◆紅魔館での愉快で平和な監禁生活 最終日
夕暮れ時、レミリアがこれからパーティーだって伝えに来た。
予想外にも部屋から出されたから、驚いた……フリをしておいた。
パーティー会場には紅魔館の他の従業員と、いつもの面子。
大きなテーブルの上には、ご馳走たっぷり酒たっぷり。
お腹が鳴るは、テンションが上がるはではしゃぎながら輪に混ざると、みんなで「愉快な監禁生活無事完遂おめでとぉー!」と祝ってくれた。
んー。なんだかなぁ。
でも罰ゲーム(しれん)は無事達成って事で間違いは無い。とりあえずは素直にありがとうと言っておいた。
それが合図だったみたいに、パーティーがわぁーっと始まる。
ワインをジュースみたいにグビグビ飲んだらレミリアと咲夜に怒られた。
そういう風に飲むもんじゃないとさ。しょうがないじゃない。酒なんか一週間ぶりなんだから。
肉食べて酒飲んで肉食って酒飲んで。上等な葡萄酒を浴びるように飲んで、たらふく御馳走を食べて、騒ぐ。
フランドールに「あ、やっぱちょっと太ったぁ?」と無邪気に脇腹を突かれた。ぷにぷにと突かれた。
くそっ、うっさいっての。別にいいのよ、こんくらい。寒いからちょっと余分に脂肪付けとかないと、無事に冬を乗り切れないじゃない? 食い溜めよ、食い溜め。
そうやってガツガツ肉をかっ食らってたパーティーの最中、レミリアに「明日になったら帰っていいよ」と軽く告げられた。
言われなくっても帰るわよって言ったら、フランドールが淋しそうに瞳を揺らした。
この、やめろ、その目。潤ませるなっての。
「え~、なんでぇ? もっといればいいのに。いっそここで暮らせばいいじゃん?」
「あんた何言ってんのよ?」
「そうよ、フラン。ワガママはよしなさい。霊夢にだってやるべき事があるんだから。今回だけだよ、こんなに大人しくしてるのなんて」
「……まぁね」
「それにぃ~。くふふ……家できゃわいぃ~嫁が待ってるんだろうしぃ~? それなりにのんびり過ごしてたみたいだけど、実は早く帰りたくてしょうがなかったでしょう?」
「ぐっ。そのニヤニヤやめろ! 正直キモいっ!」
「なっ!? この可愛いカリスマ吸血鬼に向かってキモいですって!?」
「お姉さまがキモいのなんていつも事だから良いけどさぁ~」
「ちょっ、フラン!?」
「でもさぁでもさぁ、うぅ……あ、分かった! じゃあ紫も一緒にここで暮らせばいいんだ! わたしったら頭良いぃ~♪」
「はぁ!?」
「ちょちょっ! そ、そんなのダメに決まってるでしょフラン! あんなのが一緒なんて無理よ! 絶対にダメよ!?」
「なんでぇ? 紫って優しいし、美鈴ほどじゃないけど程よく壊れにくいし、難易度調節して遊んでくれるから好きだよ?」
「遊んだの!? あんなバケモノと遊んだの!?」
「遊ぶよ? 地下で退屈にしてる時とかよく遊びに来てくれるんだよねぇ~♪ だから結構さみしくないんだぁ~」
「くそぉおおおおぉ! いつの間に……あのスキマ妖怪ぃっ! 私の可愛い妹を誑かしやがってぇ!!」
(もしかして、たまに怪我とかしてたのってこれが原因なわけ……?)
なんかちょっとだけ真相が分かった気がしたけど、「お節介過ぎだっつぅーの」なんていう溜息しか漏れなかった。
はぁー。ほんとにアイツは、幻想郷の住人ってなったら何でもかんでも誰にでも甘いんだから。
なんて、あたしが密かに呆れ返っている中も、吸血鬼姉妹の話は続く。
「だからさ、紫も居れば遊び相手も増えるじゃん? あの能力って何かと便利だしさ。ねぇ、お姉さまぁ良いでしょ~?」
「ダメったらダメよ! ダメダメダメ! あんなもん招き入れたら乗っ取られちゃうわよ、この館!」
「えー。じゃあ紫はほんまもんの拉致監禁すれば? 腕と足もぎとって、首輪嵌めて鎖で繋いで」
「もっとダメぇえええぇぇぇ!!」
うわぁ。なんか人に断りも無くメッチャ物騒な話してるし。
ダメだってば。あれはあたしのだっつぅーの。傷付けるとかふざけんなって話でしょーが。……あたしが傷付ける分には良いんだけど。
とかなんとかフランドールの無茶振りな会話に振り回されて。ツッコミが追い付かなくなる前に、レミリアのトドメはやっぱりパチュリーが刺していた。
うん。どんな時でもパチュリーはパチュリーよね。
騒いで飲んで。気分良くなって歌い始めちゃう奴も出て来て。一発芸大会とかもやっちゃったりして。優勝は勿論レミリア。だと思ったら大間違いで、そんな優勝候補をパチュリーが「一発芸やりまぁーす。吸血鬼を一瞬で灰にしまぁーす」と言って灰にしていた。
別に一発芸でも何でもなく、普段通りだった。
うん。やっぱりパチュリーはパチュリーよね。
皆グダングダンに酔っ払って、そこら中で眠っちゃう奴が続出し始める頃、パーティーは自然とお開きになっていた。
フランドールもちょっと酔っ払っているのか、最後まで愚図ってた。もっと遊んでよって。ちょっと涙ぐんでた。
あーぁ。ったく。
泣くんじゃないわよ。って不器用に宥めて。また遊びに来るって言ってやって。あんたも神社に遊びに来なさいよって言ってやった。
けれど、フランドールの機嫌は良くならなかった。
だから、素直に言う事にした。
「悪いわね。ここも居心地は良いけどさ。もっと居心地の良い場所、知ってんのよ」
「霊夢が好きなトコなの?」
「うん。あたしの特等席」
「とくべつなんだ?」
「そっ」
「ね、どんなトコ?」
「……へ?」
「ねぇー。どんな場所ぉ?」
「んなこといわれてもなぁ」
「えー。霊夢専用の特等席なんじゃないの?」
「ん~。…………そうね。あったかい場所、かな。うん。そう。あったかいの、すごく」
「へぇー。なんかメイみたいだね?」
「いや、それは流石に分かんないけどさ」
「うん? あのね、メイってすっごくあったかいんだよ。冬でもポカポカしてるの。傍にいるとね、すごく安心するんだぁ」
「そう……じゃあ、そんな感じなんじゃない? そこはあんたにとっての特等席なのよ、きっと」
「ふぅ~ん? ねね、もっと教えてよ」
「は、はぁ?」
「どういう風にあったかいの?」
「それは……」
「ねー?」
「むむっ……」
「えー、わかんないの?」
「……一番」
「いちばん?」
「ん。いちばん……あったかいって思う。せかいで、一番あったかいって……」
「うん?」
「あと……例えるなら……春って感じ」
「はる?」
「そう。あったかいの。良い匂いもするし……きっと、あたしの特等席は、春みたいなトコ」
「そっか。霊夢、春好き?」
「……まぁね」
「そっか」
「ん……」
頭を撫でてやりながら、今の話は内緒にしといてって頼む。
フランドールはくすぐったそうに笑って、分かったと頷いた。
悪いわね。
ここも良いトコだけど、あたしの場所じゃないのよ。
帰りたいの。待ってるだろうから。
逢いたいの。冬になる前に。
春みたいなトコに。