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東方流重縁~forgotten wanderer~ 第五話 獣は過去を忘れない

2025/02/12 15:55:19
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それから私たちは神社周辺や人間の里近くで、動物霊たちと戦いながら調査を進めていた。調査の中で役に立ったのは、私の「流れを読む程度の能力」だった。トビ霊、テン霊、コヨーテ霊たちが、どこから流れてきているかというのが把握できたからである。結果、それぞれ三箇所霊たちが固まっている拠点があることが分かった。
「便利ね、あなたの能力」
もはや自分でも少し怖くなるくらい、有用な能力である。ただ、分かるものは分かるのだから、使わない手はない。今、私たちはその三箇所の一つ、妖怪の山を訪れている。
「さて、この辺だと思うのだけど…」
「ちょっと待ったー!ここは私たちの領域よ」
私たちの行方を遮るように現れたのは、頭に金色のわっかをつけた少女だった。後ろからは茶色くて長い尻尾が生えており、手には長い透明の棒を持っている。こ、この姿はまさか。
「――孫悟空!?」
「いかにも!私こそが幻想郷の斉天大聖、孫美天よ!」
何という事だ。こんなビックネームが敵として出てくるなんて。しかし、その発言を聞く藍さんは余裕の笑みを崩さない。
「ふん、その程度の力で斉天大聖を名乗るなんて、おこがましいと思わないの?猿神さん。カワウソ霊を引き連れている事を見るに、鬼傑組の新入りといったところかしら」
美天の周りには、大量のカワウソ霊、そしてその中に混ざってテン霊もいる。
「鬼傑組はテン霊と組んだの?八千慧も追い詰められているのかしら」
「私だって、こんな奴らを率いるなんてごめんだわ。でも、あのお方の命だからしかたないの。さて、都合よく来てくれたわけだし、おっぱじめましょうか!」
美天の号令で、カワウソ霊とテン霊が一斉に飛び掛かってくる。
「かさね、あなたはそこの猿神とやりなさい。カワウソ霊とテン霊は私が引き受けるわ――超人『飛翔役小角』!」
そう言うなり、藍さんは体を高速回転させながらカワウソ霊とテン霊の集団に突っ込んでいく。藍さんが縦横無尽に暴れまわるおかげで、美天への道が出来た。
「これ以上博麗神社に手はださせません!不可知剣『鬼女返し』!」
スペルカードを宣言し、美天に斬りかかる。美天はそれを透明の長い棒でがちりと受け止めた。
「たたき割るつもりでしたが…意外と頑丈なんですね」
見た目より頑丈な透明の長い棒。…何か、嫌な流れを一瞬感じた。
「あなたの力が足りないんじゃないの?…それっ!」
美天が私を弾き飛ばす。そして、大量の黄色い棒を投げつけてくる。私を取り囲むように迫りくる棒。何とか間を縫って回避する。しかし、回避した先で私が目にしたのは、扇状に広がる大量の棒だった。
「ごふっ!」
そのうちの一本がお腹に直撃する。
「あー、痛そ」
「…まだまだ!」
正直、かなり痛む。が、まだここで倒れるわけにはいかない。
「それそれそれっ!」
飛ぶ斬撃を乱れ打ち。
「無駄だよっ!」
美天が棒を振り回し、飛ぶ斬撃を打ち消す。だが。
「なっ!」
最後の斬撃を打ち消した美天が、驚きの表情を浮かべる。その表情がよく見える。最後の斬撃を放った後、それに続くように私自身が超高速で美天の元に向かったのだ。
「取った!『半跏趺斬』!」
「きゃあ!」
ゼロ距離からの斬撃で、美天を被弾させる。しかし、美天の方もまだやる気のようだ。
「こうなったら…カワウソ霊!テン霊!突撃!」
いつの間にか藍さんの攻撃を何とかやりすごした数匹のカワウソ霊・テン霊たちが美天の周りに集まっている。美天の号令とともに、カワウソ霊とテン霊がこちらに向かってくる。そして、美天自身も弾幕を放ち、それを援護する。
「はぁあああああ…」
神社の時と同じように、気力を発し、霊たちの動きを弱める。そして、思い切り刀で薙ぎ払う。美天の弾幕も、集中してするりと抜け出した。
「くっ。なかなかやるな」
こちらの姿を見て、再び攻撃の構えを取る美天。その横に、ふわふわと一体のカワウソ霊が浮いている。
「あれ、突撃だよ突撃!なんでまだカワウソ霊が――うわっ!?」
突撃を呼び掛けようとしてカワウソ霊に近づいた美天が悲鳴を上げる。それもそのはず、近づいたカワウソ霊はポンと消滅し、そこから私の弾幕が発生したのだから。スペルカードではない通常の小さな弾幕だが、不意をつけば撃墜には十分だろう。先ほど気力を発して動きを止めたカワウソ霊の中に弾幕を仕込んでおいたのだ。
「…きゅう」
目を回しながらふらふらと浮かび上がる美天。この勝負、私の勝ちだ。
「やれやれ、数だけいるから面倒だったわ」
藍さんの方を見ると、あれだけいたカワウソ霊とテン霊が壊滅状態になっていた。これでテン霊が博麗神社を襲うことはないだろう。
「…くっ。今は退いてあげる。みんな、撤退!」
僅かに残ったカワウソ霊とテン霊を率いて、美天が逃げ去っていく。
「さて、次に行くわよ。どうせ後であの猿神がここを取り返しに来るだろうけど、私たちの目的は土地の取り合いじゃないからね」
「そうですね…痛っ」
思わずお腹を抑える。弾幕ごっこの興奮がひき、美天から喰らった弾幕の痛みがまたずきずきとやってきた。
「どれ、見せてみなさい」
藍さんにぐいっと左右の襟を引っ張られ、お腹を覗き込まれる。ちょっと恥ずかしい。Tシャツみたいにペロッとめくれたらよかったのだが、着物に袴だから仕方ない。
「…ちょっとあざになってるわね。でも、これくらいなら治せそうだわ。さあ、目を瞑って」
「え、は、はい」
藍さんに促されるまま、目を瞑る。藍さんの手が、そっと私のお腹に触れる。藍さんから発せられる妖力が、お腹から体全体に伝わってくる。すると、ずきずきとした痛みがすっとひいていった。
「うん、あざも無くなったみたいね。それじゃ行きましょう」
九尾ってすごい。素直に感心しながら、私たちは二箇所目の拠点へと向かっていった。

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