「ああ、もう!」
夢中になって刀を振るう。ここのところ私は、博麗神社に缶詰になっていた。事の発端は、最近発生した異変、幽霊の大量発生と大地の所有権をめぐった争いだった。なんでも、市場の神の力によって、土地の所有権が無に帰したそうだ。もっとも、これは霊夢さんからの受け売りだから、私自身、何が起こっているのかはよく分からない。ただ一つ確かなのは、こうやって博麗神社への襲撃者を私が撃退しなくてはいけなくなったということである。襲撃者たちの面々も様々で、テンションの上がった妖精や一般幽霊に加え、動物霊たち――カワウソ霊、オオカミ霊、オオワシ霊――が休む間もなく襲ってくる。いや、休む間もないというのは少し語弊があるか。博麗神社の神獣――高麗野あうんさん――と交代交代で神社を守っているのだから。今日はあうんさんが非番で、私の当番なのだ。ちなみに、ここで神社を守っているあうんさんとは別にもう一人あうんさんがいるらしい。もっとも私は、二人のあうんさんを一度に見たことがないから、本当かどうか未だに疑っている。
「はぁあああああ…」
集中して気力を高め、それを発する。私に向かって放たれる数々の弾幕の動きが遅くなり、霊たちが動きを止める。
「『半跏趺斬』!」
溜めていた力を解放し、思い切り刀を振る。動きの止まった霊や妖精が、放たれた斬撃に飲まれる。しかし、敵襲はまだやまない。ずっとこれの繰り返しだ。一体いつになったら終わるのだろう。霊夢さんは今頃何をしているのかな。あれだけ仲の良い魔理沙さんともこの異変では衝突したらしい。一体何があったのだろう。本音を言えば、私も異変解決に参加したかった。しかし霊夢さんから、かさねは神社にいるようにと言いつけられてしまった。私にとって初めての異変。天狗倒しや稀覯本探しなどの小規模な事件とは違うということは分かっている。しかし、私だってそろそろ幻想郷に慣れてきたころだし、こうやって襲撃者たちを撃退しているのだから、戦えないわけじゃない。霊夢さんは過保護に過ぎる。…過保護に過ぎるって、「頭痛が痛い」みたいだな。いけない、集中集中。ともかく、もんもんとした気持ちを抱えてここ数日を過ごしている。
「っ…数が多くなってきた」
今日はいつもより敵の数が多い気がする。今は耐えているが、このままでは物量に飲み込まれる。まずい。霊夢さんが神社に帰って来た時に「神社が乗っ取られました」ではあわせる顔がない。それに、この程度押し返せなければ今後も異変解決には連れて行ってもらえない。必死で自分を奮起させる。しかし、世の中には心持だけではどうにもならないことがある。一歩ずつ、じりじりと下がっていく。
「もう、だめなのかな…?」
せめて遊びに行っているあうんさんが戻ってくるまでは耐えたかったが。せめて一人でも多く敵を倒してから逃げるなり捕まるなりしよう。そう思った次の瞬間、凛とした声が境内に響き渡った。
「式輝『狐狸妖怪レーザー』!」
無数のレーザーが、眼前の妖精や動物霊を貫く。あれだけ大量にいた敵の数は、半分ほどになっていた。襲撃する側から襲撃される側へ。突然の攻撃に驚いた襲撃者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。あっけにとられる私を見下ろすように、宙に一人の女性が浮いていた。上下のつながったロングスカートに、中華風の意匠が施された前掛けを着けている。切れ長の目に、鼻立ちの通った妖しくも魅力的な顔。背丈は私より低そうだが、均整のとれた体つきだ。だがこれらのことよりもすぐ目に入ったのは、彼女の腰元から伸びている九つの尾だった。それは黄金色をしていて、先っぽだけが白く染まっている。九尾の狐。これだけ分かりやすい特徴を見せつけられては、学の無い(というか記憶喪失の)私でも何の妖怪かはっきりと分かる。尻尾は隠せないのか、それともわざとか。恐らくは後者、隠す必要がないのだろう。それだけの強大な雰囲気を身に纏っていた。女性がゆっくりと降りてくる。
