「えっ、売り切れ?そんな、今までそんなことなかったじゃないですか。どうして今日に限って」
刀を差した半霊娘は立ち尽くした。卵が売り切れるなど異常事態である。夕暮れ時ならまだしも、日没まで半日もあろうかという昼間に売り切れているのである。
「いやぁ、さっき50個も買っていったお客がいてね」
「50ですか。それはまたずいぶん・・・」
「ありゃたぶんアリスちゃんのところの人形じゃなかったかな、まだそこら辺を飛んでいると思うよ」
「ありがとうございます!」
半霊娘は礼を言うと同時に駆け出した。今宵は何としても卵を持ち帰らねばならない。主は鍋の締めには卵の雑炊と決めているのだ。それが無いととたん不機嫌になってしまう。額に玉の汗を浮かべ、炎天下の里を疾走する。遠くに人形が浮いているのが見えた。
「見つけた」
半霊娘は石段を上る。駆け上がる体力はもう残っていなかった。よろけそうになりながら人形を追いかける。ただでさえ今宵の夕飯の食材を背負っているのである。並みの娘なら動けなくなっていただろう。蝉の音があたりの音をかき消していた。相も変わらず雲一つない空である。
一度縁側に腰を下ろし、部屋の障子を開ける
「霊夢さーん。アリスさーんいますかー・・・って、何してるんですかぁ!」
半霊娘が声を上げるのも無理はない。巫女が少女の胸に顔をうずめ、少女は一糸まとわぬ姿である。少女の顔は赤く上気し、髪も体もじっとりと汗ばんでいた。半霊娘が先ほどまで行われていたであろう痴態を想像したとして、誰が彼女を責められるであろうか。実際は炎天下の中、巫女に抱き付かれた少女は暑くてたまらず、かといって安らかに眠る彼女を起こすのも悪い気がして、やむなく服を脱いだだけであったのだが・・・
「昼間から何やってるんですか!破廉恥です!」
「よっ妖夢、いや、これは違うの!暑くて、暑くて脱いだだけだから」
「あああ、暑くて我慢できなくなったんですね。そうですか。しょうがないですね。ハイハイ」
「いや、だからね」
「いいから早く服を着てください。とりあえず外に出てますから」
全く聞く耳を持たない半霊娘に途方にくれながらも少女は巫女を布団に寝かし、服を着だした。とにかく誤解を解かねばならない。それにしても、どうしてあの娘はここに来たのだろうか。
人の痴態ほど見てていやになるものはない。それが、自分の恋敵のものであればなおさらである。それも、自分が恋する魔女は、あの人形使いに恋をしているのだ。それは許しがたい暴挙である。腹立ちまぎれに近くを飛んだ蝉を一刀のもとに切り捨てた。 雲一つない暑い日である。