「紫様」
「あら、戻ったのね、藍。随分とひどい目にあったみたいじゃない」
あの戻りたくもない畜生界での戦いの後、私は紫様に事の顛末の報告に上がっていた。
「面目次第もありません」
「それで、調べられたのかしら。あの子の正体」
「はい。体の組成は99.9%人間です。治療にかこつけて、探査しましたから」
突如幻想郷に現れた、かさねという少女。私の真の目的は、博麗神社の防衛ではない。神社に居候している少女が何者なのかを探ること。紫様からの至上命令。
「――100%ではないのね?」
紫様が鋭く聞き返す。
「それは、まあ。どんなことでも断定はできませんから。ともかく、人間に過ぎないのですから、そこまで心配しなくてもよいのではないでしょうか」
「藍。私は、彼女が人間であることが逆に恐ろしいわ」
「はあ」
そうだろうか。霊夢や魔理沙のように弾幕を撃てる人間はいないこともない。生き残った(というか死んでいる?)動物霊たちから後で話しを聞いたところ、私が石化させられてから畜生回帰連盟の連中を殲滅させた時は鬼気迫る様子だったらしいが、別にそうなっても幻想郷のパワーバランスを崩すほど強いわけではない。
「他に何か変わったことは?」
「うーん、強いて言えば不安定な部分があった気がします。あれは、霊的部分?」
「そう…いずれにせよ、もう少し調べる必要がありそうね」
「え、またですか?」
「あなたはもういいわ、藍。後はこっちでやっておくから」
「は。申し訳ありません」
一体紫様は何を考えているのだろう。ただ、私があの少女に救われたのは事実。紫様の命令に背かない範囲で、助力していこう。私は恭しく礼をして、主の御前を退出した。