「何者ですか」
一筋の汗が頬を伝う。ぐっと刀を握る。目の前の妖怪の目的は何だろう。私を助けてくれたのか、それとも新たな敵なのか。もし後者なら、残念なことに私では太刀打ちできそうにない。弾幕ごっこに限っても、先の弾幕を見るに、この前の稀覯本探しの時のぬえさんに匹敵する実力はありそうだ。
「何者とは、ずいぶんなご挨拶ね。あなたの窮地を救ってあげたというのに」
目の前の九尾は、少し不満げな声色で私に話しかける。
「それで、どうするつもりかしら?その手に持っている刀で私に切りかかってみる?」
こちらを挑発するように、九尾が私に問いかける。
「…いえ、やめておきます。私の実力じゃまだあなたには勝てなさそうですから。それに、助けてくれたのは事実ですし」
「ふふふ、良い心がけね。長生きできるわよ。どこぞの巫女と違って」
九尾が笑みを浮かべる。
「藍。八雲藍よ。詳しいことは、中で話しましょ」
「うん、美味いな」
気が付けば私は、藍と名乗る九尾相手に接待をする羽目になっていた。神社裏手の霊夢さんの居住スペースに移動して、お茶と霊夢さん秘蔵の菓子で藍さんをもてなす。ごめんなさい霊夢さん。後で代わりのお菓子を里で買ってきます。
「それで、あなたは何故博麗神社に――?」
藍さんに問う。
「私は式神でね。これでも主に仕える身なのよ。紫様…私の主が博麗神社のことを気にかけているみたいだから、様子を見に来たのよ。私が来て正解みたいだったわね」
「あなたの主も妖怪なのですか?だとしたら、何故神社を守りに…?」
「紫様は幻想郷のことを深く愛していらっしゃる。この幻想郷の成り立ちにも深く関わっているのだから。幻想郷の要たる博麗神社が幽霊や畜生の手に落ちるのはよろしくない、ということよ」
「なるほど」
どうやら藍さんの主の紫さんというのは、大妖怪である九尾を従えているだけあってかなりの大物らしい。紫さんの心配が当たって面目ないというか助けられて嬉しいというか。
「もっとも、私が今このタイミングで博麗神社を訪れたのには理由があるわ」
確かに、博麗神社を守りに来るならもっと早く来て手伝ってくれてもよかったはずだ。異変発生から大分たった今になって、わざわざ来た理由は何なのだろう。
「あなたも感じなかった?やけに敵の数が多いって」
「…確かに、今日は敵が多かった気がします」
「その中に、見慣れない動物霊もいたわね。それが問題よ」
「え、いましたか?」
「はぁ、注意力が足りないわね。…異変発生後、畜生界から地上に進出してきた勢力は三つ。驪駒早鬼の勁牙組、吉弔八千慧の鬼傑組、そして饕餮尤魔の剛欲同盟。勁牙組にはオオカミ霊、鬼傑組にはカワウソ霊、剛欲同盟にはオオワシ霊が所属していて、その他の動物霊たちは地上に出てくることは無かった。そのはずだった」
「あの…畜生界というのは?」
「ちょっと、話の腰を折らないでくれるかしら?…畜生界は新地獄にある畜生霊どもが血で血を洗う抗争を繰り広げている弱肉強食の世界よ。ああ、やだやだ」
畜生界の話題になった瞬間、不機嫌になる藍さん。何か畜生界に思う所でもあるのだろうか。
「話を戻すわよ。三勢力しか進出していないはずの地上に、別の動物霊が更に進出してきた。それは…」
そこまで話すと、すっと藍さんが立ちあがった。
「見てもらった方が早いわね。どうやら、また襲撃みたいよ」
藍さんに促され、慌てて境内に戻る。すると、神社の周りが、大量の動物霊で埋め尽くされていた。
「またこんなに…!」
「さあ、来るわよ」
まず先陣を切ったのは、何体かのオオワシ霊だった。滑空しながらこちらに向かってくる。
「水剣『ポロロッカスウィング』!」
激流を模した弾幕が、オオワシ霊たちを貫き、撃墜する。…ん?あれ?なんかオオワシ霊と顔が違うような?
