それから私たちは庄屋へ話をつけてきたらしい霊夢さんを伴って、三人で博麗神社へと戻った。気が付けば太陽が西に沈み、夜の幄が下りてくるころになっていた。私たちは三人で机を囲んで、夕食を食べていた。ご飯に白菜の味噌汁、キュウリの漬物によく分からない焼き魚。霊夢さんが準備したものだ。
「なんであんたまでここにいるのよ。早く帰りなさいよ」
「いいじゃないか、別に。お前の同居人をあらぬ疑いから救ってやったんだぜ」
「あ、あはは…」
食事は和やかに進んでいく。
「…かさねの弾幕については、明日検証するわよ。もし自在に弾幕を撃てるなら、色々と説明しなきゃいけないし」
「それじゃ私も必要だな。明日の朝でいいか?」
「ええ」
阿吽の呼吸で、霊夢さんと魔理沙さんは会話する。検証とは一体何をするのか。痛くなければいいけれど。
「ふぅ~、食った食った」
「満腹です」
「かさねは体格通り、よく食べるわね。」
気が付けば、目の前の料理は全てそれぞれの腹の中におさまっていた。霊夢さんの指摘に思わず顔を赤らめた。この三人の中では私が一番多く食べていた。これから居候となる身で図々しかっただろうか。
「食費が持つといいな、霊夢?」
「なんとかするわよ」
そんな軽口をたたいた後、魔理沙さんは家に帰るといって居間を出ていった。それから霊夢さんと私は(ちょっと恥ずかしかったけれど)一緒にお風呂に入った後、寝間着に着替えて布団を敷いた。霊夢さんと二人で、居間で寝ることになった。
「おやすみ、かさね。ゆっくり休みなさいよ」
「はい、霊夢さんも」
「案外明日になれば全部思い出してるかもね」
「そうだといいんですが…」
「早く記憶が戻るといいわね」
私はもう少し霊夢さんと話をしたかったが、霊夢さんが会話を打ち切って眠りたいような雰囲気だったので、それに従った。しばらくすると、となりからすぅ、すぅという寝息が聞こえてきた。どうやら霊夢さんは眠りについたようだ。一方の私は、すぐには眠ることが出来なかった。いったいこれから私はどうなるのだろう。何しろ自分で自分のことが分からないのだ。自分という存在が曖昧な中で、いったいどのように生きていけばよいのか。真っ暗闇の荒野に一人取り残されたようなものだ。自分の今いる位置も、目指すべき方向もなにもかも分からない。それでも、進みつづけるしかない。やみくもにでも進んでいれば、いつかは失われた記憶をよみがえらせる手がかりが発見できるかもしれない。今は、慣れるしかない。幻想郷での暮らしに。そんなことをぐるぐると考えているうちに、私の意識は眠りへと落ちていった。