Coolier - 新生・東方創想話

東方流重縁~forgotten wanderer~ 第二話 大いなる弾幕には大いなる責任が伴う

2024/12/29 15:08:08
最終更新
サイズ
29.85KB
ページ数
7
閲覧数
1484
評価数
2/3
POINT
250
Rate
13.75

分類タグ

「…それじゃあ、色々と準備を始めましょうか。あなたが幻想郷で暮らすための準備を」
霊夢さんが口を開く。つい先ほどかさねという名前を貰ったと思えば、生活のための準備もしてくれるという。私としてはありがたい限りだが、至れり尽くせりで申し訳ないとも思う。
「あなたには人間の里に住んでもらうわ。幻想郷には色々な妖怪がいるけど、人間の里はそいつらに襲われない、安全地帯だもの」
それから霊夢さんは人間の里について色々と説明を始めた。妖怪が存在するためには人間が必要なこと。そのため人間を滅ぼそうとするようなことは自殺行為なのだということ。人間の里はむしろ妖怪によって守りさえされていること。その一方で、妖怪と人間は対立するものという原則は形式的なものにせよ維持されていること。
「幻想郷も色々と複雑なんですね」
「そうね。まあ、里でおとなしく暮らしていれば大した問題じゃないわ。間違ってもむやみに外に出ようとしないこと。それを伝えたかったのよ」
それから霊夢さんは腰に手を当てながら話を続ける。
「これから里に向かうわ。あなたの住む場所について色々と相談しなきゃいけないからね。ただ、その前に――」
霊夢さんが私をじっと見る。
「その恰好じゃあ里で騒ぎになるのは間違いないわね。それに大分汚れているようだし。里に向かうのは、あなたが風呂に入って、着替えてからにするわ。大丈夫よ、適当な神様の手を借りれば一瞬で水を熱湯に変えることなんて訳ないもの」
「熱湯はやりすぎなのでは…」
「冗談よ、冗談。さあ、ついてきなさい」
そういって霊夢さんは本殿の方に向かって歩き始めた。私もゆっくりとついていく。
霊夢さんは本殿の裏手の方にまわり、こっちよ、といって玄関の扉を開けた。どうやらこの神社は霊夢さんの住居でもあるようだ。
「お邪魔します」
扉を開けると、竈や流し、甕などが置かれているのが目に入ってきた。土間のようで、霊夢さんは靴を履いたまままっすぐ進んでいく。そして踏込板のところまで歩いていくと、靴を脱いで室内の方へと入っていく。私も慌てて草鞋(私が履いていたのは靴ではなかった)を脱いで霊夢さんの後を追う。
「こっちが風呂よ。ちょっと待っててね」
霊夢さんに連れられて、畳張りの部屋を抜けて、脱衣所及び浴室に案内される。
「…はあっ!」
霊夢さんが念じると、湯船に一瞬で水が張られ、更にそこから湯気が立ち始めた。
「これが博麗の巫女の力…!」
「そこまで感心されるほどのものでもないけれど…。そっちで服を脱いで。鎧は…とりあえず置いておいて。あなたが風呂に入っている間にうちの蔵にしまっておくわ。」
私は霊夢さんに言われるまま、やや手こずりながら鎧を外し、いそいそと下に身に着けていた着物を脱ぎ始めた。
「その着物…随分と汚れているわね。しかも、ただの汚れだけじゃない。血が滲んでる」
言われて着物を見ると、確かに泥や土の汚れに混じって赤黒い染みがあった。
そして、着物を脱ぎ、外気にさらされた私の素肌には、いくつかの傷があった。
「あなたも、楽な人生じゃなかったみたいね」
ぽつりと霊夢さんがつぶやく。私も同意見だ。記憶を失う前の私がどのような人物だったかは分からないが、多少なりとも流血沙汰になるような何かに関わっていたということである。
「ふぅ…」
上下の着物を脱ぎ終えた。それから、頭の後ろで結っていた髪をほどく。
「…最初に気づいたときは驚いたけど。あなた、女の子なのよね」
霊夢さんがまじまじと私の体を見ながら言う。すこし恥ずかしい。
「声が高いからわかったけど。私より一回り背が高いし、顔立ちも男っぽい部分があったから」
そうなのだろうか。しかし、そうい言われてみると、どこかで、男と間違われたことがあるような気がする。いや、むしろ…ずきり。
「どうしたの?」
「い、いえ、何でもありません。何か思い出しかけたのですが、頭が痛くなって…駄目でした」
「大丈夫?まあ、まずはお風呂でゆっくりしなさい」
そういって、霊夢さんは私の鎧を抱えてどこかに去ってしまった。
それを見送って、私は浴室に足を踏み入れた。まずは、桶で湯船のお湯を掬って頭を除く体全体にかける。
「いたっ!」
傷口に水がしみたのだ。恨むぞ、過去の自分。思わず取り付けられた鏡に映る自分の顔を睨みつける。そして、改めて自分の顔をまじまじと見る。まだお湯をかけていない髪の毛は、流れるような黒である。サイドの髪の毛は、左右の頬のあたりまで髪が下りてきているが、前髪は眉毛よりやや上に揃えられている。ぱっちりとしたつり目で、鼻筋がすーっと通っており、少年のような凛とした印象だ。霊夢さんがはじめ男と勘違いしていたのも頷ける。体は女の割には筋肉質だが、一方でしなやかさも残されている。
「…なるほど」
私はこんな顔をしていたのか。記憶喪失とはやっかいなものだ。自分の顔すら鏡を見るまでろくに思い出せなかったなんて。 
その後、私はもう一度湯船からお湯を組み、頭からお湯を被った。そして痛みに耐えながら、石鹸とシャンプーで体と髪を洗い、湯船につかった。
「ふぅー…やっぱりしみるっ!!」
湯船でゆっくりしようと思ったが、体の傷がそれを許してくれない。結局、15秒ほどしか浸かれずに、私はあわてて湯船から飛び出した。
脱衣所にはバスタオルと着替えが用意されていた。着替えは下着類に加え、紺色の着物に黒い袴というものだった。下着類は恐らく霊夢さんのものだが、着物と袴はどうみても霊夢さんには似合わない、男物であった。着替えて畳張りの居間まで戻る。そこでは霊夢さんがのんびりとせんべいを食べていた。
「もうあがったのね。もっとゆっくりしてもよかったのに」
「傷にお湯がしみて…」
「なるほど。着物のサイズは大丈夫そうね。あなた、体が大きいから私の服じゃ入らないと思って」
「じゃあこの服は誰のものなんですか?霊夢さんの家族のものとか?それとも恋人とか?」
「残念だけど私に家族も恋人もいないわ。私の何代か前に、色々事情があって神社で保護した外来人の男が居たらしくて。その時に用意したものらしいわ」
「なるほど」
「さて、行きましょうか。里に」
「…はいっ!」

コメントは最後のページに表示されます。