「こいつらはトビ霊よ。畜生界では他の猛禽類の霊に隠れてこそこそやっている卑怯で意地汚い奴ら」
なるほど、姿が似ているから気がつかなかったのか。ということは、他の霊たちも?次に飛び込んできたのは、カワウソ霊、いやこれもよく見ると微妙に違う。
「そいつはテン霊ね。ぼーっとした顔の割には短気でめんどくさい性格よ」
藍さんは私に説明しながら、そのわきに浮いているネコをかたどった紙から光弾を放ち、テン霊を撃退していく。
「藍さん、それは…?」
「私の式神よ」
自動で弾幕を放ってくれるなんて、楽でうらやましい。そんなことを考えているうちに、最後の動物霊、オオカミ霊によく似た霊が大きな口を開けて突進してきた。
「こいつは…コヨーテ霊ね。コヨーテなんていったいどこから来たのかしら。まあ、オオカミ霊に負けず劣らず単細胞なんでしょうけど」
そんなことを言いながら、コヨーテ霊を思い切り殴りつける藍さん。なんというか、動物霊に対して当たりが強い。それから私たちは協力して、神社を取り囲んでいた動物霊を追い払った。
「と、いうわけよ。今の連中が、突如として地上に進出してきた。こいつらの目的を調べないといけない。最近は博麗神社周辺に進出しているみたいだから、こうやって私が訪れたってこと」
そういって、藍さんはじっとこちらを見る。
「そこで提案なのだけど。あなたも一緒に手伝ってくれないかしら?神社への襲撃を止めるには、大本を断つのが一番よ」
「え、私なんかでいいんですか?あうんさんの方が弾幕ごっこは上手ですし、なんなら霊夢さんにきちんと説明すれば協力してくれると思いますけど…」
「いや、あなたがいいのよ。…霊夢やあの狛犬と比べて素直で扱いやすそうだし」
なんだか馬鹿にされている気もするが、神社への襲撃を止められるならこちらとしては大助かりだ。それに藍さんほどの実力者が協力してくれるのはありがたい。
「――分かりました!不肖かさね、お手伝いさせていただきます」
それに、これで私も異変に関わることが出来る。ふふ、霊夢さんを出し抜いて異変解決なんかしちゃったりして。異変からしばらくたって現れた新勢力なんて、めちゃくちゃ黒幕っぽいし。あ、でも。
「私たちが調査している間、神社の防衛はどうしましょう」
「そこに関しては大丈夫よ。――橙!」
「にゃは!」
藍さんがネコをかたどった紙を掲げると、そこからポンと少女が飛び出してきた。二又の尻尾に、黒い猫耳。
「いい、橙?しばらくこの神社を守ってなさい。狛犬が戻ってきたら、協力してね」
「はーい」
「この子は私の式神よ。まだまだ未熟だけど、少しの間留守を任せるくらいならなんとかなるでしょう。強力な式もつけたしね」
それなら安心だ。…あれ。橙さんという部下がいるなら何故私が協力者として求められたのだろう。それに、器用そうな藍さんならそもそも一人でなんとかなる気もするけど。ま、いいか。今は新たな襲撃者を倒すことに集中しよう。
夢中になって刀を振るう。ここのところ私は、博麗神社に缶詰になっていた。事の発端は、最近発生した異変、幽霊の大量発生と大地の所有権をめぐった争いだった。なんでも、市場の神の力によって、土地の所有権が無に帰したそうだ。もっとも、これは霊夢さんからの受け売りだから、私自身、何が起こっているのかはよく分からない。ただ一つ確かなのは、こうやって博麗神社への襲撃者を私が撃退しなくてはいけなくなったということである。襲撃者たちの面々も様々で、テンションの上がった妖精や一般幽霊に加え、動物霊たち――カワウソ霊、オオカミ霊、オオワシ霊――が休む間もなく襲ってくる。いや、休む間もないというのは少し語弊があるか。博麗神社の神獣――高麗野あうんさん――と交代交代で神社を守っているのだから。今日はあうんさんが非番で、私の当番なのだ。ちなみに、ここで神社を守っているあうんさんとは別にもう一人あうんさんがいるらしい。もっとも私は、二人のあうんさんを一度に見たことがないから、本当かどうか未だに疑っている。
「はぁあああああ…」
集中して気力を高め、それを発する。私に向かって放たれる数々の弾幕の動きが遅くなり、霊たちが動きを止める。
「『半跏趺斬』!」
