつも通りじゃないか……」
「あ?」
せめてとの憎まれ口だったが、霊夢の「なんか言ったかゴルァ?」な視線を喰らって、魔理沙は急いで口を閉じた。
魔理沙は仕切り直しだとばかりに「コホンッ」と咳払いを一つ。窓に攀じ登って霊夢と視線の高さを近付ける。
「あー、その。どうだ、監禁生活ってやつは?」
「それなりに退屈よ。ご飯は美味しいけど」
「へーへー。そりゃ良かったな。でも、残念ながらそんな三食昼寝付きの優雅な生活は長くは続かないぜ?」
「知ってる。一週間くらいで終わりなんでしょ?」
「ちぇ。なんだよ、知ってたのか?」
「どっかのお人よしの門番がつるっと口を滑らせたお陰でね」
「ははっ」
魔理沙は軽く笑うと、「じゃあこれは知ってるか?」と声を潜めて格子に顔を近付けた。
「魔理沙さんの秘密情報網から得た話によると、この霊夢監禁作戦は紫の留守を狙って仕組まれたらしいぜ」
「そうなの?」
「おう。じゃなきゃこんなの許されないぜ。なんでもここ、二、三日の間留守にしてるらしいんだ。あの女狐も結託してるから、多分紫はこの事を知らない筈だ」
きししっ。と、魔理沙は不気味に笑って「誰だってあんな妖怪は敵に回したくないからな」なんて付け足す。
霊夢は「ふぅーん」とあまり関心なさそうに頷いていた。
「でだ。情報が確かなら明日には帰ってくる筈だ。そしたら一週間なんて待たなくても紫がなんとかしてくれるんじゃないか?」
幻想郷中の主要人物ほとんどが結託してるから情報が回りにくいかもしれないし、妨害されるかもしれないが、この魔理沙さんが必ずこの事態を伝えてやるぜ! と意気込む魔法使い。
でも霊夢は「あー」とやる気なさげに呟いてボリボリと頭を掻くだけだった。
全然嬉しそうじゃない霊夢の様子に、魔理沙は「なんだ?」と首を傾げる。
霊夢は一拍の間を置いてから、
「いらない」
と、短く告げた。
「は? い、いらない?」
「そ。何にもしなくていい」
「えー。なんでだよ? 出たくないのか?」
「出たいけど、そうじゃなくて……これはあたしの問題だから、一人でどうにかするってこと。だから余計な手出しはいらない」
「んな事いっても……だって、こんなの理不尽だぜ? いきなり監禁なんてさぁ」
「いいんだってば。こんなん、緩い罰ゲームみたいなもんなんだから」
「でも……」
幾ら「いい」と言っても食い下がってくる魔理沙に、霊夢は溜息を吐く。
色々と労力を惜しんで情報を集めたり、あわよくば私が助けてやるぞ! な感じの心優しい友人が、残念そうに肩を落としている。
それを見て、もう一度溜息。
それでも霊夢は「いいのよ」と告げた。
「試されてるだけなんだし、これくらいクリアしないとでしょ? じゃなきゃ、また紫に迷惑かけるだけで……。去年はあたしの所為で、紫は謝らなくて良いことまで謝ったり詫びたりしたんだし。気性の荒い妖怪なんかには、あたしの代わりに殴られたりとかしてたみたいだしさ……」
「え゛? そうなのか?」
「多分……勿論、言いやしなかったわよ、そんなこと」
直接聞いたわけじゃない。
そう呟いて肩を竦める霊夢。
魔理沙はちょっとどんな顔をしたら良いのか分からなかった。
「まぁ、その……それで正解かもな。霊夢なんか殴ったら殴った奴の命が危ないぜ」
「まぁね。十倍返しにしちゃうし……って、うっさい! あたしの事はいいっつの!」
そこらへんの妖怪よりずっと怖い巫女さんは、魔理沙の鼻先をピンと指で弾く。
