Coolier - 新生・東方創想話

「非」幻想系ククロセアトロ或いはデウスエクスマキナ

2023/05/04 08:30:36
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金、或いは青

アリスは咲夜に迎えに来て貰うのを三日後にお願いした。
何故だろうか、少年との時間をもう少しだけ過ごしたくなったのだ。
少年は、とにかく貪欲だった。

食も、学も……肉も。

とにかくよく食べるから、嬉しくなってしまってついつい沢山作ってあげた。
作れば作るほどたいらげる。人間の食欲恐るべし。
美味しいか、と問うと、元気の良い同意が聞こえてくる。
自分はこんな美味しい食事ができていたかと羨ましく思いつつ見ているようになっていた。
視線に気付き、声をかけてくる少年、受け答えるアリス。
家の中に、沈黙の方が少なくなっていく。

とにかくよく学ぶから、教える方が大変なくらいだった。
一度成功した魔法は完全に自分のモノにしてしまう。
詠唱術式、儀式術式、速効術式、遅効術式、ただ術を憶えていくのではない、その概容を紐解こうとするのだ。発火の小魔法から、応用して大火の術法の理論までを未完全ながらも披露した。これには本当に驚かされる。本当に、あと数年程度、この生活が赦されるのなら、或いは並び立たれるのではないかという危機感すらも憶えるほどだ。
遂には人形操りにまで挑戦したが、手先が不器用なのか、それはどうしてもできないようで、我ながら卑屈なことに、安堵したのを良く憶えている。

とにかく甘えてくるから……少年のために作ったベッドは、いつしか二人の脱ぎ捨てた衣類置き場へと変わり果てた。
その脱ぎ散らかした衣服は昼夜問わずベッドへと入る度に量が増え、やがて下着が収まった。
男女の交わりではない、しかし友愛を超えた肌の重ね合い。まるで児戯のようなじゃれ合い。
求めたわけではない、本当に、甘え、受け入れ、自然にそうなっていた。
求められるという蜜の味は、思いのほか甘露であった。
シーツの下、アリスの婀娜なる裸身が揺れる。
いずれ、彼に触れられていない場所は殆どなくなっていた。
少年の、どこまでも人形のようだという褒め言葉のつもりだったのだろう感想に、少しだけ傷付いたのが、それからしばらく記憶にこびり付く。

元よりインドア主義であったアリスだ、家の中にいる時間が殆どなのは変わらない。
それは、弟子であり、恋人未満であり、弟であり、子供である少年との、淫蕩なる時間の過ごし方へと変わっていく。
四六時中、教えを説き、慰め、甘え、許し、くっつきあい、抱き合い、微笑み合い、ふれ合い、撫で合い……。
タイミングも、場所も、何もかもを選ばずに始まる授業と食事と睦。
少年が、少年で良かったと本当に思う。
この甘美な毒には、未だ裏切りの味は混ざっていない。
雄を意識せずに過ごせたことは、アリスにとって最後の言い訳ともいえた。

「――」
「ええ、そうね……その魔法の考え方は確かに水の術法で応用できるわ。私に教えをくれるパチュリーという魔女が得意な術法ね。精霊を掛け合わせた混合術を使うのよ。私のモチーフではあんな器用な事は出来ない……」

ときたま、どうしたって出てくる魔女の話題。
アリスはそれを口に出すときほんの少しだけ少年の顔色を窺う。
少年が欲しているのがなんなのか、その貪欲さの源泉を識りたがっていることに自分でも気付いていた。それほどに、この少年に絆されているのだということにも。
だが少年は、アリスにでもなく、ましてやパチュリーにでもなく、唯々魔法、それそのものへの興味を示す。
――少しだけ、それを不満に感じ始めているアリスだった。

三日と決めた日程は、あまりにも早く過ぎ行き、そして訪れる。
翌日に、件の魔女と会うことを告げると、少年は然程に興味を惹かれないような反応をしつつ、衣服を脱ぎ散らかしながらベッドに潜っていく。
追うように、人形に少年老い服を回収させながら自分も衣服を脱ぎ去りベッドに同衾する。
冷たいシーツを少年の体温が蕩かすこの時間が気に入っている。
少しだけいつもよりもひっつきたくなり少年を抱くと、彼も応えてくれた。

「――」
「ええ、そうね、一日は居ると思うけど、夜には此処に戻ると思うわよ……え? うふふ、おませさんね……」

少年の時折見せる貪欲さが自分に向いたときの嬉しさが癖になりつつあった。
恋だの愛だのには我ながら興味がない方だと思っていたが、それは識らないから言えたことだったのだろう。自分は、浸かるタイプだと気付けた。
だが、この蜜月ももうおしまい。
自分で決めていたことだ。咲夜が迎えに来るまでと。
だが……パチュリーと面会した後、問題なく帰って来られたら、又この生活にずぶずぶと沈んでいくのだろう事は容易に想像できる。

何処までも沈んでいくべきなのか、それとも気高くあろうと空を目指すか、或いは美しき蓮の花を咲かせるか――未だアリスは決めかねていた。

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