溜めていた力を解放し、思い切り刀を振る。動きの止まった霊や妖精が、放たれた斬撃に飲まれる。しかし、敵襲はまだやまない。ずっとこれの繰り返しだ。一体いつになったら終わるのだろう。霊夢さんは今頃何をしているのかな。あれだけ仲の良い魔理沙さんともこの異変では衝突したらしい。一体何があったのだろう。本音を言えば、私も異変解決に参加したかった。しかし霊夢さんから、かさねは神社にいるようにと言いつけられてしまった。私にとって初めての異変。天狗倒しや稀覯本探しなどの小規模な事件とは違うということは分かっている。しかし、私だってそろそろ幻想郷に慣れてきたころだし、こうやって襲撃者たちを撃退しているのだから、戦えないわけじゃない。霊夢さんは過保護に過ぎる。…過保護に過ぎるって、「頭痛が痛い」みたいだな。いけない、集中集中。ともかく、もんもんとした気持ちを抱えてここ数日を過ごしている。
「っ…数が多くなってきた」
今日はいつもより敵の数が多い気がする。今は耐えているが、このままでは物量に飲み込まれる。まずい。霊夢さんが神社に帰って来た時に「神社が乗っ取られました」ではあわせる顔がない。それに、この程度押し返せなければ今後も異変解決には連れて行ってもらえない。必死で自分を奮起させる。しかし、世の中には心持だけではどうにもならないことがある。一歩ずつ、じりじりと下がっていく。
「もう、だめなのかな…?」
せめて遊びに行っているあうんさんが戻ってくるまでは耐えたかったが。せめて一人でも多く敵を倒してから逃げるなり捕まるなりしよう。そう思った次の瞬間、凛とした声が境内に響き渡った。
「式輝『狐狸妖怪レーザー』!」
無数のレーザーが、眼前の妖精や動物霊を貫く。あれだけ大量にいた敵の数は、半分ほどになっていた。襲撃する側から襲撃される側へ。突然の攻撃に驚いた襲撃者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。あっけにとられる私を見下ろすように、宙に一人の女性が浮いていた。上下のつながったロングスカートに、中華風の意匠が施された前掛けを着けている。切れ長の目に、鼻立ちの通った妖しくも魅力的な顔。背丈は私より低そうだが、均整のとれた体つきだ。だがこれらのことよりもすぐ目に入ったのは、彼女の腰元から伸びている九つの尾だった。それは黄金色をしていて、先っぽだけが白く染まっている。九尾の狐。これだけ分かりやすい特徴を見せつけられては、学の無い(というか記憶喪失の)私でも何の妖怪かはっきりと分かる。尻尾は隠せないのか、それともわざとか。恐らくは後者、隠す必要がないのだろう。それだけの強大な雰囲気を身に纏っていた。女性がゆっくりと降りてくる。
「何者ですか」
一筋の汗が頬を伝う。ぐっと刀を握る。目の前の妖怪の目的は何だろう。私を助けてくれたのか、それとも新たな敵なのか。もし後者なら、残念なことに私では太刀打ちできそうにない。弾幕ごっこに限っても、先の弾幕を見るに、この前の稀覯本探しの時のぬえさんに匹敵する実力はありそうだ。
「何者とは、ずいぶんなご挨拶ね。あなたの窮地を救ってあげたというのに」
目の前の九尾は、少し不満げな声色で私に話しかける。
「それで、どうするつもりかしら?その手に持っている刀で私に切りかかってみる?」
こちらを挑発するように、九尾が私に問いかける。
「…いえ、やめておきます。私の実力じゃまだあなたには勝てなさそうですから。それに、助けてくれたのは事実ですし」
「ふふふ、良い心がけね。長生きできるわよ。どこぞの巫女と違って」
九尾が笑みを浮かべる。
「藍。八雲藍よ。詳しいことは、中で話しましょ」
「うん、美味いな」
気が付けば私は、藍と名乗る九尾相手に接待をする羽目になっていた。神社裏手の霊夢さんの居住スペースに移動して、お茶と霊夢さん秘蔵の菓子で藍さんをもてなす。ごめんなさい霊夢さん。後で代わりのお菓子を里で買ってきます。
「それで、あなたは何故博麗神社に――?」
藍さんに問う。
「私は式神でね。これでも主に仕える身なのよ。紫様…私の主が博麗神社のことを気にかけているみたいだから、様子を見に来たのよ。私が来て正解みたいだったわね」
「あなたの主も妖怪なのですか?だとしたら、何故神社を守りに…?」
「紫様は幻想郷のことを深く愛していらっしゃる。この幻想郷の成り立ちにも深く関わっているのだから。幻想郷の要たる博麗神社が幽霊や畜生の手に落ちるのはよろしくない、ということよ」
「なるほど」
どうやら藍さんの主の紫さんというのは、大妖怪である九尾を従えているだけあってかなりの大物らしい。紫さんの心配が当たって面目ないというか助けられて嬉しいというか。
「もっとも、私が今このタイミングで博麗神社を訪れたのには理由があるわ」
確かに、博麗神社を守りに来るならもっと早く来て手伝ってくれてもよかったはずだ。異変発生から大分たった今になって、わざわざ来た理由は何なのだろう。