魔理沙は「いってぇ!」叫んで思わず鼻を押さえてしまったので、窓からまた落ちて尻餅を付いていた。
「いたたっ……くそっ、なにすんだぜ!」
「うわぁ~、マヌケぇ~」
「おまっ!」
軽口と憎まれ口をまた一通り叩く二人。
いつもの調子で言葉を軽やかに交わした後に、霊夢はふと真面目な顔になった。
「ただでさえ誤解されることが多いのにね」
「なんだ? お前のことか?」
「あたしは誤解なんてされないわよ。自分に正直だもの。誤解の余地なんかないでしょーが」
「いや、お前はちょっと正直過ぎだと思うぜ? 少しは自重っていうのを覚えるべきだな」
「あんたに言われたくないわよ」
「そりゃそうだな。で、なんだ。紫は誤解されるのか? 真実と虚実の境界でも弄くってるんじゃないか?」
「そうかもね。……なんかさ、悪者で良いんだって」
「うん? 確かに正義の味方って柄じゃないな?」
「ぷっ。言えてる」
くすくす小さく笑い合う。
魔理沙は「それで?」と続きを促した。
「だから、あいつの事を悪く言う奴ってたくさんいるのよ。紫自身がそういうフリをしているから、それで当たり前で、その反応が正解なんだけど……」
「な~るほど。いっつもいっつもヘラヘラ笑ってやがるが……実際は何気に結構際どい立場なんだもんな?」
「誰情報よ、それ?」
「企業秘密だぜ☆」
「あっそ」
「でも、それがどうしたってんだ? お前、別に善悪とか気にするタイプじゃないだろ?」
「まぁね。言いたいやつには言わせとけばいいのよ。ほんとのコトはあたしが決めるもの。でも……」
「……んぁ?」
「でも、あたしの所為であいつが悪く言われるのは、違うって思う。そんなの、ちょっと許せない……」
言った奴は勿論、それ以上に自分自身を。
そう、強い眼差しをする霊夢に、魔理沙は「ったく」と小さく呟いて苦笑を零した。
「だから、紫に言っといてよ」
「手出し無用ってか?」
「そっ。ついでに家で大人しく待ってろって伝えて」
「へーへー。了解しましたよぉ~」
恋のキューピットもどきな魔理沙さんが、しっかり伝えてやりますだぜ。と、魔理沙は軽く肩を竦めて窓から下りた。
「お前こそ大人しくしてろよ? その優雅な生活を続けたいなら暴れても良いけどな」
「大きなお世話よ、このお節介魔法使い」
「おー、こわっ。鬼巫女が本気で怒らない内にさっさと退散だぜ」
魔理沙は大袈裟に怖がるフリをして、箒に跨る。
ふわりと浮き上がって、霊夢ににかっと笑いかけた。
「じゃあな、鬼巫女。魔理沙さんは優しいから、お前みたいな奴の為に武運を祈っといてやるぜ」
「うっさいお節介バカ魔理沙。さっさと去ねっつぅーの。んでもあんがと」
「けっ。素直じゃねぇ~なぁっ!」
互いに歯を見せるように笑いながら皮肉って嫌味を言って軽口を叩いて手を振り別れる。
魔理沙の姿は瞬く間に小さくなり、夜空の星屑に交じって消えていった。
霊夢は窓を閉めて夜風を遮ると、結界を一時的に阻害していた術を解除する。
ふっと髪の毛は抜け落ちて、トランプと紅葉が床の上に舞う。
霊夢はそれらを暖炉の中に放り込んで証拠隠滅をし、布団へとまた潜り込んだ。
さて、家で待ってる嫁の為に早く出所できるように態度良く過ごさなければ。でも、準備はしておかないと。帰ってからちょっとやってみたい事があるから。
「パチュリーに相談してみよ……」
賭けの代償は、これでいいんじゃない?
霊夢はそんな事を考えながら、ゆっくりと目を閉じた。