「あなたも感じなかった?やけに敵の数が多いって」
「…確かに、今日は敵が多かった気がします」
「その中に、見慣れない動物霊もいたわね。それが問題よ」
「え、いましたか?」
「はぁ、注意力が足りないわね。…異変発生後、畜生界から地上に進出してきた勢力は三つ。驪駒早鬼の勁牙組、吉弔八千慧の鬼傑組、そして饕餮尤魔の剛欲同盟。勁牙組にはオオカミ霊、鬼傑組にはカワウソ霊、剛欲同盟にはオオワシ霊が所属していて、その他の動物霊たちは地上に出てくることは無かった。そのはずだった」
「あの…畜生界というのは?」
「ちょっと、話の腰を折らないでくれるかしら?…畜生界は新地獄にある畜生霊どもが血で血を洗う抗争を繰り広げている弱肉強食の世界よ。ああ、やだやだ」
畜生界の話題になった瞬間、不機嫌になる藍さん。何か畜生界に思う所でもあるのだろうか。
「話を戻すわよ。三勢力しか進出していないはずの地上に、別の動物霊が更に進出してきた。それは…」
そこまで話すと、すっと藍さんが立ちあがった。
「見てもらった方が早いわね。どうやら、また襲撃みたいよ」
藍さんに促され、慌てて境内に戻る。すると、神社の周りが、大量の動物霊で埋め尽くされていた。
「またこんなに…!」
「さあ、来るわよ」
まず先陣を切ったのは、何体かのオオワシ霊だった。滑空しながらこちらに向かってくる。
「水剣『ポロロッカスウィング』!」
激流を模した弾幕が、オオワシ霊たちを貫き、撃墜する。…ん?あれ?なんかオオワシ霊と顔が違うような?
「こいつらはトビ霊よ。畜生界では他の猛禽類の霊に隠れてこそこそやっている卑怯で意地汚い奴ら」
なるほど、姿が似ているから気がつかなかったのか。ということは、他の霊たちも?次に飛び込んできたのは、カワウソ霊、いやこれもよく見ると微妙に違う。
「そいつはテン霊ね。ぼーっとした顔の割には短気でめんどくさい性格よ」
藍さんは私に説明しながら、そのわきに浮いているネコをかたどった紙から光弾を放ち、テン霊を撃退していく。
「藍さん、それは…?」
「私の式神よ」
自動で弾幕を放ってくれるなんて、楽でうらやましい。そんなことを考えているうちに、最後の動物霊、オオカミ霊によく似た霊が大きな口を開けて突進してきた。
「こいつは…コヨーテ霊ね。コヨーテなんていったいどこから来たのかしら。まあ、オオカミ霊に負けず劣らず単細胞なんでしょうけど」
そんなことを言いながら、コヨーテ霊を思い切り殴りつける藍さん。なんというか、動物霊に対して当たりが強い。それから私たちは協力して、神社を取り囲んでいた動物霊を追い払った。
「と、いうわけよ。今の連中が、突如として地上に進出してきた。こいつらの目的を調べないといけない。最近は博麗神社周辺に進出しているみたいだから、こうやって私が訪れたってこと」
そういって、藍さんはじっとこちらを見る。
「そこで提案なのだけど。あなたも一緒に手伝ってくれないかしら?神社への襲撃を止めるには、大本を断つのが一番よ」
「え、私なんかでいいんですか?あうんさんの方が弾幕ごっこは上手ですし、なんなら霊夢さんにきちんと説明すれば協力してくれると思いますけど…」
「いや、あなたがいいのよ。…霊夢やあの狛犬と比べて素直で扱いやすそうだし」
なんだか馬鹿にされている気もするが、神社への襲撃を止められるならこちらとしては大助かりだ。それに藍さんほどの実力者が協力してくれるのはありがたい。
「――分かりました!不肖かさね、お手伝いさせていただきます」
それに、これで私も異変に関わることが出来る。ふふ、霊夢さんを出し抜いて異変解決なんかしちゃったりして。異変からしばらくたって現れた新勢力なんて、めちゃくちゃ黒幕っぽいし。あ、でも。
「私たちが調査している間、神社の防衛はどうしましょう」
「そこに関しては大丈夫よ。――橙!」
「にゃは!」
藍さんがネコをかたどった紙を掲げると、そこからポンと少女が飛び出してきた。二又の尻尾に、黒い猫耳。
「いい、橙?しばらくこの神社を守ってなさい。狛犬が戻ってきたら、協力してね」
「はーい」
「この子は私の式神よ。まだまだ未熟だけど、少しの間留守を任せるくらいならなんとかなるでしょう。強力な式もつけたしね」
それなら安心だ。…あれ。橙さんという部下がいるなら何故私が協力者として求められたのだろう。それに、器用そうな藍さんならそもそも一人でなんとかなる気もするけど。ま、いいか。今は新たな襲撃者を倒すことに集中しよう。